「お客様は神様です」—— この言葉、今や新たな視点で捉え直す時期に来ているのかもしれません。
近年、「カスハラ」という言葉が社会で注目を集めています。カスタマーハラスメント、略して「カスハラ」とは、顧客が企業の従業員に対して過度な要求や無礼な言動をする行為を指します。
この問題の深刻さを反映して、東京都ではカスハラ防止条例案を議会に提出することが発表され、大きな話題となりました。*1
なぜカスハラは社会問題として浮上しているのか? どのような影響があり、どう防ぐことができるのか? 本記事では、カスハラを含むハラスメントの実態と対策について解説していきます。
顧客と企業の健全な関係とは何か、私たちにできることは何か。一緒に考えてみましょう。
カスハラが増えている背景
まず、カスハラについて考えてみましょう。
カスハラが増えている要因のひとつとして、SNSの普及による情報の広がりが挙げられます。顧客が不満をもつと、瞬時にそれをSNSで拡散する可能性があります。それは企業の評判に大きな影響を与えるため、企業は不当な要求も受け入れざるを得ないのです。
また、消費者はSNSにより簡単に情報を収集し、ほかの消費者の体験談や評価を確認できるようになりました。これにより、顧客はほかの顧客が受けた対応を自分も受けられるのではないか、と考え無理な要求をすることが増えています。
たとえば「SNSで割引価格で製品を購入した人を見て来店、すでにキャンペーンが終了したことを知り、納得できずに暴言を吐く」というようなケースが考えられます。
このように、SNSを通じた情報拡散の特性は、企業に対するプレッシャーを強めています。
さらに、関西大学社会学部の教授である池内裕美氏は「過剰サービスによる過剰期待」をカスハラが起こる要因として挙げています。*2
各企業がこぞってサービスを向上させてきたことで、ほとんどの希望は叶えることができる社会となりました。しかし、それによりかえって希望が叶わなかったときに大きな不満を生むこととなってしまったのです。
こうした状況に対処するため、企業はカスハラ対策を強化する動きを見せています。
たとえば、ローソンはカスハラに対するマニュアルを制定し、対応を明確化したことで注目されました。*3
カスハラを受けたと判断した際は話し合いのほか、警察や弁護士などへの相談も含めて組織的に対応する。今後の入店を拒否する場合もあると明記した。
同様に、従業員がカスハラを受けた際に迅速に報告できる体制の整備や、法的措置を取るための用意をする企業が増えています。
顧客として私たちが気をつけなければいけないこと
では、カスハラをしてしまわないために、私たちが顧客として気をつけるべき点について考えてみましょう。顧客は、サービスを受ける際に自分の権利を主張できる立場にありますが、それが他者に対してどのような影響を与えるのかを考える必要があります。
まず、相手も「人」であることを忘れないことが重要です。従業員も人間であり、感情をもっています。私たちが顧客として不満をもつことがあっても、その不満を伝える方法には配慮が必要です。冷静に事実を伝え、相手の意見や状況を理解しようとする姿勢が求められます。感情的になってしまうと、問題解決が遅れるだけでなく、相手にストレスを与えてしまうことがあります。
サービス業務には限界があり、すべての要求を満たすことができるわけではありません。営業時間外の対応や、特定の商品が在庫切れの際の無理な注文など、相手に過度な負担をかける行為は避けるべきです。こうした要求は、結果的に従業員を追い詰めることになります。
企業として気をつけなければいけないこと
次に、ビジネス上でハラスメントの加害者とならないために、企業として気をつけるべき点について考えていきましょう。
取引先などへの暴言や横柄な態度は企業の評判を落とすことにつながり、大きなデメリットをもたらします。ハラスメントをしていないか、部下や従業員に定期的に注意喚起をしていきましょう。加害者は自分がハラスメントをしていると自覚していない可能性もあります。
たとえば、ビジネスで取引先と接するときには感情的にならないよう配慮が必要です。「用意ができないのであれば今後の取引は停止する」「会社の悪評を企業のレビューサイトに書き込む」といったような脅しをかけるような言動は、ハラスメントに該当します。
では、ハラスメントを防止するための対策について、4つの手順で解説していきましょう。
ハラスメントの定義の確認
ハラスメントとは何か、定義を確認しておきましょう。どういった言動や態度がハラスメントに該当するか、自社のマニュアルや厚生労働省の提供しているマニュアルを利用して、組織として認識を一致させておくことが大切です。
取引先を尊重する
取引先を尊重し、協力的な関係を築く意識をもつことが重要です。これにより、相手との信頼関係を深め、長期的な協力関係を維持できます。
取引先が提供している業務内容の確認
無理な要求をしないよう、取引先の業務内容や稼働時間、依頼内容とその費用などを確認しておきましょう。
そのうえで、取引先の業務範囲内で対応が不可能な場合には、代替案で対処できるようあらかじめ用意をしておきましょう。
ハラスメントの発生しやすい状況の想定と、その対策を考える
業務の中でハラスメントにつながる状況を想定して、対策を考えておきましょう。
たとえば、「取引先のスケジュールを無視して、短期間での納品を強制する」「取引先の利益を無視して、一方的に価格を下げるよう強要する」。このような依頼は、ハラスメントとして問題になる可能性があります。
対策としては、「取引先の進捗の遅れを確認した場合、上司や同僚に早い段階で報告をする」「コスト削減が必要な場合は、取引先と対等な立場で話し合い、相手方の意見を尊重する」などが挙げられるでしょう。
このように、ハラスメントを未然に防ぐ意識をもっておくことで、感情的にならず、余裕をもって対処することができるでしょう。
ハラスメントを防ぐために
カスタマーハラスメントを含むハラスメントは、現代の社会において深刻な問題となっています。顧客としては、相手も人間であることを忘れず、冷静かつ適切な対応を心がけることが重要です。ビジネスのうえでも、取引先との関係性を守るため、従業員に適切な教育や対策を整備することが求められます。
自分が相手に求めてよい範囲を正確に把握し、お互いに尊重し合うことで、よりよい社会と健全なビジネス環境を築いていきましょう。
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ぜひこの記事を参考にして、ハラスメントに問題意識をもち、対策を練ってみてくださいね。
*引用部分の太字は編集部が施した
*1 日本経済新聞|東京都のカスハラ防止条例案、9月議会に提出 罰則なし
*2 公益社団法人日本心理学会|なぜカスハラは起こるのか─悪質クレームの現状と課題
*3 日本経済新聞|ローソン、「カスハラ」対策方針を制定 迷惑行動を明記
厚生労働省|カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
髙橋瞳
大学では機械工学を専攻。現在は特許関係の難関資格取得のために勉強中。タスク管理術を追求して勉強にあてられる時間を生み出し、毎日3時間以上勉強に取り組む。資格取得に必要な長い学習時間を確保するべく、積極的に仕事・勉強の効率化に努めている。