「全部教えてしまう上司」はなぜ二流なのか? いい上司ほど “考えさせる質問” をする。

二流の上司

皆さんは、自分の「教え方」に自信はありますか?

<職場で部下を指導する立場にある方は多いはず。適切な指導をすれば優れた人材が育つはずですが、「適切な指導」とは具体的にどのようなものなのでしょう。

今回は、「正しい指導方法を知りたい!」というビジネスパーソンの皆さんに、多くの優秀なアスリートを育てた指導者によるメンタルトレーニング法をご紹介します。

1. 教え込むのではなく、自主的に考えさせる

監督として青山学院大学陸上部を箱根駅伝4連覇に導いた原晋氏は、著書『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』(アスコム)内で、選手たちが自主的に行動することが大切だと説いています。

スポーツに限った話ではありませんが、他人を指導しようと思うと、いろいろと口出ししてしまいたくなるもの。口出しが多いのは熱心さの表れかもしれませんが、原氏は「教えることに酔っている」状態の危険性を指摘しています。「教える」という行為が楽しくなり、「ああしろ」「こうしろ」と指示ばかり出すことで、教え子の自主性を奪っている可能性があるのです。

監督就任時、原氏は部員たちを「相談できる人」に育てることを目標にしたのだそう。たとえば、「足が痛い」と部員が訴えた場合、原氏は「どこがいつから痛いの?」「治るまで1週間? 10日? 1カ月?」などと問いかけ、具体的な解決案も尋ねるのだといいます。部員の練習メニューを決める際も、マネージャーに判断を任せたそうです。

部員たちに対して積極的に指示をしない原氏の姿を見て、「怠けているなあ」とからかう人もいたのだそう。しかし、指導者が積極的に指示を出しているチームは「まだ成熟していない証拠」と原氏は語ります。

「リーダーが指示ばかり出しているチームは未熟」というのはビジネスの世界にも通じます。もし、後輩に何から何まで逐一教えていたら、指示を受けないと何もできない人材が育つ可能性があるのです。

経営層を対象としたエグゼテクィブ・コーチングを手がける桜井一紀氏いわく、部下と一緒に考えることを優先する「質問型リーダー」と、部下にやり方を教えることを優先する「アドバイス型リーダー」を比べた場合、質問型リーダーの部下のほうが、目標設定や提案を積極的にする傾向があるのだそう。

部下に「どうしたらいいですか」と聞かれたとき、「こうしろ、ああしろ」とすぐに答えてしまうのでは、自発的な成長は見込めません。「どうしたらいいと思う?」などと問いかけて、相手が自分で考え、答えるのを待つことが大切ですよ。

部下に考えさせる際に大事なのは、返答をせかさないことです。答えを性急に催促しては、まとまる思考もまとまりません。部下が考えをまとめて発言するのをなるべく待ちましょう。

一流指導者のトレーニング02

2. ポジティブな言葉を投げかける

大阪桐蔭高校野球部監督として7度の全国大会優勝を誇る西谷浩一氏。大阪桐蔭高校の野球部員たちがポテンシャルを最大限に発揮できる要因は、西谷氏の「言語学」です。

ある試合で、大阪桐蔭高校が1回表に一挙6点を獲得しました。しかし、直後に相手チームの反撃をくらい、ゲームが6対6と振り出しの状態に戻ってしまいます。

西川氏は、大量の得点を奪われベンチに戻ってきた自チームの投手に対して、決して叱責はしませんでした。叱責の代わりに、「誰がいっぺんに取られてええなんて言うたんや」と、軽くいじるニュアンスの言葉を投げかけたそう。そして、「オレらの日頃の行ないが悪いんかなぁ。しゃあない、0対0からもう1回や!」と冗談めいて鼓舞したそうです。

試合は相手チームに勝ち越された状態で進行しましたが、相手チームの投手が疲労することを予測した西谷氏は、「(相手投手の力が)絶対に落ちてくる。だから今はボディやぞ、ボディ。アッパーはいらんから、ひたすらボディや」と、ボクシングに例えて部員たちを励まします。西谷氏の言葉で奮起した部員たちは、8回の表に逆転して、見事勝利を収めたのでした。

