植木理恵さん「いちど “運のせいにする” 人ほど成功する」――いつも努力頼みだとメンタルが危うい。

植木理恵先生が行動心理学について教えてくれた01

何かがうまくいったときには「運が良かった」。うまくいかなかったときには「運が悪かった」。このように「運のせいにする」のは、あまり好ましくないことのようにも思えます。特に仕事上のことであれば、もっときちんと勉強や研究をしたという裏づけがないと意味がないのではないかと思うかもしれません。

でも、心理学者の植木理恵(うえき・りえ)先生は、「特に日本人は努力を重視しすぎ」だと語ります。「運のせいにする」ことのメリットは、どういうところにあるのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

行動を変えて考え方を変える行動心理学

心理学と一言でいっても幅広いものです。これまでアメリカを中心に流行ってきたのは「認知心理学」。これは、「頭の中の考え方で行動が変わる」という心理学です。

一方、比較的新しい分野で私が専門のひとつとしているものに「行動心理学」があります。これは、認知心理学とは対照的に「行動が変わるから考え方が変わる」という発想の心理学です。「悲しいから泣く」こともありますが、「泣くから悲しい」こともあるというわけです。

この行動心理学は、医療の現場にも広まりつつあります。たとえば、心の病気を抱えている患者に対して、誇大妄想など考え方のゆがみを是正するだけではなく、大股で歩いてみようとか、朝ごはんを食べてみようというふうに行動させてみる。行動を変えることで心を元気にするというわけです。

私たち日本人がイメージしやすいものとしては、禅宗が行動心理学に近いかもしれませんね。一般的には、説法を聞くなどして頭の中の考え方を変えて行動も変えていくというのが宗教の基本です。でも、禅宗は違いますよね?

まず座禅をしてみる。ただ座ってみるのです。経験したことがある人ならわかると思いますが、なんの知識もなくても、座禅をするだけで心のありようが少なからず変わるものです。そういう点で、限りなく行動心理学に近いものだと思います。

植木理恵先生が行動心理学について教えてくれた02

自分のことではなく、変わっていく「運」に重きを置く

この行動心理学を、よりハッピーに働いて生きていくために日常生活に取り入れてみましょう。

私は著書のなかで「運のせいだと思い込む人ほど成功する」ということを説いてます。これがどういうことなのかを解説してみたいと思います。これは、ワイナーという心理学者の説から導いた内容です。

人間は何かがうまくいかないというときに、「なぜ?」という問いを必ず心のなかで立てます。そのうまくいかないことの内容によっても、いろいろな理由がありそうですよね? でも、その理由は分類すると4つにしかならないのです。

その4つとは、「自分の内的なものであるかそうではないか」「可変的かそうではないか」という2つの軸によって分けられる4つのケースです。その4ケースに、人間の行動原因はすべて含まれるのです。

では、「運」の場合はどのケースになるでしょうか。運は自分の内にあるものではないですよね。勝手に外からもたらされるものです。また、朝のテレビ番組の占いで今日は最悪でも明日は最高になるかもしれませんから、可変的です。つまり、運とは「自分の内的なものではなく、かつ可変的なもの」であるわけです。

この「自分のことじゃないし、変わっていくよ」というものに重きを置くことは、じつはメンタルにとってはすごくいいこと。なにかいいことが起きた場合だけではなく、悪いことが起きたとしても「運が悪かっただけだから」「今度はうまくいくかも」といってケロッとしている人って、やっぱりハッピーですよね。ハッピーであることは、日々を生きて元気に仕事を続けていくうえで、とても重要であるはずです。

植木理恵先生が行動心理学について教えてくれた03

失敗したら、いちど、運のせいにしたあとで行動を変える

ほかのケースについても解説しておきましょう。

「自分の内的なものではなく、かつ可変的ではないもの」というと「課題」が挙げられます。営業がなかなかうまくいかないビジネスパーソンが「こんな商品じゃ売るのは無理だよ」と考えるというようなことです。こういう人は傍観者タイプといえます。自分自身の人生を歩むことが難しくなりますから、ハッピーとはいえません。

また、「自分の内的なものであり、かつ可変的なもの」というと、「努力」があてはまります。営業に失敗したとしたら、「もっとまめに営業先に足を運べばよかった……」というふうに考えるようなことです。

日本人は努力が大好きですから、学校の先生も職場の上司も「努力をするように」と教育します。でも、努力をしてもうまくいかなかったときは、精神的にはかなりきつい状態です。「努力が足りなかった」と反省して努力をし続ける人は、偉いかもしれませんが、やはりハッピーではありません。

それから、「自分の内的なものであり、かつ可変的ではないもの」というと、「才能」が挙げられます。遺伝的に決まってしまっている才能やルックスを失敗の原因に考えてしまうと、それこそ絶望しかありませんよね。

もちろん、ずっと運のせいにし続けてしまっては、その後の成長はありません。そうではなく、「いちど、運のせいにする」人が強いのです。何かに失敗してしまったときには、「今回は運が悪かったから」と、まずはいちど、運のせいにする。そうしてメンタルの安定を図り、その後は努力のやり方を考えるなど行動を変えていけばいいのです。

植木理恵先生が行動心理学について教えてくれた04

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賢い子になる子育ての心理学

賢い子になる子育ての心理学

  • 作者:植木 理恵
  • ダイヤモンド社
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【プロフィール】
植木理恵(うえき・りえ)
1975年生まれ、大分県出身。心理学者。お茶の水女子大学生活科学部卒業、東京大学大学院教育学研究教育心理学コース博士課程修了。2004年から2007年にかけて文部科学省特別研究員を務める。日本教育心理学会から2000年に城戸奨励賞、2005年に優秀論文賞を授与される。現在は都内総合病院のカウンセラー及び慶應義塾大学理工学部非常勤講師を務めながら、テレビ等メディア出演も精力的にこなしてる。『人間関係の困った!が100%解決する行動心理学』(宝島社)、『「やる気」を育てる! 科学的に正しい好奇心、モチベーションの高め方』(日本実業出版社)、『幸運を引き寄せる行動心理学入門』(宝島社)、『マンガでわかる! すぐに使える行動心理学』(宝島社)、『植木理恵の人間関係がすっきりする行動心理学』(宝島社)、『図解 使える心理学』(KADOKAWA)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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