「後輩をどう支えたらいいかわからない。チームの雰囲気がいまいち。自分にリーダーは向いてないのかな……?」
そんなことを感じている方へ、マネジメントや心理学の研究者たちの解説をふまえた、よりよいリーダーになるためのヒントをお届けします。
高い実績を挙げた経営者、人望の厚いリーダーといった「すごい上司」たちには、こんな “口癖” があるようです。あなたもぜひ取り入れてみてください。
1.「進捗はどう?」とサポートする
マネジメント力に優れ、チームを成功に導く「すごい上司」たちは、部下が満足感をもって仕事に取り組めるようサポートする努力をいとわないようです。その姿勢は「進捗はどう?」という部下への頻繁な声かけに表れます。
仕事から得る満足度の重要性を説くのは、ハーバード・ビジネス・スクール教授のテレサ・アマビール氏と、心理学者のスティーブン・クレイマー氏。彼らは、大小さまざまな企業に記録された日報を分析し、働き手の感情と企業の業績の関連性を発見しました。
なんと、働き手がどのような感情やモチベーションで仕事にあたっているかが、企業の業績を左右するほどの影響力をもっているというのです。アマビール氏らは、これを「インナーワークライフ(個人的職業体験)」と名づけました。
たとえば、実際に倒産した企業の日報を徹底的に研究したところ、業績不振の原因が、働き手のインナーワークライフを軽視していたためだとわかったとか。「働き手の気分」などとるに足らぬ小さなこと……そう考えるのは、どうやら間違っているようです。
インナーワークライフを高める方法について、アマビール氏らはこう述べています。
インナーワークライフに影響を与えるすべてのポジティブな出来事の中で、最も強力なのがやりがいのある仕事が進捗することである。
(引用元:テレサ・アマビール 著, スティーブン・クレイマー 著, 中竹竜二 監訳, 樋口武志 訳(2017),『マネジャーの最も大切な仕事』, 英治出版. ※太字は筆者が施した)
手がけている仕事が頓挫したり停滞したりせず、少しでも前に進んでいると実感できる――これが、働き手のインナーワークライフを向上させる、一番効果的な方法だということ。すなわち上司のすべきことは、「進捗はどう?」と部下の仕事の進み具合を気にかけることだと言えます。
直接尋ねなくても、日報を毎日必ずチェックして、フィードバックを欠かさないことが大切。リソース不足や人間関係のトラブルを抱えているとわかったら、可能な限りのサポートを行ないます。進捗を阻む障害があると、部下は不信感をつのらせ、やる気をなくしてしまうからです。このように、部下がやりがいを感じる仕事がスムーズに進むよう支援することが、上司の仕事なのです。
アマビール氏らの著書の監訳者であり、指導者育成を行なう中竹竜二氏は、以下のエピソードを紹介しています。
オムロン ヘルスケア株式会社の営業課長が、売り上げの伸び悩みをきっかけに、マネジメント法を見直した。営業スキルの指導を重視するスタイルから、「ワクワクできる小さな目標を立てるようサポートし、進捗具合を毎日一緒に振り返る」スタイルへ変えることに。その結果、以前よりはるかによい成果が出始めた。
成果が出るチームをつくるため、部下の仕事の進捗に日々着目し、彼らの満足感を高めるというアプローチをとってみてください。思いがけない変化が起こるかもしれませんよ。
2.「○○がうまくいっていたね」とほめる
人望が厚く、部下のやる気を引き出せる「すごい上司」は、部下を「ほめる」ことを欠かしません。
世界的大ベストセラー『人を動かす』の著者デール・カーネギー氏は、他者と関わるうえで最も大切なのは「自己重要感をもってもらうこと」だと言います。自己重要感とは、自分の存在には価値があり、重要であると思える感覚のこと。同書によれば、心理学者のウィリアム・ジェイムズ氏が、「自己重要感をもちたい」という気持ちは人間の抱く最も強い感情のひとつであると述べたそう。
そんな自己重要感を他者にもたせるためにすべきこととして、カーネギー氏が強調するのが「ほめる」こと。同書のなかでこんなエピソードが紹介されています。
ある労務管理者が、勤務態度の悪い用務員に困り果てていた。しかし、彼がまれによい仕事をしたときは人前でほめるようにしたところ、その用務員の勤務態度は、すっかり改善した。
では、どのようにほめるとよいのでしょう。
「デール・カーネギー トレーニング・ダイレクター」の石原由一朗氏によると、カーネギー氏はほめる対象のひとつとして「行動」を挙げているそう。上のエピソードのように、成し遂げたことやよかった振る舞いを見つけ、称賛するのです。
部下の行動をよく観察して、「会議の発言、よかったよ」「報告書が読みやすかった」などよい行動を見つけ、ほめましょう。「上司は自分のことをちゃんと見てくれているんだ!」という感覚を部下にもたせることができますよ。
3. 叱るかわりに「次はどうしますか?」