指導者の立場になれば誰かに過酷なタスクを強要しなければならない場合もありますよね。難しい仕事を頼んだあと、うまくいかないからといって、叱責したり冷たい態度をとったりしたら、相手のやる気はますますそがれるでしょう。

例えば、あなたの部下が大事な商談に向かう際に、「この商談を逃したら、我が社の面目は丸つぶれだ!」などと脅迫めいた伝え方をしたら、部下は萎縮してしまい、商談が台なしになるかもしれません。逆に「成功したら人事評価が大幅にアップするぞ!」とポジティブな言葉を投げかけたり、「失敗しても次があるよ」と気を楽にする言葉を伝えれば、部下たちは気負うことなく商談に臨めるはずです。

言い方ひとつで、相手に伝わる印象は大きく変わります。指導の際は、相手が奮起するような言い方を心がけることが大切です。

一流指導者のトレーニング03

3. 相手が熱中できるような指導を行う

サッカークラブ・湘南べルマーレは、長年成績が低迷していましたが、2012年に曺貴裁氏が監督に就任して以来、チーム力が向上し、現在ではJ1リーグに定着しつつあります。

大型補強などを実施していないベルマーレが飛躍できたのは、曺氏の指導によるもの。曺氏の著書『育成主義』(カンゼン)によると、指導技術を学ぶために訪れたドイツで、曺氏は現地のインストラクターから「あなたの指導は子どもたちを『Begeisterung(熱狂)』させた」という評価を得たそうです。

ドイツでの経験以来、「熱狂」が曺氏の指導スタイルのキーワードとなりました。2019年シーズンで監督就任から7年目を迎えた曺氏ですが、練習試合では、タッチ数を限定する、浮き球だけでパスをつなぐ、利き足と逆の足だけを使わせる、といったユニークなルールを設けるのだそう。同一の練習メニューを組んだことがないと曺氏は語ります。

あなたが部下に定期的なイベントの開催を依頼しているとしましょう。部下に仕事を依頼する際、マニュアル通りの指示しかしなかったら、やがてイベントはワンパターンな内容になってしまいます。

マニュアルから離れ、あなたの指示で部下を「熱狂」させましょう。たとえば料理を紹介するイベントだとしたら、国や地域の特色を打ち出す、ゲストとして著名人を招待する、SNSで中継するといった新たな試みを提案してみるのです。あなたの指示で、部下のモチベーションはアップするかもしれません。

指導者が相手を熱中させるように意識すれば、指示される側は応えてくれるはず。曺氏は次のように述べています。

自分が真剣に臨んだことで、相手が喜んでくれる。いままでに経験したことのない感動は僕を指導者への道に導くきっかけとなり、以来、選手たちを「熱狂させる」ことは僕のなかでキーワードであり続けている。

(引用元:ジュニアサッカーを応援しよう!|湘南ベルマーレ・曺貴裁監督が指導者として貫く信念。「同じ練習メニューは組まない」

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優れた指導者は、自分のやり方を押しつけるだけではなく、相手の自主性を尊重し奮い立たせるようなメンタル・コントロールを行ないます。相手の気持ちを把握することが、指導者になるための必須条件といえるでしょう。

(参考)
原晋(2015),『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』, アスコム.
東洋経済オンライン|青学・原監督「管理職の仕事は管理じゃない」
BUSINESS LEADERS SQUARE wisdom|原 晋氏(前編)~組織を強くするのは、グレーゾーンのある自由な議論だ~
BUSINESS LEADERS SQUARE wisdom|原 晋氏(後編)~常勝チームのつくり方は「引っ張り、声を聞き、巻き込む」こと〜
プレジデント・オンライン|いい上司ほど「指示待ち」の部下をつくる
Sportiva|初回6失点のベンチで…。大阪桐蔭を蘇らせた西谷監督の「言葉学」
曺貴裁(2018),『育成主義』, カンゼン.
ジュニアサッカーを応援しよう!|湘南ベルマーレ・曺貴裁監督が指導者として貫く信念。「同じ練習メニューは組まない」

【ライタープロフィール】
亀谷哲弘
大学卒業後、一般企業に就職するも執筆業に携わりたいという夢を捨てきれず、 ライター養成所で学ぶ。養成所卒業後にライター活動を開始し、スポーツ、 エンタメ、政治に関する書籍を刊行。今後は書籍執筆で学んだスキルをWEB上で活用することを目標としている。

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