メールや企画書など、ビジネスでは文章を書く機会が少なくありません。みなさんのなかには「優秀に見られたい」と思って、自分が考える「頭がよさそうな」文章を意識して書いている人もいるのではないでしょうか。
しかし、その文章、じつは逆効果かもしれないんです。本当に知性を感じさせる、デキる人の文章とはいったいどんなものでしょう。今回は、「頭のよさ」を感じさせる文章の書き方を4つご紹介します。
1.「難しい・硬い言葉」を「やさしい表現」に置き換える
「頭がいい人の文章」は、文豪のような小難しい文章だと思っていませんか? 難しい単語や言い回しをやたらと使うのは、本当の「頭のよさ」ではありませんよ。
国語講師で、文章術を大人向けに解説した著書を複数もつ吉田裕子氏は、難しい言葉や硬い言葉はやさしい表現に直すことをすすめています。吉田氏いわく、
知性とは、難しい文章を書くことではないのです。読み手に知識自慢をしても仕方ありません。相手に合わせ、相手にとって親切な文章を書けることが真の知性です。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|難しい文章を書くことが知性ではない。相手にとって親切な文章を書けることが真の知性である)
とのこと。吉田氏に言わせれば、難しい文章はただの「知識自慢」であり、そんな文章しか書けない人に本物の知性など備わってはいないのです。
たとえば、企画書でいきなり「趨勢は甲論乙駁にして艱難の一途をたどり……」などと書いてあったら、「この人はいったい何を言っているんだろう?」と思いますよね。本当に仕事がデキる人なら、「この点は現在意見が割れており、決定が難しい状況ですが」などとわかりやすく書くはず。
つまり、本当に頭のいい人とは、相手へ伝わるように言葉を選べる人。
「金額の多寡にかかわらず」→「金額が多くても少なくても」
「理解に齟齬がないよう」→「理解にずれがないよう」
吉田氏が挙げる上記の例のように、難しい言葉ではなくやさしい表現を使ってください。
また、専門用語や業界用語などにも注意が必要です。あなたの文章を読む人は、本当にその用語をよく知っている人でしょうか。書きながら立ち止まって、「これは本当に相手に伝わりやすいか」を考えましょう。伝わりやすい文章が、知性を感じさせる文章への第一歩です。
2.「ひとつの文」で「ひとつの内容」を書く
デキる人は知識も豊富。ゆえに、文章は情報量が多ければ多いほどいい……。そんなふうに思っていませんか? たくさんの情報を詰め込んだ文章は、「伝わりやすさ」の観点から見るとまったく逆効果。一文には、内容をひとつだけ盛り込むようにしましょう。
『メモの魔力』『佐藤可士和の打ち合わせ』など多くのベストセラーを手がけた編集者の竹村俊助氏は、こう言っています。
突然ですが、「わかりやすい文章」とはなんでしょうか? いろいろな定義があるでしょうが、ぼくがいちばんしっくり来ているのは、「読む速度と理解する速度が一致する文章」という定義です。
(引用元:竹村俊助 (2020) , 『書くのがしんどい』, 株式会社PHP研究所.)
