同僚のあの人は、意見を述べるとき説得力がある。どうやら日頃の勉強が活きているようだ。それなのに自分は、勉強をしてもなかなか仕事で活かせていない……。
このように悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
勉強したことを活かせる人とそうでない人――両者の違いは、ある習慣の差です。
今回の記事では、仕事で活かせる “実りある勉強” をするための方法をご紹介します。筆者自身も実践してみて、たしかな効果を得られましたよ。
「実りのない勉強をしがちな人」の特徴
ビジネスパーソンのなかには、読書や動画教材によってインプットすることは頻繁に行なっているものの、インプットしただけで終わりになっている人が多くいるようです。まさにこれこそが、「実りのない勉強」の典型的な特徴。
人材紹介サービスを提供するエン・ジャパン株式会社が、2019年に行なった調査(12,017人が対象)では、社会人学習者の45%が「学習方法は『読書』」と回答したそうです。(カギカッコ内引用元および参考:エン・ジャパン|1万人が回答!「社会人の学習習慣」実態調査)
社会人の学び方としては、インプットが代表的であることがうかがえますね。
一方、インプットの対であるアウトプットまで行なう社会人は少ないよう。
明治大学文学部教授・齋藤孝氏は、特に日本人はアウトプットの苦手意識から「インプット過多でアウトプット不足」に陥る人が多いのだと言います。その要因は次のとおり。
- 「遠慮」
- 「恐怖心」
- 「アウトプットする心構えができていないということ」
(カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|アウトプットが苦手な人の3つの特徴)
つまり、私たちは謙虚さや失敗を避けたい気持ちからアウトプットを避けてしまいがちなだけでなく、そもそも “アウトプットをする” 行為自体になじみがないのです。だから、いくら書籍や動画コンテンツなどからインプットしても、多くの人はそれで満足し、学習を終わらせてしまうわけです。
しかし、齋藤氏は次のように語ります。
社会人はつねに成果に結びつくアウトプットが要求されますし、そのアウトプットの質が、そのまま評価につながります。
(引用元:同上)
学生の勉強であれば、インプットのみでもひとまずは問題ないかもしれません。ですが社会人ともなれば、プレゼンやミーティングで自分の意見を述べたり、アイデアを出したりする必要があります。
そんなときに、鋭い意見を言ったり、説得力ある話を展開したりできるか――ここで、インプットして終わりにする人とそうでない人の差が出てくるのです。
「勉強したことを活かせる人」の特徴
前述の内容をふまえれば、インプットで終わりにせずアウトプットまですることが、「勉強したことを活かす」ことにつながると言えます。
アウトプットすることは、記憶にもよい影響を与えます。本で読んだ内容を実際にノートにまとめたり、誰かに教えたり、記事を書いて発信したり――。そのようなアウトプットを通して、私たちはインプットした内容を整理し、記憶に定着させることが可能になるのです。
さらに、アウトプットを継続すれば、理解度が高まり「わかる!」という喜びも得られるでしょう。アウトプットによって生まれる好循環について、前出の齋藤氏も次のように述べています。
アウトプットすることで、インプットした情報が脳の記憶に定着しやすくなりますし、何よりアウトプットすることに慣れれば、アウトプットがますます楽しくなってくるという好循環が生まれます。
(引用元:同上)
ただ、多忙な社会人にとってアウトプットを習慣化させることは簡単ではありませんよね。時間は有限だからこそ、ムダなく効果が出る正しいアウトプットの仕方を知る必要があります。
そこで参考にしたいのが、こちらのアウトプット法です。米国・心理学会が運営する「Association for Psychological Science」が、研究において著しい効果を上げたアウトプット法として、「テスト効果」と「間隔学習」を組み合わせた「連続的再学習(=Successive Relearning)」と呼ばれる手法を紹介しています。つまり、「期間を置いて復習すること」と「思い出す作業」をかけ合わせるのです。(参考:Association for Psychological Science|Teaching: Successive Relearning / Thriving After Psychopathology)
たとえば、とある日に勉強用の本を読み終えたとしたら、以下のように期間を空けて、思い出しながら復習をします。
- 翌日、内容を覚えているかノートに書き出してみる
- 3日後、覚えていることをノートに箇条書きで書いてみる
- 1週間後、覚えている内容のまとめを誰かに話してみる
