メールを書くとき。企画書をつくるとき。状況を文書で報告するとき。ビジネスのあらゆる場面で必要とされるのが「文章力」です。うまい文章を書きたいけれど、文章がすらすら出てこない、時間をかけるわりには全然進まない……そんな「書けない」あなたが陥っているかもしれない、3つのNGをお伝えします。「書ける人」と「書けない人」は、何が違うのでしょうか。
【NGその1】自意識過剰
書く以前に、書き始める踏んぎりがつかない人はいないでしょうか。たとえば、取引先に送る提案メールを書こうとしても、何から書き始めたらいいかわからず「変なことを書いたらどうしよう」と手が止まってしまう……といったことはありませんか。そんなとき、あなたの書き始める決心を邪魔しているのは、「自意識」かもしれません。
書けないのは自意識のせいだと言うのは、編集者で株式会社WORDS代表取締役の竹村俊助氏です。竹村氏は、文章が書き始められないのは、自分への期待が高いからだと言います。「最初から完璧な文章を書けないと恥ずかしい」「きれいな文章だと思われたい」そんな期待が、「うまく書けなかったらどうしよう」というためらいにつながるのです。
一方で、文章をすぐ書き始められる人は、そんな自意識をいったん捨てて、「なんでもいいからまず書く!」という気持ちをもっているもの。先ほどの取引先へのメールなら、まとまっていなくてもいいからまず下書きとして書いてみて、上司に読んでもらう。そうしたら、具体的な修正点が見つかるかもしれないし、案外うまく書けていてそのまま送れるかもしれません。
誰しも、失敗を恐れる気持ちはあります。けれど、まず書かないと先に進めないのです。失敗は練習のうちに(取引先にメールを送信する前の上司チェックを受ける段階で)しておけばいい。竹村氏は「スベっても誰も見てない」と言います。
失敗を恐れる必要はないのです。成功だけが目立つからです。(中略)スベったものは流れていくだけです。一方、反響のあったものはみんなに知られていくわけです。いちいち失敗を気にしていては、何も発信できなくなってしまいます。
(引用元:竹村俊助(2020),『書くのがしんどい』, PHP研究所.)
うまく書けなかったらどうしよう……とためらっている方。うまい下手は気にせず、まず書く。これを心がけてみてください。
【NGその2】思考停止
さて、いざ書き始めても、言葉が出てこず詰まってしまう。企画書で商品の魅力を伝えたいのに、伝えたいことが言葉にならない。ありきたりな言葉ばかり使ってしまう……。そんなことはないでしょうか。書こうとしても書く内容が出てこない、その原因は、あなたが「思考停止」してしまっているせいかもしれません。
文章術に関する著作が多数ある山口拓朗氏は、「文章を書くうえで、思考停止は大敵だ」と言いきります。山口氏いわく、文章を書くという行為は「なぜ、そう感じたか」「なぜ、そう考えたか」という問いに答えること。思考なくして答えは出ず、文章を書くこともできないのです。
たとえば、自社の化粧品を売り込む文章を書くときに、思考停止している人は「いい商品なんです!」としか書けず、そこから先へ深堀りできません。一方、「なぜいいのか」「なぜすすめるのか」と理由を深く深く掘っていく人は、文章をどんどん書き進めることができます。
世界的に有名なトヨタ生産方式において徹底されている「5WHY」という分析方法があります。その名のとおり、「なぜ(WHY)?」を5回繰り返して真因を突き止めるというもの。もとは問題解決のフレームワークですが、思考停止している頭を働かせて文章に説得力をもたせるのにも有効であるはずです。
実際に「5WHY」を試してみましょう。
→WHY1:なぜよいのか?「長時間落ちにくいから」
→WHY2:なぜ落ちにくいのか?「落ちにくい配合を研究したから」
→WHY3:なぜ研究したのか?「口紅の落ちやすさに悩んでいる人がたくさんいるから」
→WHY4:なぜ悩んでいるのか?「食事中など、口紅が落ちていないかが気になるから」
→WHY5:なぜ気になるのか?「いつでもばっちりおしゃれに見られたいから」
以上から文章を書くと、このようになります。
どうでしょう、商品のよさの説得力が格段に増しましたよね。
「5WHY」が基本ですが、現在では必ずしも5回にこだわる必要はないとされていて、とにかく納得がいくまで「なぜ?」を繰り返すのが重要だそう。文章が書けずに困ったら、「なぜ?」と考えることで思考停止を脱しましょう。
【NGその3】独りよがり
書き進めてみても「やっぱり自分の文章は下手だ」と感じるかもしれません。なんとなく読みづらい。でも、どこをどう直せばいいのかわからない。やっぱり自分にはうまい文章なんて書けないんだ……。そう思う方は、まだ諦めないでください。あなたの文章が読みづらく感じる理由、それは「独りよがり」な文だからかもしれません。
「書き手が『書きたいこと』と、読み手が『読みたいこと』はたいていズレている」と述べるのは、前出の竹村氏。たとえば取引先へのプレゼン資料で、あなたがいくら自社商品の歴史や開発の苦労を並べ立てて壮大な文章を書いても、取引相手が知りたいのは「じゃあ、その商品はうちのどんな利益になるの?」ということ。「聞いて聞いて!」という気持ちだけでは、人に読まれるうまい文章は書けません。逆に、うまい文章を書ける人は、「何を書きたいか」ではなく「人が読みたいと思うことは何か」で文章を書くのです。
そうはいっても、人に読みたいと思ってもらえる文章がどんなものかわからない。そんな方に試してほしいのが、博報堂スピーチライターのひきたよしあき氏がすすめる方法です。それは、ひとりの読者をありありとイメージすること。
たとえば、アパレル企業のA社にコラボ商品の提案をするため、自社の化粧品について説明する文章を書くとします。そのとき、まず「それを読むのはどんな人か?」をとことん具体的に考えるのです。
この文章を読むのは、A社商品開発部の鈴木ひとみさん、34歳。既婚で1児の母。年齢はA社と当社のターゲット層より上だが、職業柄、若者のトレンドは敏感にキャッチしている。鈴木さんはトレンドを主観的にも客観的にも見ている人。2社の相性や話題性に加えて、当社商品の品質の高さによって若者以外にターゲットを広げられることも売り込みたい……。
このように、ひとりの読者をありありと思い浮かべると、書くことがおのずと具体的に決まっていきます。そうして出来上がった文章は、書き手の都合だけで書いた独りよがりなものではなく、「読みたい!」と思ってもらえるものになるはずです。
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自意識過剰、思考停止、独りよがり。文章を書くうえで、この3つが大きな敵となること、おわかりいただけたでしょうか。誰しもが陥る可能性のある、この3つのNG。自分の中のNGを追い出して、あなたの文章をレベルアップさせてください。
(参考)
竹村俊助(2020),『書くのがしんどい』, PHP研究所.
山口拓朗公式サイト|伝わる文章の書き方/脱・思考停止!
Wikipedia|なぜなぜ分析
bizocean|5WHYの意味と事例
ひきたよしあき(2019),『博報堂スピーチライターが教える 5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』, 大和出版.
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。