「読む速度と理解する速度が一致する文章」とはどういうことでしょうか。次の例文を読んでみてください。
「弊社の商品は低価格かつ高品質を軸として常にお客様のニーズに応え続けており、その成果として昨年は顧客満足度92%という高い評価をいただきましたが、しかしこの評価に満足せずすべてのお客様に満足していただけるようさらなる改良に取り組んでいます。」
上記の文章は、たくさんの情報が一文に詰め込まれています。まどろっこしくて、「どういうこと?」と最初から何度も読み返してしまいますよね。つまり、この文章は読む速度に対して理解が追いついていないということ。これを竹村氏流にわかりやすく書き換えると、以下のようになります。
「弊社の商品は、低価格・高品質を軸としております。お客様のニーズに応え続け、昨年は顧客満足度92%という高い評価をいただきました。しかし、この評価に満足はしません。すべてのお客様に満足していただけるよう、さらなる改良に取り組んでいます。」
すっきり読みやすくなりましたね。「読む速度と理解する速度が一致する文章」とは、短くシンプルな文章のことなのです。
「短い文章はバカっぽく見える」と思う人もいるかもしれません。しかし、実際は逆です。無駄に長くてまどろっこしい文章は、情報を整理できない、無能な人の文章。本当に仕事がデキる人の文章は、すっきりと情報が整理され、簡潔に伝わる文章です。
竹村氏は、ひとつの文ではひとつのことだけ伝わればいいと言います。読む側の立場に立って、一文に入れる情報がどの程度であればストレスなく読めるか、加減しながら書いてみてください。
3. 無駄を極限まで削る
あなたがわざと小難しく書こうとしている文章には、わかりやすく言い換えたり小分けにしたりするまでもなく、ばっさり削ってよい箇所があるかもしれません。文章術に関する著作や講演を数多く行なう山口拓朗氏は、文中にひそむ無駄を削り落とす「文章ダイエット」をすすめています。
山口氏いわく、無駄な情報があると文章が冗長に見え、読み手にストレスを与えるそう。読み手に対し親切でスマートな文章を書くために、以下の4つの無駄を削るべきだと指摘しています。
- 重複する情報
例)「今回の件はこちら側の確認不足でした。私たちの確認の甘さでご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
→「こちら側の確認不足」と「私たちの確認の甘さ」が重複するので、「私たちの確認の甘さで」は削る。 - テーマと無関係な情報
例)「本プロジェクトは、貴社のご協力がなければ実現しませんでした。関係するすべての企業、自治体、一般参加者のみなさまに支えられての成功です。本当にありがとうございました」
→「貴社」に感謝を述べる文章なので、「自治体、一般参加者」の話は余計。 - くどい言い回し
例)「〜したいと思います」→「〜します」
「〜していくと」→「〜すると」
「〜においては」→「〜では」など。
→すっきり言いきれるものは言いきる。 - 意味がありそうでない言葉
例)「基本的に」「本質的に」「ある意味」など。
→文脈的に意図がない場合は削る。
文章をひと通り書き終えたら読み返して、4つに当てはまる表現がないか探してみてください。もし無駄が見つかれば、思いきって削りましょう。冗長な表現を削るだけで、あなたの文は見違えるほどスマートになるはずです。
4. 形容詞を「具体的な言葉」に言い換える
さて、以上の3つをクリアしてもまだ文章がスマートに見えない場合、それは形容詞のせいかもしれません。アピールポイントを伝えたいときなど、「すごい」「よい」など形容詞を多用してはいないでしょうか? 形容詞は具体的な言葉に言い換えましょう。
国立国語研究所教授の石黒圭氏が、形容詞のデメリットを指摘しています。石黒氏いわく、形容詞は主観的で、説明には向かない言葉。「この企画はおもしろい」としか書かれていないと「どこが、どんなふうに?」と聞きたくなりますよね。「参加者は少なかった」とあれば「どれくらい?」と疑問に思うはず。このように、形容詞では具体的・論理的な説明ができないのです。論理的でない文章は、もちろん的確に伝わりませんし、頭がよさそうにも見えません。
先ほどの例を具体的な言葉で言い換えてみると、以下のようになります。
- 「この企画はおもしろい」
→「この企画はこれまで関わってこなかった分野との化学反応が期待でき、意義のある挑戦だ」 - 「参加者は少なかった」
→「参加者は100名程度を想定していたが、実際は63名にとどまった」
ぼんやりしていた文章が、わかりやすく明快になりましたね。形容詞を見つけたら具体的な言葉に言い換える。これが、文章を知的に見せる最後の1ピースです。
***
「知的な文章とは、相手に伝わりやすい文章だ」。これが、4つのポイントを通しての鉄則です。さあ、あなたももう、本当にデキる人の文章が書けるはずですよ。
(参考)
ダイヤモンド・オンライン|難しい文章を書くことが知性ではない。相手にとって親切な文章を書けることが真の知性である
竹村俊助 (2020), 『書くのがしんどい』, 株式会社PHP研究所.
リクナビNEXTジャーナル|【体はしぼった!文章はどうだ?】くどい“メタボ文”を改善する「文章ダイエット」の奥義
プレジデントオンライン|形容詞を多用すると文章はバカっぽくなる
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。