多くの人にとって、復習はテキストを読んで終わるのみでしょう。しかし、このように “思い出す作業” を繰り返すだけで、学習内容を習得しやすくなるのです。
米国・ケント州立大学の研究報告では、この連続的な再学習法を使用して学習することで通常の学習と比較して10%高い成績を示し、約1か月後には40%高い成績が得られたのだそう。
「何度も何度も繰り返し復習するのは手間がかかりそう……」と、心配しなくても大丈夫です。研究に携わったケント州立大学教授のキャサリン・A・ローソン博士らによれば、連続的再学習の効果は「復習を3回行なうだけでも十分」とのこと。これなら、アウトプットのコストが減り、無理なく継続できるのではないでしょうか。
(ここまでの研究内容についての参考元:同上)
「実りのない勉強」の改善にチャレンジしてみた
連続的再学習では従来のアウトプットと比べて、実際にはどのような効果が現れるのでしょう? 経済学の学び直しをしている筆者の例とともに、詳しく紹介していきます。
今回の勉強内容は、環境経済学。ニュースで断片的に環境問題について聞くことはあるものの、それについてなんの意見ももてていない状態でしたので、インプットしたことをふまえて何か発信ができるレベルを目指し、勉強することにしました。
日本女子大学人間社会学部教授の竹内龍人氏によれば、「忘れかけたタイミングで復習すると定着しやすい」とのこと。(カギカッコ内引用元:Bennesse|その日に復習をするのは非効率だった!? 「実験心理学」による効率的学習法【前編】)
記憶力に自信がない筆者は、3回の復習の間隔を「初日」「3日後」「1週間後」と設定しました。
連続的再学習 1回目<初日>
本を読んだ直後に内容を紙で再現してみましたが、ところどころ抜け落ちている部分が……。たとえば「カーボンプライシング」は、その意味をひとことでまとめられるほど理解していなかったのを痛感しました。
抜け落ちていたところは、本で確認しながら青ペンで補足します。
ここで再び、「そうだった!」と “思い出す作業” が起こり、曖昧な部分がくっきり浮かび上がりました。
連続的再学習 2回目<3日後>
リマインダーの通知が来て、「3日も経っていたら、もう忘れているのではないかしら」と懸念しつつ、再びアウトプットをしたのがこちら。
意外と覚えていました……! 初日のアウトプットでは思いつくものをバラバラに書き出していましたが、時間を置くとそれぞれの項目ごとまとめて思い出すことができました。
連続的再学習 3回目<1週間後>
ここまでの1週間、プライベートが忙しかった筆者。「雑念で上書きされて、半分は忘れているだろう……」と思いながら書き出したものが、こちら。
驚くことに、初日・3日後よりも整理されていて、しっかり書き出せました。
なぜ、間隔を置いてアウトプットするだけでここまで効果が出たのでしょう? 次項で、その考察をお伝えします。
「3回のアウトプット」は記憶定着に効果大
連続的再学習で驚いたのは、初日より最終日のほうがより記憶に残っていたことです。「アウトプット → 答えを確認」を3回繰り返すことで、すでに覚えている知識の上に新たな知識を薄く塗り重ねていくこととなりました。つまり、“思い出す作業” を繰り返したおかげで、学習内容が鮮明に記憶に残ったわけです。
また、紙に書き出すうちに、学習内容が整理されていくことを実感。「誰かに話せる状態」まで内容をまとめて覚えることができました。
留意すべき点は、思い出す間隔。前出の竹内氏が述べるとおり、“忘れかけた” 頃に思い出すのがポイントのようです。軽く負荷のかかるアウトプットをすることで「思い出せた!」という快感を味わえますし、学習内容がより印象に残ります。みなさんもご自身の “忘れかけた” タイミングで、実践してみてくださいね。
あるテーマについて何も覚えていない状態では、意見を述べることはできないもの。今回、環境経済学についてアウトプットを交えながら勉強したことで、意見を述べるための知識の土台はできたと思います。
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「インプット → アウトプット」のサイクルを回せば、どんどん学びを活かせるはず。
一目置かれるような意見を述べたり、あっと言わせるアイデアを出したり――仕事で活かせる “実りある勉強” をするために、ご紹介した方法が参考になれば幸いです。
エン・ジャパン|1万人が回答!「社会人の学習習慣」実態調査
ダイヤモンド・オンライン|アウトプットが苦手な人の3つの特徴
Association for Psychological Science|Teaching: Successive Relearning / Thriving After Psychopathology
Benesse|その日に復習をするのは非効率だった!? 「実験心理学」による効率的学習法【前編】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。