みなさんは、「しんどいな……」「なんだか心が晴れないな……」と感じるとき、すぐに切り替えることができているでしょうか。
大きな仕事を任されて重圧に押しつぶされそうになったり、大きなミスをして落ち込んでしまったりすることは、多くの人に経験があるはず。そんなときにこそ自分の心の調子を整えることは、仕事をするうえでとても大切ですよ。
今回は、心のコンディションを整えて仕事のパフォーマンスを上げる方法についてお伝えします。
精神的なストレスが仕事に与える影響
私たちの身体が不調に陥ると、仕事にも悪影響が出ますよね。たとえば、風邪を引く一歩手前で頭がぼーっとしているとき、重要な指示をうっかり聞き逃してしまったり……。これと同じように、心の不調も仕事に悪影響を及ぼします。
たとえば、同僚のミスにもかかわらず、自分が怒られる羽目になったとしましょう。もし、心の調子がいい状態であれば、気持ちをさっと切り替えるはず。心に余裕があるため、多少は理不尽さを感じながらも「まあ、いいか」と軽く済ませられるからです。
一方で、心の調子が悪いとそうは行きませんよね。「なんで自分なんだよ!」と必要以上に怒りが頭をもたげ、ネガティブな思考のループに陥ってしまうはず。結果、仕事にも集中できなくなってしまいます。
京都府精神保健福祉総合センターによると、心の健康を損ねると不眠症や摂食障害といった身体の健康にまで悪影響を及ぼす場合も多々あるのだそうです。心の不調は、仕事のパフォーマンスという観点で見ても健康という観点で見ても、そのままにしないほうがいいのです。
「こころの健康」とは
では、こころが不調ではなく健康であるとは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。東京都福祉保健局によれば、「こころの健康」は、以下の4要素から成り立つようです。
- 情緒的健康
自分の感情に気付き、それを表現できること。つまり、嬉しいことやつらい出来事があったときに、その感情を自覚して周囲に伝えられるということです - 知的健康
その時々の状況に応じ適切に考え、問題解決ができること。たとえば、仕事で変更点があった場合、何の作業を誰へ任せれば良いのかきちんと判断できるということです。 - 社会的健康
ほかの人や社会と建設的で良い関係を築けること。たとえば、職場の同僚へ協力的な態度を示すことができる状態です - 人間的健康
人生の目的や意義を見いだし、主体的に自分の人生を選択できること。つまり、自分のやりたいことを見つけ、それに向かって楽しんだり努力したりすることができるということです。
みなさんも、これら4つの観点から、セルフチェックしてみてください。もし当てはまらないなと思ってもご安心ください。以下に、2つの打開方法をご紹介します。
方法1:心の不調をオープンにする
『内向型のままでも成功できる』の著者であり、デジタルマーケティング社「Women Online」の創設者でもあるモラ・アーロンズ=ミリ氏は、従業員が本来の自分自身の姿をオープンにしていると職場で感じていることが、パフォーマンスを高めるのにつながると伝えています。
これはつまり、職場で本音を言える関係を築くことが、仕事の生産性を高めるうえで重要だということ。本来の自分自身をさらけ出すためにも、まずは、職場で信頼できる誰かひとりに、自分の心が抱えている不調を打ち明けてみてください。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究者らによれば、自分の精神疾患を上司に打ち明けられる従業員は、打ち明けられない従業員よりも、仕事の生産性が高かったのだそう。精神疾患の話を回避する文化のある職場にいる従業員は、仕事からも回避しがちで、治療して仕事に復帰しても生産性が落ちると述べています。
これらを考慮すると、心の不調を感じたら、早めに打ち明けてしまうのが得策です。問題が大きくなる前に、対処してしまいましょう。
とはいえ、初めて心の不調を職場の上司や同僚に示すのは、気が引けるかもしれませんね。そんなとき、いきなり打ち明けづらいようなら、言いやすいことから言ってしまって全然かまいません。たとえば、「最近、よく眠れず、仕事に集中できないんです……」「ピリピリしがちで、小さいことでよく口論になってしまうんです……」といったように、仕事に影響が出て困っている部分を相談してみてはいかがでしょうか。
とにもかくにも、まずは心の不調を少しずつオープンにしていくことが、心のコンディションを整える第一歩ですよ。
方法2:仕事とプライベートの境界を曖昧にする
心理学の概念に「認知上の役割転換」があります。これは、ある役割に積極的に従事している最中に、異なる役割のことが思い浮かんでくると、人間は自分の役割を転換するというもの。たとえば、仕事をしている最中に友人との食事の予定を思い出した際、「会社の顔」から「プライベートの顔」へ自然に切り替えていますよね。
アメリカにあるボールステイト大学とセントルイス大学の研究チームが、600人以上の従業員を対象に、この「認知上の役割転換」に関する調査を行ないました。それによると、家庭と仕事の境界をより曖昧にしている人ほど、認知上の役割転換を行った回数が多かったものの、それによって気持ちが消耗する度合いは低かったのだそう。要するに、仕事に家庭の事情を、家庭にも仕事の事情を大なり小なり持ち込む人は、認知上の役割転換こそ多いものの、トータルで考えると精神的負荷は少ないのです。
その一方で、仕事とプライベートを分けて考えすぎてしまう人ほど、認知上の役割転換により多くの労力を要し、そのため仕事に支障を来たす傾向が強かったと伝えています。要するに、仕事は仕事、プライベートはプライベートと分けて考える人は、認知上の役割転換こそ少ないものの、トータルの精神的負荷は多いということです。
たとえば、家庭の事情を考慮してもらい、仕事中でも家族からの電話に出られたり、働く時間帯の融通が利いたりする場合、役割を切り替える回数は確かに多いでしょう。しかしじつは、仕事とプライベートを完全に分離するときのストレスに比べれば、トータルの負担は小さいのです。
そのため、心のコンディションを整えるためには、職場でも家庭の話をしたり、家でも多少仕事の話をしたりすることが推奨されます。すなわち、仕事とプライベートを曖昧にすることが大切なのです。
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身体の不調と同様に、心の不調にも気づいて対処してあげる必要性を理解していただけましたか。お伝えした方法を参考にして、心のコンディションを整えることを普段の生活でも意識してみてください。
(参考)
とうきょう健康ステーション|こころの健康
京都府精神保健福祉総合センター|心の健康のためのサービスガイド
ハーバード・ビジネス・レビュー|メンタルヘルスのことをもっと職場で話す必要がある
ハーバード・ビジネス・レビュー|仕事と私生活の境界線を曖昧にすると生産性が上がる
Springer Link|Authenticity at Work: Development and Validation of an Individual Authenticity Measure at Work
SAGE journals|Out of sight, out of mind? How and when cognitive role transition episodes influence employee performance
The Guardian|Depressed workers more productive if they can talk to their bosses
【ライタープロフィール】
三島春香
神戸大学経営学部所属。京都市立西京高等学校卒業。海、宇宙、音楽、レモンが好き。旅行も大好き。大学生のうちにいろいろな所へ出かけて見聞を広めたい。