「会社に友だちはいらない」と、職場での人間関係を疎かにしていませんか? あるいは、職場での人間関係に悩んではいませんか?
じつは、職場での人間関係が、仕事への満足度や給料に響くという研究結果が出ているのです。一匹狼で仕事に黙々と取り組んでいる人は、要注意かもしれませんよ。
孤独は身体に悪い
「人間関係は面倒」
「そんなことよりも自分磨きや仕事の勉強にエネルギーを注いだほうがいい」
こんなふうに考えているビジネスパーソンはご注意を。「孤独は人間の身体を蝕む」という研究結果が出ています。
アメリカ・ブリガムヤング大学の心理学教授であるジュリアン・ホルトランスタッド氏によると、社会的なつながりを持つ人は、持たない人に比べて、早期死亡リスクが50%低下するそう。同氏いわく、「孤独」は、肥満の2倍もリスクが高く、ヘビースモーカーやアルコール依存症に匹敵するほどなのだとか。
健康があってこそ、仕事に力を注げるものです。健康になるために、ランニングをしたり、お酒を控えたりといった努力をするのもいいですが、信頼できる仲間を作るほうが、よっぽど身体にいいのかもしれませんね。
孤独を解消するのは、人付き合いの「量よりも質」
「孤独」と聞くと、なんとなく高齢の方をイメージする人が多いかもしれません。配偶者との死別や、学校や職場など属するコミュニティがなくなることによって孤独になる、と考える方は多いのではないでしょうか。
しかし、意外なことに、若者のほうが孤独を感じているという研究結果が出ています。米ブリガム・ヤング大学の心理学教授ジュリアン・ホルト・ランスタッド氏は、自身の著書で、最も孤独を感じているのは、ティーンエイジャーや若者だと述べています。ホルト・ランスタッド氏が、同僚と共に70もの調査研究を分析した結果、孤独に関連する病気のリスクは、65歳以上よりも65歳以下のほうが高いことが判明したそう。
ポイントは、物理的な孤独よりも、心から信頼し合える人たちとつながっているかどうか。カリフォルニア大学のカーラ・ペリッシノット氏の研究によると、孤独な人の多くが既婚者であるということが判明したそうです。前述のホルト・ランスタッド氏も「独身であることは孤独のリスクになるが、全ての結婚している人は幸福とは限らない。人間関係は、付き合う人数の多さではなく、質にこだわる必要がある」とニューヨークタイムズに語っています。
社会的なつながりを持ち、孤独を解消するためには、付き合う人の量を増やすのではなく、質(=周りの人たちと本当に信頼関係を結べているかどうか)が重要なのです。
職場の人間関係が良好だと収入が上がる
人間関係が、健康に大きな影響を与えることはご理解いただけたと思います。では、収入や仕事への満足度には、どのような関わりがあるのでしょうか。
世論調査などを行なっているアメリカのギャラップ社が実施した調査によると、職場に友人がいる従業員は、仕事への満足度が高かったそう。会社に仲の良い同僚がいる人たちは、そうでない人たちに比べ、7倍もの確率で熱心に仕事に取り組み、実力をフルに発揮し、結果も出しているのだとか。同僚たちと良い関係を築けている人のほうが、そうでない人よりも仕事のパフォーマンスが高いのです。
収入に関しても、人間関係が影響しています。ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学が、被験者のオフィスワーカー455人に「普段どれだけ社内や社外の人とコミュニケーションをとっているか」をアンケート調査し、4年間にわたって彼らの収入を追跡したところ、以下の3つのことが判明しました。
- 社外での人間関係を維持する人は、最も給料が上がる
- 社内で人脈を広げる人の給料は、その次に上がりやすい
- 社内での人間関係を維持する人の給料は、3番目に上がりやすい
つまり、社内外で人間関係を大切にする人は、給料が上がりやすいということです。そのなかでも特に、社内の対人関係を安定させ、それをベースに社外の人たちとの交流を増やした人ほど、給料が上がりやすかったのだとか。社内に友人がいることは、仕事の充実感を増すだけでなく、昇給にもつながるようですね。
信頼される人は、一貫性のある行動をとる
