あなたは、仕事を楽しめていますか?
「もちろん!」と胸を張って答えられる人は、そうそう多くないかもしれません。好きな仕事に就ける人はひと握りですし、仮に就けたとしても、気乗りのしない作業や面倒な物事はついてまわりますからね。
そこで役立つのが、今ある仕事を最大限楽しくするための「ジョブ・クラフティング」というスキルです。ジョブ・クラフティングとはいったい何なのか? どう実践するのか? 以下で詳しく解説していきます。
ジョブ・クラフティングとは?
ジョブ・クラフティングの「クラフティング」は、ペーパークラフトのクラフト(craft)と同じ英単語です。意味は “手芸” や “工芸”。つまり、単なる紙を切り貼りして美しい作品に仕上げるペーパークラフトのように、今ある仕事をアレンジしておもしろく作り変えてしまおうというのが、ジョブ・クラフティングの意味なのです。
仕事をおもしろくするといっても、転職や異動など仕事内容そのものを替えることは意味していません。あくまで仕事は同じままで、その捉え方を変えたり、創意工夫をしたりすることによって、仕事の質を変えることを目指すのです。
ジョブ・クラフティングでは、仕事を「1. 認知」「2. タスク」「3. 人間関係」の3つの要素に分けて考えます。大まかな流れとしては、まず「1. 認知」で仕事に対する根本的な捉え方を変え、その結果として、具体的な「2. タスク」と「3. 人間関係」を変化させていく、というステップを踏みます。
ジョブ・クラフティングの好例は「ディズニーの清掃員」
武蔵大学経済学部経営学科教授の森永雄太氏は、ジョブ・クラフティングのわかりやすい例として「ディズニーランドの清掃員(カストーディアルキャスト)」を挙げています。
カストーディアルキャストの場合、自分の役割を単なる掃除係ではなく、「ゲストをもてなすキャストの一員」ととらえ直すことによって、絵を描くなどのタスクや、ゲストに声をかけるといった人間関係を新たに生み出すことにつながっています。
(引用元:プレジデント・オンライン|"つまらない仕事"を変える自律的な働き方 ※太字は筆者が施した)
つまり、ディズニーの清掃員は、まず「単なる清掃員」という自己認知を変え、それにしたがってタスクと人間関係を変化させたのです。
【1. 認知】
単なる清掃員→キャストの一員
【2. タスク】
掃除→来場者をもてなす(ブラシで地面に絵を描くなど)
【3. 人間関係】
清掃員どうしの関わりのみ→来場者ともコミュニケーションをとる
では次章から、この3つの要素をそれぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 認知
まずは、今あなたが「つまらない」と思っている仕事についての見方を変えていきましょう。仕事に対する認知がいかに重要か、という例としては、経営学者のピーター・ドラッカー氏によるたとえ話が有名です。
ある建設現場に3人の石工がおり、それぞれに「あなたは何をしているんですか?」と質問したところ、1人目は「レンガを積んで生計を立てている」と答え、2人目は「腕のいい石工として働いている」と答えました。そして、最も生き生きと働いていた3人目の石工の答えは、「私は国で一番の大聖堂をつくっている」というものでした。
つまり、やっている作業そのものは同じでも、考え方しだいでガラリと見え方が変わってくるのです。仕事への認知を変えることは、ディズニーランドのような特別な職場に限ったことではなく、どんな職種でも可能なのではないでしょうか。コツとしては、石工の例にならって、仕事のゴールや本質、全体像、意義などについて考えてみましょう。
- 飲料品メーカーの事務職=会社のデータを管理する重要な仕事
- 携帯電話会社のテレフォンアポインター=顧客をサポートする仕事
2. タスク
仕事の認知を見直したら、具体的なタスクにも目を向けていきましょう。メンタリストのDaiGo氏によると、仕事の中に楽しさややりがいを生み出す最良の方法は、「新しいチャレンジをする」ことなのだそう。
119名の医者や看護師を集めてジョブ・クラフティングのトレーニングに関するセミナーを3時間程度行った実験があります。習ったテクニックを使って自分の仕事を楽しくするように促した上でそれぞれの仕事に戻ってもらいました。(中略)最もモチベーションが上がったのはチャレンジ・シーキング(挑戦を求める)でした。
(引用元: Mentalist DaiGo Official Blog|つまらない作業を楽しくする科学的方法 ※太字は筆者が施した)
仕事のやりがいとなる要素にはさまざまな種類がありますが、その中でも「新しいチャレンジをすること」が最もモチベーションを高めることがわかったのです。具体的には、作業のやり方をブラッシュアップしてみる、新しい目標を持つ、いつもの資料にプラスαの工夫を加えてみるなど、いろいろなやり方が考えられます。
- 飲料品メーカーの事務職=より効率のよい作業の仕方や、エクセルの表の改善策などを研究してみる
- 携帯電話会社のテレフォンアポインター=伝わりやすい話し方を本で学び、試してみる
3. 人間関係
また、人間関係も、仕事における重要な要素のひとつです。
多くの職場では、「開発部と営業部は関わりがない」「清掃員はお客様には話しかけない」などの暗黙の掟があり、人間関係が固着しがちになってしまいます。しかし、人間関係が新しく築かれたり、より円滑になったりすれば、仕事の質にもいい影響が及ぶはずです。
『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』などで知られる、IT批評家の尾原和啓氏は、会社の後輩の例を挙げながら、仕事における人間関係の重要性を語っています。
かつての僕の後輩は、事務職の傍ら、自社商品のユーザーに消費者インタビューをしてレポートを作成し、みんなに渡してくれることがありました。(中略)彼女はルーティン作業に退屈しないよう、このようなボランティアをしながら、いつもなら関わることのない部署の人や、チームとの交流を楽しむことで、仕事の手応えを感じていたのです。
(引用元:Forbes JAPAN|今の仕事を「天職」にする方法 ※太字は筆者が施した)
まずは、同僚を飲みに誘ってみる、客先での雑談を増やしてみるなど、小さなことから始めてみてはいかがでしょうか。
- 飲料品メーカーの事務職=自分なりにデータをまとめ、参考資料として営業部に配ってみる
- 携帯電話会社のテレフォンアポインター=他部署の人を交えた飲み会を開き、話を聞いてみる
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「仕事に対する認知を変える」「新しいチャレンジをする」「人間関係を広げる」。仕事を楽しくする、ジョブ・クラフティングの方法を解説しました。
「仕事がつまらない……」と嘆くばかりでなく、「どうしたら楽しくなるか?」「どうすればこの仕事に意義を見出せるか?」と考える習慣をつけましょう。
(参考)
プレジデント・オンライン|"つまらない仕事"を変える自律的な働き方
Mentalist DaiGo Official Blog|つまらない作業を楽しくする科学的方法
Forbes JAPAN|今の仕事を「天職」にする方法
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。