失敗したとき、目標に到達できなかったとき、人を育てる「すごい上司」たちは部下を叱りません。叱るよりも「次はどうしますか?」と言うほうが、部下が育つと知っているのです。
臨床心理士の中島美鈴氏は、上司が部下を叱ることに効果はないと述べます。「『そんなやり方ではダメだ』と叱れば、次は行動が改善するはずだ」という考えは、正しくないというのです。なぜなら、部下の行動をただ否定するだけでは、「本来はどう行動すべきなのか」が伝わらないから。それどころか、部下は「叱られないようにしよう」という消極的な働き方をするようになる恐れもあるのだとか。
そこでぜひ、改善策や代替策を部下に尋ねるフレーズを使いましょう。研修トレーナーの伊庭正康氏によると、星野リゾート代表取締役社長の星野佳路氏は、部下によく「で、どうしますか?」と問いかけるそうです。
そんな星野氏の口癖にならって、部下が失敗したときは「では、次はどう改善しますか?」と尋ねてみるといい――そう伊庭氏は提案します。
なお、上司自らが「次はこうしてください」などと指示しないこともポイントだそう。その理由は、「自分で考えて決定した」という「自己決定感」にあります。人は、言われたことをただやるよりも、自分で考えて行動するほうがやる気を感じやすいのです。
「改善策を考えるきっかけ」をつくってあげれば、部下の意欲は高まり、主体的に働いてくれるようになります。実際、星野氏からどうするかと問われたある社員は、「やるしかない」とやる気を新たにしたそうですよ。
4.「ありがとう」の気持ちを伝える
部下からの人望を集める「すごい上司」たちは、当たり前のように部下へ感謝の気持ちを伝えています。なぜなら、メンバーがいてこそ、チームがあってこその会社だと知っているから。さらには、感謝の習慣こそが、組織を円滑に回すために必要不可欠だとわかっているからです。
このことを教えてくれるのは、株式会社セールスフォース・ジャパンのカスタマーサクセス統括本部長・宮田要氏。同氏によれば、「自分は会社にとって必要な存在だ」とメンバーに思わせることがリーダーの仕事。
その手法のひとつとして宮田氏は、独自のアワードを数多く用意し、メンバーの働きぶりに感謝しているそう。◯◯賞、××賞とさまざまな表彰を通じて、一見目立たないメンバーにも注目する場を設けていると言います。
心理学的にも、感謝の与えるポジティブな影響が明らかになっています。ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のアダム・グラント氏と、ハーバード・ビジネス・スクール教授のフランチェスカ・ジーノ氏らにより、感謝されると「社会的にいいことをしたい、貢献したい」というモチベーションが高まることがわかりました。
部下への感謝の言葉を口にすることで、助け合い精神のあるポジティブな社風をつくることができるのですね。
「いつもわかりやすい報告をありがとう」「業務改善を提案してくれてありがとう」――部下たちが自主的にかつ喜んで働ける場を用意できるよう、これからはチーム全体への感謝をいっそう心がけてみませんか?
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他者を尊重することが、よきリーダーになるための鍵でした。口癖なら、比較的楽に変えていけるはず。ぜひ取り入れてみてくださいね。
【ライタープロフィール】
平野ももこ
大学ではフランス文学を専攻し、物語のなかの人の心を中心に研究。出版社を経営していた祖母の影響もあり、純文学、心理学、ビジネス書など幅広く読む大の読書家である。現在は、メンタルケアやカウンセリングを勉強中。バレットジャーナルの実践を通じ、生活改善に成功し続けている。
(参考)
テレサ・アマビール 著, スティーブン・クレイマー 著, 中竹竜二 監訳, 樋口武志 訳(2017),『マネジャーの最も大切な仕事』, 英治出版.
D・カーネギー 著, 山口博 訳(1999),『人を動かす』, 創元社.
社会保険労務士PSRネットワーク|カーネギー流「人を動かす」効果的な褒め方
朝日新聞デジタル|部下を叱っても意味がない5つの理由
プレジデントオンライン|一流のリーダーは「で、どうしますか?」と聞く
Forbes JAPAN|メンバーを尊重し、感謝の気持ちを伝えることの大切さ。最高の先導者が語る、優れたリーダーの条件
Harvard Business Review|Be Grateful More Often
Grant, Adam M. and Francesca Gino (2010), "A little Thanks Goes a Long Way: Explaining Why Gratitude Expressions Motivate Prosocial Behavior," Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 98, No. 6, pp.946-955.