「会社での人間関係が良好な人ほど、仕事への満足度も給料も上がる」とわかったところで、現段階で「社内の対人関係がイマイチだな……」という人はどうしたらいいのでしょうか。
まず、好感を持たれやすい人になる方法をご紹介しましょう。カナダのウィルフリッド・ローリエ大学による実験が「行動に一貫性のある人は友だちができやすくなる」ことを証明しています。同大学は、「相手に対して行動の一貫性を増やすように」と指示をしたグループと、特にしなかったグループとを比較しました。すると、一貫性を指示したグループの親密さが増したのだとか。
一貫性があると親密さが増すのは、「この人はこういう行動を取るだろう」と予測しやすい相手のほうが、安心しながら付き合えるため。実験では、反対に一貫性のない行動を取った場合は、相手の感情に混乱が生じ、好感度が低下するという結果が出たそう。
同僚との親密さを増やす場合は、職場での対応に一貫性を持たせるのがよいでしょう。たとえば、「この人はクレームに対していつも冷静に対応する」「メールの返信は早いけれど、プライベートな誘いには気まぐれだ」「基本的に残業しないタイプだ」など、相手に自分の特徴を知ってもらい、一貫した行動を心がけることで、安心感を持ってもらえるのではないでしょうか。
仲良くなるコツは「共同作業と笑い」
共同作業をしているときに笑いの総量が多いほど、信頼関係が深まり、帰属意識(=心理学用語で「この集団の一員である」「この集団に所属している」という感覚、意識のことを意味します)が高まりやすいと言われています。これを証明するのが、米カンザス大学が1万5,177人のデータを調査して行なった、ユーモアと帰属意識に関する研究です。同研究では、以下のことが判明したそう。
- 2人の間にユーモアがある男女ほど親密さが増す傾向にあり、2人がコミュニケーションを取っている間に笑いの総量が増えるほど、帰属意識は成長しやすい
- ここでいうユーモアは、ギャグセンスやユニークさではなく、重要なのは2人の共同作業として「1つの笑い」を生み出していること(一人がボケて、もう一方がつっこむなど)
こちらの結果を、同僚との親睦を深めるために応用してみるのも良いかもしれません。まず、共同作業をする場を作りましょう。たとえば、「一緒に進めているプロジェクトがあれば、そのためのミーティングをする」「社内のイベントや打ち上げの幹事を一緒に引き受ける」などでかまいません。
あとは「笑い」ですが、前述の通り、特別おもしろいことを言う必要はありません。一緒に作業をしているなかで、その場を楽しむ心がけをしてみることが大切です。たとえば、一緒に幹事を引き受けてお店探しをしているのであれば、「珍しいレストランを見つけたら共有して楽しむ」など、ちょっとしたことで良いのです。何かユーモラスなことを言わなければ、と意気込むよりも、「楽しさを見つけて大変なことを一緒に乗り切る」という気持ちを持つことで、仲を深められるのではないでしょうか。
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「人はひとりでは生きていけない」と昔から言われてきましたが、本当にそうなのかもしれません。ひとりでスキルを磨く時間も大事ですが、仕事の充実感は人とのかかわりから生まれてくるもの。職場の人たちと仲を深めてみてはいかがでしょう。
(参考)
President Online|寿命が縮まる「一人ぼっち」という蟻地獄
The New York Times|The Surprising Effects of Loneliness on Health
NCBI|Loneliness in Older Persons: A predictor of functional decline and death
Cosmopolitan|Having a work wife makes you more productive, study says
メンタリストDaiGo(2019),『コミュ障でも5分で増やせる超人脈術』, 株式会社マキノ出版.
健康経営ラボ|帰属意識とは?会社への帰属意識を高める方法と具体的な施策とは
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。