質のいい学びが長く続く “理想の学び方”。「将来のために何を学ぶべきか?」は考えないほうがいい

質のよい学びに励んでいる女性ビジネスパーソン

社会人たるもの、日々学ばなければならない――。多くの人が、社会人になった瞬間から上司や先輩に口酸っぱく言われてきた言葉だと思います。そうして学ぼうとするとき、「なぜこれを学ぶ必要があるのか?」と考えていないでしょうか。

しかし、広く「社会人の学び」に関わる仕事をしている荒木博行さんは、「学ぶ理由を考えることは危険だ」と語ります。その言葉の真意を聞きました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
荒木博行(あらき・ひろゆき)
住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て株式会社学びデザインを設立。株式会社フライヤーなどスタートアップのアドバイザーとして関わるほか、武蔵野大学、金沢工業大学大学院、グロービス経営大学院などで教員活動も行なう。音声メディアVoicy「荒木博行のbook cafe」、Podcast「超相対性理論」のパーソナリティーを務めるとともに、一般社団法人うらほろ樂舎のラーニング・デザイナー、株式会社COASにおけるホースコーチング・プログラムディレクターも務める。『自分の頭で考える読書』(日本実業出版社)、『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)、『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

必要性にとらわれた学びは、長続きせず学びの質も上がらない

僕は、著書などを通じて、「『なぜ学ぶのか?』という問いについては考えないほうがいい」と伝えてきました。なぜなら、仮に「そんなことは考えなくていい」と言ったところで、結局は多くの人が考えてしまうからです。

これには、子どもの頃からの経験が影響しています。「志望校に合格するにはどうすればいいのか?」「古文の点数が足りない」「だから古文の勉強をしなければならない」というように、勉強する理由を常に探す経験を僕たちは繰り返してきました。

そういった姿勢が多くの人に染みついていて、考えようとしなくても学ぶ理由を考えてしまうため、「『なぜ学ぶのか?』なんてことは考えなくていい」というくらいの緩い意識をもっていたほうが、力が抜けたかたちで学びに向き合えるのではないかと僕は考えているのです。

学ぶ理由を考えると、必要性ばかりにとらわれてしまいます。「数年後には管理職になるかもしれない」「それに向けていまなにを学ぶべきか?」「人事労務と会計を学ぼう」というように、必要性ばかりに目を向けてしまう。でも、必要性からスタートした学びには自分自身の興味関心から生まれるモチベーションが不在になりがちで、結局は長続きしないとか学びの質が上がらないといった状況にもなりかねないのです。

ビジネス書には、「逆算で考えるべきだ」というようなことがよく書かれています。「数年後にこうありたい」といったゴールから逆算し、勉強などそのゴールに達するために必要なことが事前にわかれば、効率的にゴールに至れるという理屈です。

もちろん、そうした考えや勉強も尊いものですし大事なことでもあるでしょう。ただ、僕自身としては、自分のなかにある興味関心や好奇心の声にもっと耳を傾けて、「本当に学びたいこと」を学ぶ比率をもう少し上げてもいいのではないかと思っています。

学びについてのとらえ方について語る荒木博行さん

学ぶ理由を考えると、学びの幅が広がらない

また、学ぶ理由を最初に考えてしまうと、学びの幅が広がらないというデメリットも生まれます。必要性にとらわれるため、自分で「これは必要だ」と思っているものの「脇」におもしろいものがあっても感じることができない。「これは必要ないな」と思い込んでしまい、新しいことを学ぶ機会を逸してしまうのです。

これに似たような状況は、商談の場でも見られます。「今日の商談でとにかくこの商品を売るぞ!」と意気込んでいると、会話そのものを楽しめなくなります。でも、会話の広がりのなかで新たなビジネスチャンスが見つかるのもよくあることです。

余裕をもって会話の広がりを楽しめていたのなら、「御社にはそういう課題もあったのですか」「だったら、弊社のこんなサービスがマッチするかもしれません」というように、「脇」にあるビジネスチャンスをつかむことができます。

それなのに、意気込んでいるあまりに「その話はさておき、本日はですね……」と、商品を売るという本題にすぐに入ろうとすると、せっかくの新たなビジネスチャンスをみすみす逃してしまいます。

話を学びに戻すと、現時点での必要性は置いておいて、とにかく自分の心が動く、面白そうだと感じるものを追求してみるのがポイントです。現時点での仕事に必要なくても、いつどのようなきっかけで仕事に役立つかは誰にもわかりませんし、単純に好きなだけで、ある瞬間に仕事とつながることだって決して珍しくはないからです。

学びの幅について語る荒木博行さん

かたちを決めずに、とにかく「ブロック」を積み重ねる

つまり、先の逆算の話ではないですが、先にゴールを決めない、規定されたかたちを意識しないのが肝要です。「将来的にこういうかたちにしたい」「するべきだ」と考えるからこそ、自分自身で学びの幅を狭めてしまいます。

そうではなく、とにかく好奇心に従ってなんでもいいからブロックを積み重ねていくのです。するとあるとき、突然なんらかのかたちに見えてくることもあります。「あれ、これってなんとなくゾウに見えない?」「尻尾をつければゾウのかたちになりそうだ」と思ったら、尻尾をつけてみる。そこで初めて、仕事というかたちにすればいいのです。

そもそも論ですが、「これは将来的に仕事に役に立つだろう」という損得勘定で考えるのはあまりいいことではありません。好きで学び始めたのなら、たとえ将来的に仕事につながらなくとも、好きなことについて詳しくなっただけでも喜びを感じられます。

しかし、好きでもないのに「これは将来的に仕事に役に立つだろう」と考えて学んだことが仕事につながらなかったとしたら、それこそ「損をした」と感じてしまいます。

僕の場合であればとにかく本が好きなので、いまもたくさんの本を買い続けています。でも、本を買うときには、「これを仕事に活かそう」などとはこれっぽっちも思っていません。しかし、その趣味が高じて人が集まり、本の要約サイトや絵本情報サイトの運営に関わるようになったり、「本を書いてください」と言われたりして、結果的に仕事になっただけのことなのです。どんな学びがどんなかたちで仕事に結びつくかは誰にも予測できず、それらは事後に初めてわかるのだと思います。

理想の学び方について語ってくださった荒木博行さん

【荒木博行さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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独学の地図

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  • 作者:荒木 博行
  • 東洋経済新報社
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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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