目のまえにはやるべき仕事が山積み……。「どうせ全部やらなきゃいけないんだから」と、とにかくがむしゃらに仕事を進めた結果、重要なタスクに手が回らなかった。これは、ビジネスパーソンの「あるある」といえるでしょう。
そんな状況を回避するには「『日報』をうまく利用すればいい」と語るのは、中司祉岐(なかづか・よしき)さん。企業ごとの独自の日報を作成し、その書き方を添削することでクライアントの業績を激増させているコンサルタント企業・株式会社日報ステーションの代表取締役を務めています。
日報の使い方を詳しくレクチャーしてもらう前に、まずは「業績が激増」した実例を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
日報を使って月商96万円が1000万円超に!
わたしが代表取締役を務める株式会社日報ステーションのクライアントには、業種業界を問わず多種多様な人がいます。弁護士に工務店の営業マン、なかには漁師さんも。そのなかから、ひとつ具体例を紹介しましょう。
そのクライアントは、生花販売店を営むflower46という会社。商品は「ハンギングバスケット」と呼ばれる寄せ植えに特化しています。先に結果をお伝えすると、弊社のコンサルティングによりflower46の本間社長が日報をつけるようになったことで、同社の月商は1年半で96万円から288万円に上がりました。約5年が経ったいまでは、ハンギングバスケットの販売個数、売上ともに日本一になり、月商は1000万円を超えています。
本間社長が日報を使ってなにができるようになったかというと、「日々のやるべきことをきちんとやる」ということです。「いつやるか? いまでしょ!」という有名予備校講師の言葉がありますが、本当に忙しいビジネスパーソンはなかなかそうできるものではありません。本間社長もまさに多忙なビジネスパーソンでした。
わたしがflower46のコンサルティングをはじめる当時、本間社長はネットショップの強化のためにハンギングバスケットの新作を毎月出すことに決めていました。でも、新作を出すためには、アイデアを考えて、実際につくって、写真を撮って、ネットショップのページをつくって、さらに客あてのメルマガを書いて……と、いくつもの工程をこなさなければなりません。加えて通常業務もありますから、彼の頭のなかはつねにごちゃごちゃの状態だった。日々のやるべきことを整理することなく感覚に頼ってやろうとしていたために、新作を出せないという月もあったのです。
感覚に頼って仕事をすると、人はどうしても手間がかかることや苦手なことをあとまわしにしがちです。そうして、やるべきことなのに行動に移せないということが起きるわけです。そこで、日報の出番です。本間社長はやるべきことをいつやるのかと細かく分解して日報に記し、仕事中にはそれらをチェックしながら確実にこなしていきました。
本間社長がやったことは、やるべきことをやるべきときにやったということ。いわば、あたりまえのことです。でも、そうできない人が多いために、きちんとあたりまえのことができれば、大きな成果に生むことになるのです。
組織内で力を発揮する日報の使い方
もちろん、日報は個人だけではなく複数の人間が所属する組織にも大いにメリットをもたらしてくれます。もっとも大きなメリットというと、「部下の行動や考えを上司が正確に把握できる」ことです。ただ、そのメリットを生むためには、ひとつの条件がある。それは、上司は「日報を見ても絶対に怒らない」というルールを徹底するということ。
部下というのは、どうしても上司の顔色をうかがってしまうものです。仕事のうえでうまくいかなかったことがあれば、「上司に怒られるんじゃないか……」なんて思って、本当のことを書かないということもあるでしょう。それでは、正確な情報を上司が得ることはできませんよね。そこで、「日報を見ても絶対に怒らない」というルールを組織内で共有する必要があるのです。
いま、ビジネスシーンでは「1 on 1(ワン・オン・ワン)」というマネジメント手法が広まりつつあります。上司と部下が顔を合わせて1対1の面談をすることで、部下の成長、パフォーマンス向上を促し、ひいては組織全体のパフォーマンスを上げられるというものです。うそ偽りのない日報は、「1 on 1」の延長線上にあるものであり、またその面談でも非常に有用なものとなるはずです。
日報の力を引き出すには「手書き」がベスト
最後に、日報の使い方というより書き方という点でひとつ注意しておいてほしいことがあります。それは、できれば「手書き」にしてほしいということ。日報は1日の終わりにまとめて書くのではなく、「ちょっとしたこと」でも気づいたその瞬間に書くことが大切です(『1日の終わりに “まとめて日報を書く” 人が成長できないワケ。』参照)。そうでないと、せっかくの気づきを忘れてしまうからです。
でも、パソコンを使う場合、電源を入れて、ソフトを立ち上げて、キーボードを叩いて……と、かなりおっくうですよね? そうすると、それを面倒がって「あとでいいや」と思ってしまいます。その場でその瞬間に必要なことを書きとめるには、やはり手書きが最強なのです。ウェブ日報を使っている会社に勤めている人なら、日中は持ち歩いているメモ帳に書き込むようにして、最終的にそれを日報に書き写すようにすればいいでしょう。
もちろん、手書きができるならiPadなどタブレット端末を使ってもいいと思います。スリープモードからの起動ならほとんど時間はかかりません。いずれにせよ、書き込むという作業が面倒に感じないものを使ってほしいですね。
【中司祉岐さん ほかのインタビュー記事はこちら】
1日の終わりに “まとめて日報を書く” 人が成長できないワケ。
“小さな気づき” をわざわざ書きとめる人が強いこれだけの理由。
【プロフィール】
中司祉岐(なかづか・よしき)
1980年12月25日生まれ、山口県出身。株式会社日報ステーション代表取締役。山口商工会議所エキスパート。山口県商工連合会エキスパート。財団法人やまぐち産業振興財団専門家。高校卒業後、零細飲食店に入社。集客を担当し、来店者数10倍、客単価2倍を実現。その後、大手アパレルチェーンで販売員として全国トップテンに入る業績を上げる。個人経営の工務店に勤務中、中小零細企業こそ少しの工夫で成果が出せると気づき、零細企業専門コンサルタントとして独立。代表取締役を務める株式会社日報ステーションでは、日報の赤ペンコンサル指導により数多くの企業の売上を大きく引き上げている。著書に『書くだけで自分が9割変わる』(プレジデント社)、『小さなひらめきが成果に変わる A4マイ日報で「勝ちパターン」仕事術』(幻冬舎ルネッサンス)、『A4 1枚で「いま、やるべきこと」に気づくなかづか日報』(経済界)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。