EQ(Emotional Intelligence Quotient)という言葉をご存じの人は多いかもしれません。EQとは、「自分の感情をうまく管理し、利用できる」能力のこと。“心の知能” とも呼ばれる、対人関係において重要なスキルです。
EQはビジネスでの成功に欠かせないことから、近年再注目されています。第23代イェール大学学長のピーター・サロベイ氏とニューハンプシャー大学教授のジョン・メイヤー氏は、ビジネスでの成功を導く要因は「学歴や知能が2割、対人関係能力が8割」と結論づけました。つまり、IQよりも人と協力し合える力—— EQが高い人のほうが、成功に近づけるというのです。
では、そんなEQを高めるためには、どういった習慣を心がけたらいいのでしょうか。今回の記事では、なぜかうまくいきやすい “EQが高い人” になるための3つの習慣をご紹介しましょう。
EQが高い人の習慣1.「マインドフルネス」で穏やかな心を保つ
「会議で意見が合わないと感情的になる」
「気に入らないことがあると不機嫌な態度になる」
このように、感情をうまく扱えないのはEQの低さの表れと言えます。一方でEQの高い人は、メンタルを安定させる方法を知っているもの。それが、 “マインドフルネス” です。
マインドフルネスを継続することで、EQが高まる——こう語るのは、マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表の荻野淳也氏。その理由は、マインドフルネスの継続で脳機能が向上し、感情コントロールの能力が鍛えられるからです。
荻野氏が根拠として挙げているのが、ハーバード大学医学大学院准教授のサラ・ラザール氏らによる研究です。同研究では、被験者に8週間のマインドフルネスプログラムに参加してもらい、fMRI(磁気共鳴機能画像法)検査で、プログラム前後の脳の状態を分析。その結果、海馬の灰白質の神経密度が増加したことがわかったのだそう。
じつは記憶をつかさどる海馬は、感情のコントロールとも関連がある場所。海馬の密度が高くなることは、メンタルコントロール機能が強化されることを示唆します。
さらには、8週間のマインドフルネスで、情動をつかさどる扁桃体の反応が緩やかになることも判明したとのこと。荻野氏はこうした研究報告をふまえ、マインドフルネスで感情のコントロールがうまくなり、セルフ・マネジメント能力が高まると解説しています。
ひとくちにマインドフルネスといっても、さまざまなやり方があるもの。ここでは、荻野氏が提案する、いたって簡単な「1分間マインドフルネス」をご紹介しましょう。
- 静かな場所に座り、ゆっくり鼻呼吸をする
→鼻腔や肺に空気が流れる感覚を意識するのがポイント - 鼻呼吸を繰り返し、呼吸そのものに意識をフォーカスする
→呼吸そのものを意識できれば、未来や過去を考えず「いまこの瞬間」に心を落ち着いて向けられる
荻野氏によれば、1分間マインドフルネスは何回やってもよいそう。たった1分間であれば、忙しい社会人でもスキマ時間を利用して繰り返し行なえますね。マインドフルネスで穏やかな心を保ち、自分の機嫌は自分でとるよう心がけましょう。
EQが高い人の習慣2.「日記」で自分を分析する
「自分の強みがわからない」
「モヤモヤして自分の感情がなんだかわからない」
このように、EQの低い人は自己認識力が弱いという特徴があります。EQの高い人がもつ自己認識力を高めるカギとなるのが、“日記をつける習慣” です。
EQカウンセラーの大芝義信氏は、日記を書くことは「自分の行動や感情の分析に役立つ」と言います。
たとえば、同僚が新しい企画を任されているのを見て、モヤモヤを感じたとしましょう。EQの低い人なら、モヤモヤの原因を考えないまま、ただ不機嫌に過ごすかもしれません。しかし、紙に書きながら「どうしてモヤモヤするのだろう?」と考えてみれば、「本当は自分も企画に挑戦したくて嫉妬した」という思いに気づくはず。
このように日記を書けば、自分の感情を客観的に理解できるとともに、自分にとって本当に関心があるものを知ることもできるのです。
となれば、自己認識力を高めるためにさっそく日記を習慣化したいところですが、その書き方には要注意。
組織心理学者のターシャ・ユーリック氏は著書『insight――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』のなかで、ポジティブな出来事のみを書く日記や、ひたすら感情のはけ口として活用する日記では、自己認識を深められないと指摘します。
ポジティブな出来事を詳細に書くと、じつは喜びが損なわれてしまうとのこと。また、事実を無視して感情のみを書けば、客観的な解釈に欠けてしまうのです。
そこで、ユーリック氏が提案する日記の書き方をご紹介しましょう。「ネガティブな出来事について、事実と感情の両方を書く」というやり方です。
(例)ネガティブな出来事「同僚が新しい企画を任されて、モヤモヤした」
- 事実:新しい企画を担当する適任者を上司が探していたところ、その分野で経験のある同僚が選ばれた。一方で経験のない自分は選ばれなかった。
- 感情:経験の違いで選ばれなかったことが悔しく、落ち込んだ。本当はその企画に興味があったから、うらやましいと感じた。上司から仕事を任されるような人材になりたい!
