記憶に残る「スキマ時間勉強法」。まとまった時間がとれないなら “薄い記憶を塗り重ねて” いけばいい

塗り重ねるようにアート情報を学んでみたノート見開き

「まとまった時間をとるのが難しく、短いスキマ時間に勉強するしかない。でもスキマ時間に少しずつ勉強するぐらいでは、記憶に残らなさそう……」

と思っていませんか? 筆者もそう考えていたひとり。ですが「薄い記憶を塗り重ねる」という勉強法のメリットを知ってからは、俄然やる気が湧いてきました。

変化の激しいこの時代、創造性や直感を養うアートへの関心が高まっているそうなので、筆者もスキマ時間を使って薄い記憶を塗り重ねながら、絵画について少しずつ学んでみることに。“自分に合う勉強法” がわかり、記憶定着の効果も感じられましたよ。実践内容とあわせて紹介しましょう。

「いつの間にか覚えている」現象

筆者は記事執筆の仕事をするとき、最初のうちは何度も資料を見直しますが、そのうち大まかな部分は資料を見なくても書けるようになります。のちに確かめても大きなブレはありません。つまり、知らず知らずのうち頭に入っているのです。

ネット上の資料を見ながら執筆・編集の仕事をするビジネスパーソン

覚えたのは「分散学習」をしていたから

もしかしたら筆者の、“いつの間にか覚えていた現象” は、知らぬ間に行なっていた「分散学習」の成果かもしれません。「分散学習」とは、休憩などを入れながら、間隔を置いて学習を繰り返すこと。

たとえば筆者は執筆の際、資料を何度も読み直すあいだ、次のような行動を挟んでいました:

  • 思考の整理
  • 執筆
  • 昼食
  • 飲み物を手に数十秒ボーッとする
  • トイレのついでにストレッチ
  • 時にミーティング

もちろん日を置けばあいだに睡眠が入ります。

じつは、1回にまとめて頭に詰め込む「集中学習」の記憶よりも、この「分散学習」の記憶のほうが長続きすると言われています。これを心理学では「分散効果」と呼ぶのだとか。

理化学研究所が2011年6月15日に発表した研究によると、「集中学習」の記憶は小脳皮質に保持されますが、学習時に “休憩などで間隔を空ける” と記憶が移動して、小脳核に長期記憶として保持されるそうです。つまり後者が「分散学習」です。

また、記憶が移動して固定化されるためには、“休憩などで間隔を空ける” 際につくられるタンパク質が不可欠とのこと。

(参考:理化学研究所|運動学習の記憶を長持ちさせるには適度な休憩が必要

間を置くことって大事なんですね。

薄く・速く「繰り返す」と記憶は定着する

そして、別の観点でも、筆者の “いつの間にか覚えていた現象” が理にかなう行動に後押しされていたと気づきました。日本人初の世界記憶力グランドマスター・記憶力日本選手権大会6回の最多優勝者である池田義博氏が提唱する勉強法と、以下の点が重なっていたからです。

  • 分散学習をベースにした「3サイクル反復速習法」
  • 資料の内容を思い出しながら書く「1分間ライティング」

それぞれ説明すると――まず「3サイクル反復速習法」とは、「速くザッと終わらせる勉強」を繰り返すこと。このベースにあるのが、前出の分散効果です。

同氏は「覚えるべきことを薄く分散して覚えたほうが、記憶に定着しやすい」と伝えています。これがまずひとつ、前項で説明した筆者の行動と重なります。

(カギカッコ内引用元:STUDY HACKER|“記憶力日本一” の男の記憶術「3サイクル反復速習法」「1分間ライティング」がシンプルだけどすごい。

間隔を置いて何度も読み重ね、本の内容を記憶しているビジネスパーソン

そして「1分間ライティング」とは、短い制限時間のなかで、思い出しながら書き出すという勉強法です。これは、筆者が資料の内容を思い出しながら執筆する行為と重なっています。

池田氏いわく、こうするとアウトプット効果で記憶が強化され、覚えたかどうか確認できるそうです。覚えていないところがあぶり出されて、復習ポイントもわかるとのこと。

(参考元:同上)

