マイクロマネジメントを超えて:部下の成長を促す効果的なリーダーシップの実践

苛立っている上司

「報告が遅い。リモートワークで部下がサボっていないか不安だ……」
「細かくアドバイスをしても、部下のパフォーマンスがどんどん下がってしまう……」

2020年のコロナ禍以来、テレワークやリモートワークが普及し、働き方が変化した人は多いのではないでしょうか。同時に、上司の「マイクロマネジメント」の問題も表面化しました。意識の違うZ世代の育成ほか、働き方の変化でマネジメントに悩む人は少なくありません。

今回の記事では、アドバイスが響かない「マイクロマネジメント」を指摘し、適切なコミュニケーション方法を紹介いたします。ぜひ、ご一読ください。

マイクロマネジメントとは?

マイクロマネジメントとは、キャリアコンサルタント兼産業カウンセラーの藤本梨恵子氏によると——

上司が部下の行動に干渉し、過度に管理することをマイクロマネジメントと呼びます。*1

具体的に上司の干渉や過度な管理を挙げると、

  • 電話対応やメールに関して、上司が細かいマニュアルをつくってくる
  • 報告書の誤字脱字の指摘、フォントや行間の設定が適切ではないことまで注意する
  • 社内チャットの返信は10分以内ルール
  • 15分以上ログインしていなければ、上司から在席確認のメッセージが来る

通常なら上司が関わる必要のない細部まで、部下に干渉してしまうのです。これでは、部下側も、息が詰まるのは当然のこと。皮肉にも、チームをまとめる上司自ら職場を、ギスギスした雰囲気に変えてしまうわけですね。

では、なぜ上司は過度に部下を管理したがるのでしょうか? 藤本氏によると、マイクロマネジメントをする上司は「プレーヤーとしては一流の人が多い」のだそう。つまり、自分が有能であったがゆえに「部下にも自分と同じ高いレベルを求め」るのです。優れたプレーヤーとして活躍してきたからこそ、部下の心理に寄り添うのは難しいのですね。*1

藤本氏によれば、マイクロマネジメントをする上司には次の2通りのパターンがあるとのこと。

  1. 「部下の失敗が自分の責任になるのでは?」と考え不安が強い
    (例)期限に遅れることを心配し、毎日部下の進捗状況を確認したがる
  2. 自己顕示欲が強く「自分が管理者だ」とアピールしたい
    (例)顧客訪問の際、部下の対応の仕方を否定し、自分のやり方を教えたがる *1

上司からすれば、細かい管理や指導は「当たり前」と無意識に思っているかもしれません。しかし、そこで上司と部下のコミュニケーションのズレが発生してしまうのです。

細かすぎる指導をする上司

マイクロマネジメントにおける「細かいアドバイス」の問題点

マイクロマネジメントは、ただ部下が「うっとうしい」と感じるだけではありません。部下の育成を阻む可能性もあります。

リーダーシップに関する講演を行なう研修トレーナー、(株)らしさラボ代表の伊庭正康氏は、よかれと思って自身の経験を話したり提案したりする「アドバイスぐせ」があるのなら、「部下の主体性は著しく損なわれ」てしまうと語ります。

部下にとってみれば、自分のやり方を通すよりも上司から言われたとおりに行動するほうが、あとから指摘されることもありません。見方を変えれば、アドバイスが多ければ多いほど、部下は “自分の頭で考える” 機会を失ってしまうのです。

そうなると、当然——

部下を伸ばすどころか、やる気を削いでいるのが現実です。上司にとってはアドバイスのつもりでも、部下は指示だととらえてしまうからです。*2

特に部下が有能であるのなら、自分の能力を発揮するために自分で考えて行動することを望むもの。逐一上司が業務に干渉することは、育成にはならず、かえって部下のモチベーションを下げることにつながってしまうのです。

では、育成するにあたって、部下のポテンシャルを引き出すために何が重要なのでしょうか。それは、指示で部下を動かそうとするのではなく、“自分で決めてもらう” こと。

ダブリン市立大学ビジネススクールの組織心理学教授、イゼルト・フリーニー氏は、研究から従業員に自己決定感を持たせる重要性を説明しています。

Research tells us that people need to be self-determined. That is, to make decisions about how they go about their work, that they have freedom to make choices and take initiatives

(研究によると、人々は自己決定的である必要があります。つまりそれは、仕事の進め方を自分で決め、選び、主導権を握る自由が必要だということです)*3

指示されたとおりに動けば、部下は間違いなく上司との衝突も避けられるでしょう。しかし、それでは自分で創意工夫する楽しさが奪われてしまいます。仕事本来のやりがいは、自分で考えて行動したものが、成果につながるまでのプロセスなのです。

楽しく仕事をする人々

アドバイスではなく、部下と対話をする「GROW」

とはいえ、「部下に自己決定感を持たせるために、仕事を任せよう!」と簡単に思えないのがマイクロマネジメントをしてしまう側の心理。場合によっては、細かい指示がなければ行動に移してくれない部下もいますよね。

前出の伊庭氏は仕事を任せるためにも、丸投げではなく「期限・優先事項・目的・ベストな成果」の4つのポイントを明確にして任せることが重要だと語ります。

たとえば、次のような具合。

顧客満足度の調査をお願いしてもいいかな。まずは、顧客リストを作ってアンケートの原型を〇日までに決めてほしい(期限)
今回は特にリピート率の高い顧客が、何を評価しているのかを詳しく知りたいんだ(優先事項)
A社やB社と比較して自社商品の売りが知りたいからね(目的)
アンケートで分析したら、売り上げを20%上げるために改善点を洗い出そうと考えている(ベストな成果)。*2

このように、やるべきポイントを押さえた具体的な指示であれば、部下も行動のイメージがしやすいはず。

そのうえで、次に上司が部下の主体性を引き出すために重要なのは、「対話」です。対話と聞くと、漠然と高度なコミュニケーションをイメージしてしまいますが……伊庭氏は「コーチングのGROWモデル」のフレームワークが参考になるとすすめています。

GROWとは「Goal・Reality/Resource・Options・Will」それぞれの頭文字をとったもの。たとえば、部下との話し合いに次のような質問を投げかけてみてはいかがでしょう。(カギカッコ内および参考元:同上)

  • Goal=会話のゴール
    「今日は先月企画したプロジェクトの進行具合について話そうか
  • Reality/Resource=現状の確認
    「現状の進捗具合だと、四半期までに何%まで到達できそう?」
  • Options=対策の選択肢
    「人員不足がネックになるなら、ほかの部から応援してもらうこともできるし、外部に委託することもできるね。ほかにも選択肢はあると思うけど……ほかにいい対策はあるかな?」
  • Will=本人の意思
    「じゃあ、いま挙げた方法のなかでもっとも効率的な対策はなんだと思う?」

伊庭氏によれば、GROWのフレームワークを厳密に守るのではなく「一緒に状況と原因を確認し、複数の方法の中から、自分の意思で選んでもらう」ことを念頭に置くのが好ましいとのこと。あくまで上司は部下の状況を確認する側。質問を繰り返しながら、部下の意思を引き出し、自己決定してもらうのです。(カギカッコ内引用元:同上)

部下をマネジメントするためにも、彼らの意思を掴むことが大切です。対話で自己決定を促すことを繰り返せば、「自分の頭で考える」部下を育成できるでしょう。

***
部下が優れたプレーヤーとして育ったのなら、あなたのマネジメントが一流だった証拠です。そのためにマイクロマネジメントを避け、部下との対話を心がけてみてくださいね。

※引用部分の和訳は筆者が補った

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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