前のめりに仕事をしすぎて時々ミスをしてしまう……。周りの仕事の遅さにイライラしてストレスを抱えがち……。そんな自分の「せっかちさ」に手を焼いている人はいませんか?
しかし、この「せっかち」も、少し目線を変えれば多くの利点が見えてきます。将来は経営者に向いているかも? 今回は、せっかちな人に隠された意外な才能をご紹介します。
1. 先手先手で「ここぞ」という機会を逃さない
かつて東レ経営研究所所長を務め、『出世のすすめ』等の著書を持つ佐々木常夫氏は、出世の秘訣は「ここぞという日を逃さない」ことであると述べています。
「ここぞという日」とは、予算案を提出する日、新規事業を検討する日など、会社にとって重要な意思決定をする日のこと。そういった日を事前に把握し、自分のやりたいプロジェクトを練り上げ、当日に会社の承認を得る。そうすることが自身の成果につながり、出世への足がかりになっていきます。
そのために、現役時代の佐々木氏は、2冊の手帳を持ち歩いてスケジュールを管理していたのだそう。また、極限まで無駄を省くために、時間を「予算」としてとらえ、自分の仕事に使う時間も手帳で管理していました。
これほどまでに時間にストイックな態度をとれた理由として、佐々木氏は自身の「せっかちさ」を挙げています。1分1秒も時間を無駄にしたくない――ある意味せっかちなその性格が、仕事で成果をあげるための近道になるのです。
みなさんにも、企画コンペや他社へのプレゼンなど、ひとつひとつ押さえておくべき「ここぞという日」はいくつもありますよね。無駄を省いて最短距離で到達するうえで、「せっかちさ」は自然といい方向に働くのです。
2. 人より多く経験を積める
書類を早く提出したものの、ミスばかりで結局修正を求められた……。せっかちな人であれば、そんな経験も多いはず。しかし、その行動量は、きちんと運用することで効果的に活用できるかもしれません。
せっかちな人は豊富な経験を仕事に活かせると、経営コンサルタントの小宮一慶氏は言います。当たり前ですが、迅速に行動できるせっかちな人は、人より多くの経験を積めますよね。知識を増やせばいい仕事ができるというわけではないのが仕事というもの。自分自身で経験した「実践知」は、その後のキャリアにおいても大きなアドバンテージとなります。
また、「失敗してもかまわない」と小宮氏は言います。なぜならば、失敗を踏まえることで、その後同じような場面に遭遇したときに、迅速に改善案を出すことができるから。そのためには、失敗した直後に「何が原因か」をきちんと振り返ることが重要。それができていれば、失敗を長期にわたって有利に活用することができるのです。
3. リーダーの資質がある!?
前出の小宮氏を含め、有識者が口をそろえて言うことがあります。それは、経営者にはせっかちな人が多いということ。
統計的にも、それはどうやら正しいようです。ビジネス情報誌「プレジデント」の編集部が1,000人のビジネスパーソンを対象に行なったアンケートによれば、会社のトップ層になればなるほど、仕事の丁寧さよりもスピードを重視する人が多くなることがわかりました。
その理由を、世界的電子部品メーカーTDKで代表取締役社長を務めた澤部肇氏は、次のように分析しています。
私なりの理解では経営というのが、試行錯誤で進むものだからだ。(中略)指示したはなから「で、どうなった」と、結果が知りたくてたまらない。というのも、自分の情勢把握が果たして正しいのか、また戦略・戦術が有効なのか、その時点でははっきりしないからだ。(中略)試行錯誤の回数が勝負なのであり、そうやって正しいゴールを先に探し当てた企業が勝ちだ。のろのろしていては命とりなのだ。
(引用元:日本経済新聞|なぜ経営者は「せっかち」なのか ※太字は筆者が施した)
この分析から、気づくことがあります。それは、先に紹介した「チャンスを逃さない」「多くの経験を積める」といった、「せっかち」を有効活用した姿は、ここでのリーダー像と重なるということ。
つまり、前のめりにさまざまな経験を積み、失敗してもそこから学び、「ここぞという日」を逃さず大きな成果を挙げる。そうした「せっかち」を有効活用しようと試みることが、時代の状況を逃さず、失敗を恐れないで試行錯誤を繰り返すリーダーのスキルを養うことに、いつのまにかつながっていくのです。
とはいえ……“こんなせっかち” には要注意
しかし、「せっかちさ」が効率の低下につながることもあると、「時間学」を専門とする千葉大学文学部の一川誠教授は言います。
一川教授によると、せっかちな人は「自分の処理能力以上に業務を詰め込みすぎて、締め切りに間に合わない」「思考が深まる前に次の作業に移ってしまうため、企画系のクリエィティブな仕事が苦手」といった傾向があるのだそう。
また、『病気になりやすい「性格」』などの著者である、東北大学大学院医学系研究科の辻一郎教授は、「せっかちな人は、時間への切迫感から来るストレスから、心臓発作や心筋梗塞など冠動脈疾患の発生率が向上しやすい」と健康面のリスクも指摘しています。
このような、せっかちの悪い側面を減らすためには、やはり時間に余裕を持つことが大切。そのために、一川教授は「仕事を早めに始めるせっかち」をすすめています。
最もよいのは、できるだけ早い段階でそれぞれのタスクに着手し、できるだけ一定のペースで進めていくこと。締め切り直前に焦らなくて済みますし、分散して進めることでクリエイティビティーも発揮しやすくなるのだそう。
せっかちな性格を把握したうえで、自分の体も労わりながら働くことが、結果として効率アップにつながると言えそうですね。
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せっかちさはPDCAサイクルを回しやすいため、成長も早くなります。反面、働きすぎて心と体を壊してしまう危険も……。自分のキャパシティを把握したうえで、せっかちな性格を存分に活用していきましょう!
文 / 谷口亮祐
(参考)
東洋経済オンライン|出世できる人は「ここぞの日」を知っている
プレジデント・オンライン|できるリーダーになりたかったら【2】
プレジデント・オンライン|仕事が「雑で速い人」vs「丁寧で遅い人」どちらがエラくなるか?
日本経済新聞|なぜ経営者は「せっかち」なのか
プレジデント・オンライン|どっちが幸せ?「グズvsせっかち」人生90年の損得勘定