なお、ユーリック氏によれば、日記は毎日書くよりも数日おきに書くほうが効果は高まるのだそう。無理に毎日継続する必要はありません。悩みや問題に直面したときのみ、日記をつけてはいかがでしょうか。
EQが高い人の習慣3.「文学」を読んで共感力を高める
勉強熱心なビジネスパーソンであれば、すでに読書習慣が身についているでしょう。とりわけビジネス書を読む人は多いはず。では、文学を読むことに関してはどうでしょうか。じつは、文学作品を読む習慣がEQを高めてくれるのです。
ウエストミンスター大学教授のクリスティーン・サイファート氏は、ビジネスパーソンに小説を読むことを強く推奨しています。なぜなら、EQを構成する要素のひとつ「共感力」を高められるからです。
なお、小説の選び方にはポイントがあるよう。2020年にトレント大学の研究者らが、493名の被験者に普段読む本の分野を調査し、性格特性を分析しました。すると、娯楽的な小説を読む被験者より、文学的な小説を読む被験者のほうが、人間の心理に関心をもち、他人の感情を推測するテストの成績も高かったことが明らかに。つまり、共感力が高い傾向にあったのです。
文学作品には、複雑なストーリーや心理描写が多いもの。読者は自分で人物の心理を推論しなければなりません。おのずと、他者の心理を想像する力が身につくのも納得できますね。
共感力が高くなると、仕事にも好影響があります。グロービス経営大学院教員の村尾佳子氏によると、共感力は、周囲との “信頼関係” を築くのに役立つそう。
共感力が低いと相手の考えを汲みとれないため、的外れの質問や、相手の要望に合わない提案をしかねません。反対に共感力のある人なら、相手の考えを読んだうえで、より精度の高い提案ができるもの。“この人なら分かってくれる” という信頼感につながるのです。
普段、仕事に関する本しか読まないという人は、月に1冊からでも読書リストに文学作品を追加してみてはいかがでしょう。
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EQは後天的に高められるもの。ぜひ、ご紹介した習慣を参考に、“心の知能”を鍛えてみてくださいね。
(参考)
日経BizGate|改めて注目される「EQ」 なぜビジネスを成功に導く能力なのか?
東洋経済オンライン|仕事がつらい人が「今この瞬間」に集中すべき訳
National Center for Biotechnology Information|Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density
リクナビNEXTジャーナル| マインドフルネスとは?ビジネスパーソンに必要な理由や実践方法を紹介【専門家監修】
@DIME|人生も仕事も充実!感情知能「EQ」が高い人に共通する特徴
ターシャ・ユーリック著, 中竹竜二監訳, 樋口武志訳 (2019),『insight――いまの自分を正しく知り、仕事と人生を劇的に変える自己認識の力』, 英治出版.
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|ビジネスパーソンが小説を読むべき理由
PLOS ONE|The effect of exposure to fiction on attributional complexity, egocentric bias and accuracy in social perception
グロービスキャリアノート|共感力が高い人とは?ビジネスで共感が強みになる理由と高めていく方法
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。