勉強意欲が高まる方法や、勉強効率が上がる方法をお探しなら、まずは「目下、熱心に勉強中」の人を探し、その人の近くで勉強する、あるいは一緒に勉強するといいかもしれません。
専門家たちの言葉は、学ぶ人との関わりで、自分自身の勉強効率も上がることを示しています。詳しく説明しましょう。
脳は周囲の人の脳とシンクロしている?
受験生専門の医療機関・本郷赤門前クリニック院長の吉田たかよし氏によれば、脳は環境とシンクロ(同期)して働くのだとか。近年の研究でわかってきたそうです。つまりそれは、“勉強に最適な状態” に環境を整えれば、脳がスムーズに勉強モードになるということ。
吉田氏は、ひとりで勉強しているとダラけてしまいがちな人に対し、たとえば塾や予備校の自習室など周囲の人が熱心に勉強している環境に身を置くようアドバイスしています。もう少しシンクロについて掘り下げてみましょう。
■ 世のなかで起こっているシンクロ
シンクロといえばメトロノームを使った実験が有名ではないでしょうか。「リズムが合っていないたくさんのメトロノームを集めると、最初は動きがバラバラなのに、不思議とだんだん足並みがそろってくる」というものです。
東北大学 材料科学高等研究所 教授の千葉逸人氏(資料当時は九州大学 数理学研究院 准教授)によると、同一の物たちが互いに影響を及ぼし合い、足並みをそろえていくことを「同期現象」と呼ぶそうです。1本の木に集まったたくさんのホタルが、みな同じタイミングで点滅し始め、大きな光をつくり出していくのも同じ現象とのこと。
千葉氏によれば、人間の体も同期現象の宝庫なのだとか。たとえば心臓は、心筋細胞たちが同期し、同じタイミングで震えることによって大きな拍動を生み出すのだそう。脳細胞たちは、同期することで同じタイミングで電流を放流させ、大きな電気信号をつくって私たちの手足を動かしているそうです。
■ 見つめ合うふたりに起こるシンクロ
また、自然科学研究機構 生理学研究所教授の定藤規弘氏ら研究グループがコミュニケーション時の脳活動を観察したところ、次のことがわかったのだとか(2015年10月26日に米国科学誌『Neuroimage』に掲載)。
- 二者が見つめ合うと、初対面であっても右中側頭回の脳活動が同期する
- 見つめ合ったあと、目線を何か同じ対象物に向けて、再び見つめ合うと右中側頭回のほか右下前頭回の脳活動も同期する(脳活動部位が広がる)
- 初対面では二者間の「瞬きの同期現象」は起こらないが、同期する脳活動部位が広がっていくと、瞬きの同期現象も強くなっていく
これはまさに、熱心に勉強する人と一緒に勉強すればするほどシンクロして自分もスムーズに勉強モードになることを示唆しています。
誰かに教えると自分も効果的に学べる?
また、自分が勉強したことを他人に教えると、自分自身の学習にも磨きがかかるのだとか。セミナーや研修の講師を頼まれることが多い弁護士の谷原誠氏は、その反応を常に活かしているそうです。
同氏いわく、自分のためだけに勉強すると多少内容を理解していなくても先に進んでしまうことがあるが(あとでやればいい的発想)、他人に教えることを前提として勉強すると、理解できるまで読み直したりとことん調べたりするので、結果として自分自身の理解が深まり、記憶の定着もよくなるとのこと。
谷原氏は「自分が興味のある法律を勉強し、それを30分ほどほかの弁護士に教える」といった勉強会を開くこともあるといいます。 その谷原氏がすすめる勉強法は次のとおり。
- 勉強したことを他人に教える機会をつくる
- 他人に教えるつもりで勉強する
- 学習後にエアセミナーをひとりで開催してみる
■ 人に教える前提で勉強=「AGESモデル」
そうしたなか、研究機関&コンサルティングファームのNLI(NeuroLeadership Institute)は、効果的な学習を実現するための「AGESモデル」を作成したそうです。じつは、谷原氏の「人に教えることが自身の勉強にもいい」という考えは、この学習モデルにも共通しています。
NLIの研究責任者・主任教授であるJosh Davis氏によれば、AGESモデルの4原則すべてが活性化しやすいのは「自分が学んでいることを誰かに教える責任をもつこと」なのだとか。4原則の内容を見てみましょう。
- Attention(注意/集中):学ぶときはひとつだけに集中
- Generation(生成/アウトプット):学んだ情報を活用して記憶強化
- Emotion(感情):学びを強い感情に結びつけて記憶強化
- Spacing(間隔):記憶を増やすために休憩を入れる
他人に教えることを前提として勉強すると、理解できるまでとことん勉強すると谷原氏は言いました。それは=Attention(注意/集中)に通じます。
また、他人に教えるということは、自分が学んだ情報を活用するということ――いわゆるアウトプットです=Generation(生成/アウトプット)。
そして、自分が学んだことを誰かに教えようとするときは「相手を失望させたくない」「知的に見せたい」「さすがと言われたい」といった感情も働くでしょう=Emotion(感情)。
それに、責任をもって教える場合は自分の理解が深まってから教えるので、教えるタイミングは学習した直後ではなく、日を置いてからになるはず。間隔を空けて復習を重ねるような状況が生まれやすいのです=Spacing(間隔)。
こうして見ると、たしかに「自分の学びを人に教えること」はAGESモデルに合致します。Davis氏によれば「人は教えるとよりよく学ぶようになる」という研究報告もあるとのこと。それなら勉強仲間と、それぞれの得意分野を教え合いながら勉強すれば、お互いにメリットが生まれるわけです。
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「学ぶ人」との関わりで、自分自身の勉強効率もグンと上がることについてお伝えしました。専門家たちの背景を考慮すると――いい勉強仲間を見つけてお互いを高め合う――これ、精神論じゃなくて、生理学的、数理学的、かつ神経科学的な考えだったんですね……!
(参考)
九大数理学研究院|千葉逸人 准教授 同期現象の数理
生理学研究所|みつめあった「記憶」は、二者間の脳活動の同期として痕跡を残す − 二者同時記録fMRIを用いた注意共有の神経基盤の研究 −
大学受験パスナビ|意欲・集中力&能率が大幅アップ! 受験に成功する“環境”のつくり方
まぐまぐニュース!|なぜ「人に教えること」を前提に勉強すると高い効果が上がるのか
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STUDY HACKER 編集部
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