もちろん筆者の場合は仕事なので、勉強とは異なりますが、記憶のスペシャリストが提唱する勉強法と似たような体験をしていることは確かです。

塗り重ねるようにアート情報を学んでみた

ここまで、筆者の仕事の体験に重ね合わせながら、“いつの間にか覚えている” 現象の背景を考えてみました。ではここで、勉強に話を戻します。

当初は「スキマ時間に少しずつ勉強するぐらいでは、記憶に残らないではないか?」と思っていた筆者。ですが上述の内容をふまえると、間を空けながらスキマ時間に勉強することはむしろ、記憶の定着に好条件だと気づきました。

なお、池田氏の「1分間ライティング」では、まだ覚えていない箇所がたくさんあっても、能動的に書き出そうとしなければならないそうです。なんだか難しそうに思えてしまうのですが、じつはここにも勉強の質が高まる理由が。

大変でも “思い出そう、書き出そう” とすることが、記憶の定着に効果的なのです。スタンフォード大学オンラインハイスクール校長の星友啓氏も、ノートや教科書を見ずに思い出そうとするのは大変だが、ただ書かれたものを見直す “やったつもり” だけの復習より、ずっと効果的だと伝えています。

(参考元:AERA dot.|スタンフォード大学オンラインハイスクール校長が伝授「あらゆる年代に使える」3つの勉強法

それなら、まずはやってみましょう!

池田氏が提唱するメソッドを参考に、以下のサイクルを1分~5分ほどのスキマ時間で行なっていきます。

  1. 資料をすべてザッと読む(3,500文字ほど)
  2. 読んだ内容を思い出しながら1分間書き出す
  3. それをあと3回(計4回)繰り返す

ちなみに今回学ぶのは、アメリカの画家エドワード・ホッパー氏と、同氏が描いた「ナイトホークス」についてです。

参考資料をザッと読み――のちに書き出します。

1回め資料をザッと読んで、思い出しながら1分間書いてみたらスカスカだった。

ビックリするほどスカスカです。1分間って、ものすごく早い……。

再び参考資料をザッと読み――また次のスキマ時間に書き出します。筆者にとって1分間は早すぎたので、3分間にしてみました。

2回め時間制限を3分間にして覚えた内容を書き出してみた。

それでもやはり、ほとんど書けない。なんだか意欲が減退してきました。

気を取り直して、再びスキマ時間に参考資料をザッと読み――また次のスキマ時間に書き出します。

3回目、読んで覚えた内容を書き出してみた。

なんとなく記憶がつながってきたような気がしてきました。でも、やはり思うようには想起できず、焦りと自信のなさから、だんだん字がミミズのようになってきましたよ。

再び気を取り直して、とりあえず今回の試行最後のサイクルに突入します。ザッと読んで――間を置いてから書き出します。

4回目、読んで覚えた内容を書き出してみた。

(ノートの中身参考元:artscape|エドワード・ホッパー《ナイトホークス》──自由だけど孤独「江崎聡子」 ※見出し「アメリカとは何かを追い続ける」~見出し「近代都市の夜の原型」まで)

うーん、悔しい。もう少し書き足したかった! そう感じたのが率直な感想です。

とはいえ、よく考えたら対象の絵もその作者のことも、詳しいことはほとんど知りませんでした。しかし、1分~5分ほどのスキマ時間に「ザッと読んで、また違うスキマ時間に書き出して」を4サイクル行なっただけで、最初は知識ゼロの状態だったのに、

エドワード・ホッパー1882年生まれ、1967年に永眠。1942年60歳のとき、アメリカに夜景が生まれたころ「ナイト・ホークス」を描き、シカゴ美術館に3,000ドルで買い取られた。

といった内容を、2日間置いても資料を見ずに思い出せるようになりました。もしかしたら、これはちょっとした成果と言っていいのかもしれません。これらの記憶は小脳核に移動して、長期記憶になったようです……!

***
この小さな成果をふまえ、今後はアート関連の書籍や、そのほかのジャンルにも挑戦してみたいと思います。

スキマ時間で効率よく勉強したいとお考えのみなさまに、少しでも参考になれば幸いです。

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。

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