感情を「書いて」成功する。EQを高める”ジャーナリング”実践ガイド

ノートに手書きしている様子

IQの高さは成功の必須条件ではない——。仕事で多くの人と関わるうえで、日々感じる人も多いのではないでしょうか。それゆえ、対人関係力や感情のコントロールなど、人としての能力を求められる「EQ」が注目されているのかもしれません。

では、EQを高めるには? その方法はさまざまありますが、個人で実践するには「感情を書く」ことが効果的です。今回の記事では、「EQを高めるジャーナリング」の科学的な根拠とともに、筆者の実践報告を紹介しましょう。

感情を言語化するとEQが高まる理由

EQとは何か、そしてなぜ感情を言語化することがEQを高めるのに効果的なのでしょうか。

EQカウンセラーの大芝義信氏によると、EQとは**「自分や他者の感情をうまく管理し、活用する能力」を指します。*1 大芝氏はさらに、これを「心の運動神経や運動機能」、「言葉を上手に使う能力」とも表現しています。つまり、EQは頭脳中心のIQとは異なり、感情を言葉で認識し表現して対人関係を良好に保つ、言葉を使って心を柔軟に扱う能力なのです。*1

この「感情の言語化」とEQの関連性については、科学的な裏付けもあります。アメリカの物理学者レナード・ムロディナウ博士は、「好ましくないネガティブな情動を表現することは、その情動を鎮めるのに役立つ」と述べています。*2

この主張を裏付ける興味深い研究が、科学誌『ネイチャー』に掲載されました。2019年の調査では、約11万人の被験者による10億件以上のSNS投稿が分析されました。情動分析ソフトウェアを用いて投稿前後の情動を調べたところ、ネガティブな感情にのみ大きな変化が見られました。感情を表現したツイートの直後から、その情動の強度が急激に低下したのです。*2

この結果は、言葉で表現することでネガティブな感情をコントロールできることを示唆しています。これは大芝氏が述べる「自分の感情を管理」するEQの能力に合致します。

実際、厄介な同僚や思い通りにならない部下に対する怒りを心に留めておくと、感情が増幅するだけです。しかし、「イライラする」「やる気がでないから帰りたい!」と言葉で表現することで、"怒りを感じている自分"を認識しやすくなり、感情から一歩引いて見ることができます

つまり、言葉で表現することは、自分の感情を理解し、コントロールする効果があるのです。これがEQを高める上で「感情の言語化」が重要とされる理由です。

感情をコントロールして仕事をしている女性

EQが高まる書く瞑想「ジャーナリング」とは

前項では、感情を言葉で表現することが感情のコントロールにつながると説明しました。しかし、他人に直接ネガティブな感情をぶつけるのは適切ではありません。

感情を表現するなら、"紙に書く"方法が効果的です。他人に見せる必要がないため、自由に感情を書き出せるメリットがあります。

一般社団法人マインドフルネス瞑想協会代表理事の吉田昌生氏は、この方法をジャーナリング(=書く瞑想)と呼び、推奨しています。

私が提唱している「書く瞑想」とは、その名のとおり、ペンとノートを用意して、自分のなんとなく感じていることや考えていることを書き出す瞑想法です。*3

吉田氏によれば、「ブレインストーミングと同じような感じで、思いつくままに自由に書き出す」のがコツだそうです。文法や誤字を気にせず、頭に浮かんだ "自分の思い" に集中して書くことで、「自分でも意識していなかった言葉が出てきて気づきを得られる」と説明しています。*5

思考を紙に書き出し読み返すことで、「この出来事を繰り返し考えている」「この感情が強い」といった新たな気づきが得られるのです。自己理解が深まれば、ストレスを感じる場面を予測しやすくなり、自分の心をコントロールしやすくなります。

ノートに手書きしている手元

ジャーナリングを一週間試してみたら

理論上のジャーナリングの効果はわかりましたが、はたして本当に実感できるものなのでしょうか。一回では検証できないと考えたため、筆者は一週間にわたって、ジャーナリングを試してみました。

早速ペンとノートを用意。ダブルリングノートであるなら折り返せるため、外出時にスペースがとれない場所においても不便でないはず。ペンに関しては、筆力の弱い筆者でも書きやすいゲルインキボールペン、滲みが気にならない細めの0.3ミリを使用しました。

実践に使用したノートとペン

最近ネガティブ感情に振り回されているため、書き出すと止まらなくなりそう……と考えた筆者はタイマーで時間を区切ることにしました。家で書くのなら15~20分、外出先で書くのなら10分程度と、時間に余裕のある場合では長めに時間を取ります。

試しに最初の日、仕事終わりに15分時間をとって書いたところ……

実践初日のノート紙面

見開きいっぱいのネガティブな感情を書き連ねました。自己嫌悪に陥りそうになり、タイマーで中断。

5日目: 仕事への不安や、自分の性格の嫌いな部分が明確になってきました。新しい挑戦への対応に焦りを感じている自分が見えてきます。

このように、継続することで感情や思考のパターンが明らかになり、自己理解が深まっていきます。

ジャーナリングを始めて一週間目。再び仕事の悩みや自分のコンプレックスを書いていますが、「不安」や「プライド」、「こだわり」などのワードを多く使っていることがわかりました。

実践最終日のノート紙面

もしかしたら、筆者が「仕事がうまくいかない」と悩む背景には、自身の「完璧主義」傾向が関係しているのかもしれません。

一週間試したら、ストレスになりやすい傾向がわかった

一週間を終えてもう一度ノートを読み返してみたところ、これまで仕事中にイライラすることが多かった筆者は、「マイナス感情の底にはコンプレックスがある」と気づきました。仕事を効率的に進められないと自分の「こだわりの強さ」「要領の悪さ」という、コンプレックスが刺激されるため、いっそうイライラしていたのでしょう。

ジャーナリングで振り返って「イライラ」の根底にある感情を理解することで、表出したイライラ感情が治まってきました。第三者として分析できたからです。

また、筆者は毎日ジャーナリングをすることはしませんでした。テキサス大学のジェームズ・ペネべーガー博士によると、毎日欠かさず書くことは「自己憐憫のサイクルに陥ったりする」危険性があるのだそう。つまり、自分の世界観に没頭しやすいため、マイナス感情を客観視できないのです。

組織心理学者のターシャ・ユーリック博士は、間隔を空けて書くことを推奨しています。たとえば、リマインダーにジャーナリングをする日を設定するのもいいかもしれませんね。*4

***
EQの能力を高めるには、まず自分の感情を知ることから始まります。紙に書いてみて、いままで意識していなかった心の動きに注意を払ってみませんか?

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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