今日もいまひとつ調子が出ない。目はかすむし脳も働かない。どこでも買えてリーズナブルで、即効性のある薬はないだろうか……。
あります! でも薬ではありません。駅でもコンビニでも、どこでも買えて、しかも安い。その名は「ガム」です。
ストレスを避けられない現代人に、医学の専門家がこぞって「噛みなさい」と言う理由を説明します。
なぜストレスがあると疲れ目になるのか?
自律神経には、活動・緊張モードの交感神経と、リラックスモードの副交感神経があります。心身ともに健康的な生活を送るには、この2つのバランスが大切です。
しかし、ストレスや緊張が強い状態になると、交感神経が活発になりすぎてしまうのだとか。いわゆる自律神経のバランスが乱れている状態です。
このときに現れる体調不良のひとつが、“目の疲れ” なのだそう。泉岡医院院長・内科医の泉岡利於先生は、目の筋肉が過度に緊張すると→筋肉が収縮して硬くなり→血管を圧迫して目の血流が悪化→疲れ目を招くと説明しています。
加えて、テレビやパソコンの画面が発する光は交感神経に刺激を与えやすく、疲れ目の悪循環の一因になっているそう。
なぜストレスが脳の働きを低下させるのか?
泉岡先生によれば、疲れ目のときには脳の前頭葉に影響が及び、頭全体がぼんやりしたり痛んだりするとのこと。つまり、ストレスがかかると自律神経が乱れ、その結果、疲れ目になって前頭葉を刺激し、脳の働きを低下させてしまうわけです。
また、慢性的なストレスは、記憶力や思考力を低下させるといいます。名古屋女子大学教授で、咀嚼と脳の研究所(Institute for Mastication and Brain Sciense:IMBS)の所長でもある久保金弥氏は、「ストレス状態が続くと、海馬で新しい神経細胞が生まれにくくなり、認知機能が低下することがわかっている」と話します。
このように、現代人が日々さらされているストレスは、大切な目と脳の働きを悪くしています。
では、どうしたらいいか?
今日から「ガム」習慣を取り入れましょう!
最新研究「ガムは目に効く」
北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科・視覚機能療法学専任講師の浅川賢氏は、平均年齢21歳の健康な学生10人に協力してもらい、次の実験を行ないました。
市販のミント味のガムを噛む前と噛んだあとに、安全な光を白目に照射し、血流変化を測定。味覚による影響を考慮して、次の3つの条件下で行ないました。
- 何も口に入れない状態
- アメを舐めたあと
- ガムを噛んだあと
その結果、ガムがはっきりと効果を示したそうです。 ガムを噛む前(アメを舐める前)の血流を100%とした場合、アメを舐めたあとは平均で105.7%である一方、ガムを噛んだあとは167.6%と、噛む前の約1.7倍も血流が上がっていたのだとか。
何も口に入れていない場合と、アメを舐めたあとの場合では、ほとんど差が見られなかったことから、味覚ではなく噛むことこそが、白目の血流をよくすると明らかになりました。
浅川氏は、カメラのレンズのような働きをする水晶体の調節にかかわる「毛様体筋」という筋肉に、咀嚼がいい影響を及ぼすのではないかと推察しています。
つまり、ガムを噛むことには、目の疲れを改善させたり、ピント合わせ機能を向上させたりする効果があると期待できるわけです。
最新研究「ガムは脳にも効く」
わたしたちのカラダは、ストレスがかかるとストレスホルモンを分泌し、生体の危機に備えようとします。カラダにとって必要なことですが、これが長く続くと、さまざまな不調を引き起こしてしまいます。
しかし、その際に咀嚼運動を行なうことにより、過剰なストレスホルモンの分泌が抑えられるそうです。
久保氏によれば、ストレス条件下で「木の棒を噛ませたマウス」と「木の棒を噛ませなかったマウス」を調べたところ、前者の “よく噛んだマウス” のストレスホルモンが減少し、ストレス反応が緩和されていたのだそう。「木の棒を噛ませなかったマウス」=咀嚼運動を行なわなかったマウスに関しては、記憶の中枢である海馬での、新生細胞数が減少していたとのこと。
また、若年層と高齢層のボランティアにそれぞれガムを噛んでもらい、fMRI(磁気共鳴機能画像法)で脳活動を調べたところ、明らかに大脳皮質の運動野と感覚野を中心に、脳の活動が高まっていたそうです。64種類の写真を差し替えて、差し替え前との違いを見つけるテストを行なった際には、2分間ガムを噛んだ高齢者の正答率がアップしていたとのことです。
Q. ガムはどのくらい噛めばいい?
浅川氏によると、ガムは1日に1回、10分間を目安に噛むといいそうです。ちなみに、スルメでも効果は同じとのこと。
また、歯の状態や好みの関係で、ガムやスルメを噛むのが難しいのであれば、普段の食事をできるだけよく噛んで食べることを心がけ、歯ごたえのある食材を積極的に選ぶようにするといいとのことです。
現代人の咀嚼回数は次のようにグンと減っています(「東京都福祉保健局 食育サポートブック」より)。
- 1000年前の食事:平均咀嚼回数は1,400回
- 80年前の食事:平均咀嚼回数は1,400回
- 現代の食事:平均咀嚼回数は620回
食事への配慮だけでも、ずいぶん変わるかもしれませんね。
久保氏は、1枚のガムの咀嚼回数が約550回(現代の食事と同等の回数)でありながら、カロリーはたったの10kcal程度であることを説明し、場所や時間を選ばず「ながら噛み」できるガムを強く推奨しています。
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目と脳に効く咀嚼について掘り下げました。食後、テレビを観ながら、可能であれば勉強や仕事をしながら、ぜひガムを噛んで効果を感じてくださいね。
(参考)
ケンカツ!|最新研究で判明!ガムを噛むと目の血流がよくなり機能が改善
メガネスーパー|内科医に聞く。ストレスと疲れ目の関係とは
NHK健康チャンネル|【自律訓練法のポイント】自律神経のバランスをとりリラックスするトレーニング
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STUDY HACKER 編集部
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