近年、子ども教育の場やビジネスシーンにおいて、「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」という言葉を見聞きすることが増えてきました。そもそもEQとはどういうもので、ビジネスパーソンにどんな影響を与えるものなのでしょうか。国内トップクラスのEQカウンセラーである大芝義信さんに解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
大芝義信(おおしば・よしのぶ)
1975年生まれ、東京都出身。(株)グロースウェル代表取締役。楽天、ミクシィ、GREEでキャリア形成。2013年に株式会社AppBank(証券コード:6177)入社。CTOとしてIPOを経験後、2016年に株式会社グロースウェル創業、累計100社以上の支援実績をもつ。ビジネスと技術の両面から経営支援。組織支援にはEQ(心の知能指数)を導入して累計1,000名超と国内トップクラスの実績をもつ。2021年、大月市DXアドバイザー。2022年、一般社団法人日本地方創生DX協議会(JRXA)理事。著作に『組織の感情を変える』(日本実業出版)、『DX時代のIT導入マニュアル』(BookTrip)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
「EQ」とは、「心の運動神経や運動機能」
「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」とは、アメリカの心理学者であるピーター・サロベイとジョン・メイヤーによって1990年に提唱された概念であり、一般的には「自分や他者の感情をうまく管理し、活用する能力」を指します。
「IQ(Intelligence Quotient)」を「知能指数」と訳すことに対して、EQは「心の知能指数」と呼ばれたり、あるいは「感情知能」「情動知能」と言われたりすることもあります。ただ、私としては、IQが頭の運動神経や運動機能だとすると、EQは「心の運動神経や運動機能」と認識するのが一番しっくりくるのではないかと考えています。
もっとかみ砕いて言うと、EQは「言葉を上手に使う能力」と言ってもいいでしょう。人間は「感情の生き物」と言われることもありますが、その感情を認識したり表現したり、あるいは場面によってさまざまな感情をもつ他者や自分とのコミュニケーションにおいても言葉が重要な役割を果たすからです。
そして、このEQはビジネスパーソンの成果にも大きな影響を与えます。世のなかの仕事は、チームでこなす仕事と、ひとりで黙々とこなす仕事の大きくふたつに分けられます。前者の仕事に携わっている人の場合、それこそ他者とのコミュニケーションが重要であることは言うまでもありません。
上司の立場にある人なら、指示を出せばその役職の力によって部下も従ってくれるでしょう。でも、チームでより大きな成果を挙げようと思えば、指示をせずとも自ら率先して仕事をこなしてくれるように、部下の感情に注目しながらその気にさせることも大切です。そのときに、上司のEQが問われるのです。
一方の、ひとりで黙々とこなす仕事に携わっている人にとっても、EQは重要です。私たちは、ひとりのときも自分の感情と向き合いながら対話をしているからです。
「今日中にやろうと思っていた仕事があるけれど、面倒だしまだ時間もあるから明日でいいか」なんて思って仕事を先延ばしし続ければ、もちろん成果を挙げることは難しくなります。そのとき、「なぜ『面倒だ』という感情をもったのか?」「どうすればその感情から自分の行動をよりよい方向に変えられるのか?」などと考えることにもEQが大きな働きをしているのです。
EQの低さが、自らの成長を阻害する
では、EQが低い場合にはどんなデメリットがあるでしょうか。先の例で言えば、チームで仕事をしている人でもひとりで仕事をしている人でも、大きな成果を挙げにくくなることはもうわかりますよね。
ほかにも多くのデメリットがありますが、特に若い人の例だと、自分の成長を阻害することにもなりかねないということが挙げられます。感情には、瞬間的に発生する「衝動」と呼ばれるものもあれば、いわば「ムード」とも言うべき長期的に発生し続けるものもあります。
職場において若い人がもちがちな長期的な感情としては、いつの時代も「上司が嫌い、ムカつく」というものが代表格でしょう。では、EQが低いためにその感情をうまくコントロールできないとどういうことが起きるでしょうか。
普段はムカつく上司であっても、時には本当に部下のためになるようなアドバイスをすることだってあるはずです。それなのに、EQの低さゆえに「上司が嫌い、ムカつく」というムードに支配されていると、上司から言われたどんな言葉もマイナスにとらえてしまいます。
そのため、本当なら上司の言葉から自分の成長につながる気づきを得られたかもしれないのに、そうできなくなってしまうこともあるのです。それでは損するだけですよね。
EQを高めるために、いまこそ「手紙」を書く
では、肝心のEQを高めるためにどうすればいいでしょうか? そのための方法はいくつもありますが、ここではその一例を紹介します。
冒頭にお伝えしたように、EQとは「自分や他者の感情をうまく管理し、活用する能力」です。その目的とはなにかというと、対象が自分であれ他者であれ、人をよりよい未来に向かって導く——すなわち「マネジメント」することです。
そして、マネジメントの領域で欠かせないのは、まず「観察して知る」こと。マネジメントの対象がどんな感情をもっているのかという現状がわからないとマネジメントしようがないからです。
そう考えると、EQを高めるためにまずやるべきは、「いまの自分の感情を言語化する」ことになります。そうして客観視することで、感情を観察して知る力を高めていくのです。
ただ、いまはこの作業をする機会が減っている時代です。SNSなどでのやり取りも「いいね」ボタンを押したりスタンプを送ったりするだけということも多いからです。ですから、意識的に自分の感情を言語化する機会を増やしていくことが大切となります。
私からは、手紙をおすすめしたいですね。それこそ手紙を書く機会は減っていると思いますが、手紙を書くときにはSNS上でのやり取りとは比較にならないほど自分や相手の感情にしっかりと注目するからです。
一般的には女性のほうが男性よりコミュニケーション能力が高いと言われるものですが、それにも手紙がひとつの要因となっているのではないでしょうか。小中学生の頃、男子からすれば「なにをそんなにやり取りすることがあるのか」と不思議になるほど女の子どうしは頻繁に手紙をやり取りしていましたよね。それによって女性のEQが高まり、ひいてはコミュニケーション能力も高まっているのかもしれません。
【大芝義信さん ほかのインタビュー記事はこちら】
仕事のパフォーマンスが高い人に備わる「EQ」8つの能力。まず伸ばしたいのは “この力”
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