皆さんは、後輩や部下と円滑な関係を築けていますか? 部下との接し方に戸惑っているという方も多いのではないでしょうか。接し方や言葉のかけ方を間違えると、部下に反発心が生じたり、関係性が悪化したりする可能性があります。部下を傷つけたり、不快にさせたりすることなく指導するにはどうすればよいのでしょうか。
今回は、部下に反発心を与えない上司になる方法をご紹介します。
【1】定量的思考と定性的思考を使い分ける
『ビジネスで使いこなす「定量・定性分析」大全』(日本実業出版社)の著者・中村力氏によると、部下を指導する際には「定量的思考」「定性的思考」が求められるのだそう。
定量的思考とは、数字に基づいた思考全般のこと。定性的思考は、論理性、因果性、創造性など、数字以外のデータに基づいた思考全般を指します。試験勉強に例えれば、「90点以上を狙います」と明確な数字を掲げることが定量的思考、「学年で上位に入ります」などと数字以外の目標を掲げることが定性的思考です。
特に、上司が部下を評価したり、仕事を割り振ったりする際には、客観的な数字データに基づいた定量的思考が大切だと中村氏は語ります。
「管理職の中には、部下の仕事の割り振りなどを直感で決めていたり、好き嫌いで人事評価をしている人もいるようですが、それはフェアではありません。上司が部下を評価する際には、たとえば5段階評価のうちA君は『営業力5、事務力3、企画力4』、一方のB君は『営業力3、事務力5、企画力4』のように、定量的な評価軸を作成して比較し、より公平に評価を下すことが重要です」
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|クソ上司と呼ばれないよう部下教育では「定量・定性分析」を使いこなせ)
売上金額や利益率、経費削減率といった数値化できるデータを元にしているため、公平な評価を出せるというメリットがあるのが定量的思考です。しかし、客観的なデータから判断できる反面、数値化できない点を評価できないなどのデメリットもあります。
反対に、定性的思考は、客観性に欠ける反面で、数値化できないポイントも評価できるのがメリット。たとえば、後輩の面倒見が良い、ミーティングでの発言が的確、どの社員とも円滑にコミュニケーションを取って場をまとめている、などのような、数字に反映されない部分で業務に貢献している社員も評価できるのです。
両者を併用して評価をすることで公平な判断ができ、両者を元に仕事を割り振ることで個人の特性を活かした仕事の分担ができるため、反感を買いにくくなると言えるでしょう。
【2】相手が傷つかない、やる気を生み出す話し方を心がける
時には、部下のミスや勤務状況を注意しなければならないケースもありますよね。しかし、言葉の選び方次第で、部下のやる気を削いでしまったり、信頼関係を壊してしまったりする可能性も充分にあります。円滑に仕事をするためにも、部下を指導する際は、相手を必要以上に傷つけることがないよう、慎重に行なうことが重要です。
『感じよく伝わる! 大人のモノの言い方』(永岡書店)の著者で、話し方研究所主催の櫻井弘氏によると、相手を傷つけずに厳しい内容を伝える3点のコツがあるそう。具体例と交えてお伝えしましょう。
1. 相手を尊重した表現で
たとえば、部下に仕事方法を変えてもらいたいとき、「この方法はやめてほしい」「次からこうして」などと、一方的に自分の意見を伝えると、相手が反発する可能性があります。なぜなら、部下には、今まで自分のやり方で成功してきたという自負と、自分が担当者だというプライドがあるから。
人材開発・組織構築コンサルタントの井上健一郎氏は、人は「聞きたくないことは、言われても腹に落ちない」ことを部下とのコミュニケーションの基本原則のひとつとして頭に入れるよう提言しています。良かれと思ってアドバイスをしても、部下が「このやり方でうまくいってるのに」「事情も知らないのに口を出すな」と、マイナスな感情を抱けば耳に入らなくなってしまうのです。
このような場合は、「次から新しい方法を試したいんだけど、今までの方法と比べて、どちらがいいか判断してくれないかな? この仕事は○○さんの担当だから、○○さんが教えてくれると助かる」と、相手を尊重しましょう。反感を生むことも、不快な気持ちにさせることもなく、新しい方法を試してくれるはずです。
2. 相手の能力を認めている前提の表現で
後輩をプロジェクトから外さなければならなくなったとします。その際、「もう外れていいよ」と配慮のない言い方をすれば、もちろん相手は傷つくでしょう。
かといって、「忙しそうだから外れていいよ」などと誤魔化しても、相手にとっては嫌味に感じられたり、わかりやすい嘘をつかれた気持ちになったりして、ネガティブな印象を与える可能性のほうが強いと言えます。
この場合は、「今回は○○さんに負担をかけずに済みそう」と、負担を減らすために外したのだというニュアンスが伝わる言い方をすればスムーズです。相手側には「外されたのは自分の能力が原因ではない」という安心感が生まれ、モチベーションの低下も防げるでしょう。
