資格試験で合格するなど、勉強で目指す結果にたどり着くにはどの程度の勉強が求められるのでしょうか。
勉強法の専門家としてメディア出演も多い宇都出雅巳さんは、その基準として、問題に対して「いまさらそんなこと聞かないでよ」と言えるくらいの「あたりまえ化」というものを示します。そして、その「あたりまえ化」のためには、「読む」「思い出す」「語る」の「3つの基本動作」を繰り返すことが重要になると言います。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
宇都出雅巳(うつで・まさみ)
1967年生まれ、京都府出身。速読✕記憶術を活用した勉強法の専門家。トレスペクト教育研究所代表。東京大学経済学部卒。出版社、コンサルティング会社に勤務後、ニューヨーク大学に留学(MBA)。外資系銀行を経て2002年に独立。30年以上にわたり、速読・記憶術を試験勉強に活用しながら実践研究を続け、脳科学や心理学、認知科学の知見も取り入れた独自の勉強法を確立。司法試験、医学部受験など難関試験にチャレンジする多くの受験生を合格に導くとともに、自らもCFP(フィナンシャルプランナー)、行政書士、宅建士、公認会計士試験などに合格。TOEIC®L&R TESTでも990点(満点)取得。『仕事のミスが絶対なくなる頭の使い方』(三笠書房)、『武器になる読書術』(総合法令出版)など著書多数。
合否を分けるのは、基本問題を落とすか落とさないか
私が言う「あたりまえ化」とは、試験問題などに対して「そんなの常識でしょ」「いまさら聞かないでよ」と言えるくらいに勉強内容を深く理解し、知識として記憶に定着できている状態を意味します。
第1回の記事『勉強しても報われないのは○○しているせい。「報われる勉強」のために最も大切なこと』でお伝えしたように、択一式試験では中途半端な知識では迷ってしまう「引っ掛け問題」が数多く出ます。そのため、「こんなこと、いまさら聞かないでよ」「これに決まっている」と迷いなく選択できる「あたりまえ化」ができていない、知識が曖昧な状態では正答率が低下します。それこそ試験本番などプレッシャーがかかる状態であれば、曖昧な知識は武器となってくれず、逆に引っ掛けに反応してしまってエラーが発生する可能性を高めてしまうのです。
ただし、すべての知識を完璧に「あたりまえ化」する必要はありません。やさしい基本問題を難易度A、ふつうの問題を難易度Bとすると、この難易度A、Bで問われる知識を「あたりまえ化」するだけで十分です。
「それくらいなら誰もができているのでは?」「周囲と差をつけられないのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、ほとんどの試験では難易度A、Bの問題を押さえれば楽々合格ラインを超えてきます。しかし、多くの受験生が難易度Aの問題でもポロポロと落として、不合格になるのです。合否を分けるのは出題数が少ない難問ではありません。多くの場合、出題者が「これは理解しておいてほしい」と考える難易度A、Bの問題を落とすか落とさないかで合否が決まるのです。
「読む」「思い出す」「語る」を繰り返す
では、どうすればその「あたりまえ化」を達成できるでしょう? そのためには、私が「3つの基本動作」と呼んでいる「読む」「思い出す」「語る」を繰り返すことに尽きます。
あらゆる勉強は、「読む」、つまりインプットから始まります。必要な知識を理解して記憶するには、もちろんインプットは欠かせません。
しかし、みなさんもさまざまなメディアで見聞きしたことがあると思いますが、「思い出す」、そして「語る」というアウトプットがより重要です。脳科学や学習科学などにおいて、アウトプットが理解と記憶を強化してくれるという研究結果はいくつも示されています。
じつは、「思い出す」ことは「覚える」ことそのものなのです。考えてみればわかることだと思いますが、思い出せなければ、覚えているとは言えませんよね。
また、「語る」ことが理解や記憶を強化してくれるのは、知識をつなげようという働きが加わることによるものです。100%完璧に理解できていないことであっても、それについて語ろうとすると、記憶に刻まれている知識と知識をつなげてどうにかアウトプットしようとします。そうして、納得したり理解を深めたり記憶を強化することにつながるのです。
「思い出す」「語る」ことによって、なにがわかっていてわかっていないか、なにを覚えていて覚えていないかを明確にしつつ、それを繰り返すなかで難易度A、Bで問われる知識の「あたりまえ化」をしていきましょう。これが、試験本番当日に目指す結果につながるのです。
頑張らずに勉強することを「あたりまえ」にする
具体例を挙げてみます。宅建士試験などで必要な民法の基本知識として「遺言は15歳からできる」というものがあります。「お酒は20歳から」というのはほとんどの人にとって「あたりまえ」になっていると思いますが、「遺言は15歳から」というのはそうでもないでしょう。
このことを知ったとき、「へえ、遺言は15歳からできるのか」と思って、もう「覚えた」つもりになるかもしれません。でも、1週間、2週間、1か月経ったときに確実に覚えているかというとそうとは限りません。ですから、「読む」「思い出す」「語る」を繰り返すなかで、「お酒は20歳から」と同じレベルで「遺言は15歳から」を「あたりまえ化」しなければならないのです。
ただ、「あたりまえ化」を含めた勉強をするにあたっては、「頑張らない」ことがポイントです。なぜなら、頑張ってしまうと、「ウィルパワー」と表現されることもある「意志力」を使ってしまうからです。
研究の結果、「意志力は有限の資源」であると明らかになっています。つまり、なにかに頑張ってしまうと、ほかのことに頑張れなくなるのです。あるいは、なにかを我慢したら、次に我慢するのが難しくなるということです。
ですから、頑張って勉強をするとそのときはなんとか勉強できたとしても、次には頑張れなくなって結局は勉強が続かなくなります。試験勉強は長丁場です。「頑張るぞ!」「やるぞ!」などと気合を入れずに、無理をしない程度に淡々と勉強をする、ほんの少しでも続けてみる。それこそ、勉強すること自体を「あたりまえ化」することが大切なのです。
【宇都出雅巳さん ほかのインタビュー記事はこちら】
勉強しても報われないのは○○しているせい。「報われる勉強」のために最も大切なこと
理解が進んで記憶に残る! 勉強法の専門家が説く「頑張らない」勉強法
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。