子どもの頃から暗記科目が苦手だった人なら、仕事のための勉強をしているいまも、「記憶」に苦手意識をもっていることでしょう。記憶するのは「苦しい」ものだと認識している人もいるかもしれません。
しかし、記憶定着アプリ「モノグサ」最高技術責任者である畔柳圭佑(くろやなぎ・けいすけ)さんは、記憶するのは決して苦しいものではないと言います。なるべくラクに、そして効率的に記憶するための4つのステップについて解説してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
- 人間は誰しも「自然に記憶できる」。その4ステップ
- 1.「なにを覚えるのか」を決めなければ始まらない
- 2.「覚える」にはテストが欠かせない
- 3.「覚えた状態をキープ」する極意
- 4.「適切に思い出す」ことができてこそ、意味のある記憶となる
人間は誰しも「自然に記憶できる」。その4ステップ
記憶が苦手な人の多くが、大きな誤解をしています。その誤解とは、「記憶するのは苦しいものだ」ということです。
学生のとき、英単語といったなにかを明示的に覚えようとして、それこそ「苦しい」「難しい」と感じた経験がある人も多いでしょう。でも、それは単に苦しい覚え方をしていたからに過ぎません。
じつは、記憶すること自体は苦しいものではないのです。人間は、日々を生きていくなかで苦しむことなどなく、さまざまなことを記憶しています。記憶として自然に情報を脳に蓄積し、それを活用できる能力が人間誰しもに備わっているのです。
その人間に備わっている記憶の仕組みをうまく活用することさえできれば、勉強における記憶のように、なにかを明示的に覚えようとするときの苦しさを解消することができます。
では、人間に備わっている記憶の仕組みをうまく活用する方法をお伝えしましょう。その仕組みを、私は次のような4つのステップに落とし込みました。
【効率的に記憶する4つのステップ】
- なにを覚えるのかを決める
- 覚える
- 覚えた状態をキープする
- 適切に思い出す
以降、それぞれの概要を解説していきます。
1.「なにを覚えるのか」を決めなければ始まらない
最初のステップは、「なにを覚えるのかを決める」です。ここでちょっと違和感を覚えた人もいるかもしれませんね。英語の勉強をしている人が英単語を覚えたいというように、なにかを覚えたい人にとって覚えたいものは決まっていることが多いからです。
でもじつは、特に社会人の勉強では、この点に注意が必要です。いまみなさんが「覚えたい!」と思っているものは、果たして「覚えやすいかたち」として定義されているでしょうか?
学生までのあいだは、教科書でもドリルでも英単語帳でも、非常に多くの人が関わってつくり上げた良質なコンテンツを使って勉強することができました。つまり、覚えるべきことが覚えやすいかたちで提供されていたということです。
ところが、社会人の勉強においては、そうとは限りません。自己成長のためにと、「このビジネス書の内容をすべて覚えたい」と思ったところで、そうできるはずもない。だからこそ、書籍のなかで重要なポイントを要約するなど、「覚えやすいかたち」として「なにを覚えるのかを決める」ことが欠かせないのです。
2.「覚える」にはテストが欠かせない
次のステップは、「覚える」です。このステップには多くの方法論がありますが、最も重要なのは「テストをする」ことになります。
というのも、本当に記憶できたかどうかを自分で判断することは、とても難しいからです。自分では記憶したと思ったことでも、実際には記憶できていないケースはかなり多いと、数多くの研究によって確かめられています。だからこそ、自分の判断に頼らず、テストという客観的な指標で確認しなければなりません。
また、記憶の確認とは別に、テストをすること自体に記憶を強く定着させる効果もあります。テストを受けた結果、たとえ正解できなかったとしても、「あ、ここ間違っちゃった」「記憶できていなかったな」とインパクトを脳に与えることで、しっかりと記憶できるのです。
3.「覚えた状態をキープ」する極意
3つめのステップは、「覚えた状態をキープする」です。当たり前のことですが、せっかく覚えたことも忘れてしまっては意味がありません。忘れないように記憶を保持していく必要があります。
このステップについては、2つめの「覚える」ステップとセットと言っていいものです。つまり、やはり定期的なテストによって復習し、覚えたことを忘れないようにしていくことが欠かせません。
4.「適切に思い出す」ことができてこそ、意味のある記憶となる
最後の4つめのステップは、「適切に思い出す」です。これは、「定着させた記憶を活用する」と言い換えてもいいでしょう。そして、このステップは、最初の「なにを覚えるのかを決める」ステップとセットだと考えるべきです。
せっかくなにかを記憶したとしても、それがきちんと使えるかたちでなかったら、その記憶は無意味なものとなります。だからこそ、最初のステップでは、「なにを覚えるのか」に加えて、「その記憶を活用してなにをしたいのか」についてもしっかりと考えておく必要があります。
英語の勉強をしている人でも、英語の論文を原文で読みたいのか、英語を使って外国人と口頭で会話をしたいのか、やりたいアウトプットのかたちが違えば覚えるべきことも違ってきます。そもそもなんのために記憶をするのか、どういったアウトプットをしたいのかを事前に考えてこそ、記憶することに意味が生まれるのです。
【畔柳圭佑さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
畔柳圭佑(くろやなぎ・けいすけ)
1988年3月26日生まれ、愛知県出身。モノグサ株式会社代表取締役CTO。東京大学理学部情報科学科卒。東京大学大学院情報理工学系研究科にてコンピュータ科学を専攻。分岐予測・メモリスケジューリングを研究。修士(情報理工学)。修了後は、グーグル株式会社(現・グーグル合同会社)に入社。Android、Chrome OSチームにて、Text Frameworkの高速化およびLaptop対応、ソフトウエアキーボードの履歴・Email情報を用いた入力の高精度化、およびそれを実現する高速省メモリ動的トライの開発、ジェスチャー入力の開発に従事。2016年、モノグサ株式会社を竹内孝太朗(CEO)と共同創業。CTOとして記憶のプラットフォーム「Monoxer」の研究開発に従事。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。