3. 第三者の視点を使った表現で
勤務態度や、仕事の進捗などに問題があるとき、「やる気がないの?」と威圧感のある言葉を投げかけると、相手が萎縮してしまって結果的にさらに生産性が落ちたり、ミスが増えたりする可能性があります。かといって、直属の上司から「私は○○さんに期待してるからもっと頑張ってね」と言われるのは、かえってプレッシャーになることも。
この場合は「部長が○○さんのことを褒めてたよ」「○○さんの担当した新商品、発売日が待ち遠しいってネットで話題になってるよ」などと、ほかの社員やカスタマーといった第三者の視点を使って話してみましょう。
第三者を持ち出すことで、上下関係で発生しやすいトラブルやわだかまりを防ぐことができます。また、「自分が誰かから期待されている」という高揚感を与えてモチベーションを上げることができます。
言い方を工夫するだけで、与える印象は全く異なります。相手にやる気を生じさせる言葉を使うよう意識することが大切ですね。
【3】ミスを責め立てず、短く前向きな指導を
部下がミスをした際、思わず苛立ってしまったり、感情的になってきつく叱ってしまう人もいるのではないでしょうか。最低限の指導は必要ですが、「部下を育てる」面から見れば過剰にきつく叱るのは逆効果です。野球指導を例としてご紹介しましょう。
スポーツライターであり、『殴られて野球がうまくなる⁉︎』(講談社)の著者である元永知宏氏曰く、日本とドミニカ共和国の野球指導は対極のものなのだそう。多くのスポーツ界で共通して言えることですが、日本の高校野球では、優勝が絶対的な目標であるために、敗北が許されないという状態に陥りがちです。そのため、部員への暴言や、体罰が問題になることが多々ありますよね。
一方で、ドミニカでは「メジャーリーガーの育成」を最終目標としているのだそう。選手がミスをしたり、プレーに消極的だったとしても、叱責することはほとんどありません。
「今はよくても、先で伸びない」「厳しくしすぎると、野球が嫌いになってしまう」「教えすぎると、チャレンジする心がなくなってしまう」というのが、ドミニカの指導者たちの共通認識なのだそう。叱責しない代わりに、選手たちをじっくりと観察し、練習や試合後に、能力を伸ばすための話し合いをすると言います。試合に勝つことではなく、選手を育成することが第一目標になっているのです。
仕事もミスが付き物。しかし、野球と同様、きつく叱りすぎては、仕事が嫌いになってモチベーションが下がったり、チャレンジ精神が失われたりする可能性があります。また、厳しく叱られた経験がトラウマになった部下が、次にミスをした際に報告しようとせず、すぐに対処していれば解決していたはずのミスが大問題に発展した……というケースも充分にありえますね。指導する際は、ミスを責め立てるのではなく「今回は仕方がないね」「次の仕事に生かそう」などと前向きな言葉をかけましょう。
どうしても苛立ってしまった際には、まずは起きた事実と自分の感情をノートに書き出してみてください。冷静に客観視することで、感情的になることを避けられます。
また、何度も同じミスが続く場合や、どうしても指導が必要だと感じた場合には、面談をすることがおすすめです。『人もチームもすぐ動く ANAの教え方』の著者であるANAビジネスソリューションいわく、ほかの社員に気づかれないような個室で、手短に話すことが大切。また、面談終了時には「じゃあ、この件はこれで終わり! 明日からまた頑張ろう!」と笑顔で話を切り上げることで、暗い気持ちを引きずることなく切り替えられ、相手の心の負担を軽くできると言います。
ミスを責め立てても、プラスにはなりません。相手のスキルアップにつながる指導をすることが大切ですね。
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適切な指導を行ない、部下と円滑な関係を築きましょう。
(参考)
中村力(2019),『ビジネスで使いこなす「定量・定性分析」大全』, 日本実業出版社.
DIAMOND online|クソ上司と呼ばれないよう部下教育では「定量・定性分析」を使いこなせ
MFC|定量的と定性的って?意味を理解し物事の本質を掴もう
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櫻井弘(2019),『感じよく伝わる! 大人のモノの言い方』, 永岡書店.
Precious|印象が大違い!厳しいことを言っても「相手が不快にならない」魔法の言い換え言葉7選
元永知宏(2017),『殴られて野球はうまくなる!? 』, 講談社.
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【ライタープロフィール】
亀谷哲弘
大学卒業後、一般企業に就職するも執筆業に携わりたいという夢を捨てきれず、ライター養成所で学ぶ。養成所卒業後にライター活動を開始し、スポーツ、エンタメ、政治に関する書籍を刊行。今後は書籍執筆で学んだスキルをWEBで活用することを目標としている。