人間は、過去の出来事や記憶にとらわれてしまう生き物です。過去に何かができなかったり、大きな失敗をしたりすると、それらがネガティブな思い込みとして脳に刷り込まれ、次もまた失敗する可能性を高めてしまうのです。
そんな「できない」という思い込みを捨て去るには、脳の特性を利用した自己肯定感を高めるトレーニングが効果的。心理カウンセラーの中島輝(なかしま・てる)さんが、「できない」という思い込みを書き換えて、自分の過去・現在・未来を力強く肯定していくためのさまざまなトレーニング法を紹介してくれました。
構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)
「いま」という過去を肯定し潜在的思考をポジティブに書き換えていく
そもそも、なぜわたしたちは「自分には無理だ」「できない」というネガティブな思考を持ってしまうのでしょうか? それは、やはり過去の失敗経験が多かったり、強かったりするからです。過去の失敗から生じる恐怖心や、生育環境におけるネガティブな体験の記憶などが、脳に刷り込まれてしまっているのです。
これは赤ちゃんを見れば一目瞭然で、赤ちゃんは「こんなわたしでいいのかな?」なんて考えませんよね? もちろん、言葉を知らないので当然ですが、もう少し成長した子どもでも、自己否定の感情はほとんど見られません。そもそも、人間はそんな感情を持たずに生まれてくるからです。しかし、人間は成長するにつれて、ネガティブな感情を持つようになり、その考えを強化していきます。
人間の思考には、「意識的思考」と「潜在的思考」があります。意識的思考は、文字通り意識して物事を考えること。一方、潜在的思考は、意識していないのに自然と出てくる考えのことで、物事を判断するときにより大きな影響を与えているのが、この潜在的思考です。
つまり、「自分には無理だ」「できない」という感情を持ち続けていると、それが強力な潜在的思考となり、意識的にポジティブであろうとしても、なかなか自己を肯定できなくなってしまうのです。
それでも、ネガティブな思考を持ちがちな人がポジティブに変わっていくためには、わたしはやはり、自己肯定感を意識的に高めていくしかないと思います。まずは、過去の記憶が、いまの自分をつくっていることをしっかり認識することが必要です。
これを別の視点から見ると、いまの自分がポジティブになれば、「未来の自分」もポジティブになるということ。要するに、未来から見た「いまという過去」を肯定的に捉えることが、ネガティブな思い込みから抜け出す早い方法になります。わたしは、これを「徹底肯定」と呼んでおり、シンプルかつもっともパワフルな方法だと考えています。
「リフレーミング」で思考の枠組みを変える
では、「いまの自分」を肯定するために、自分の「過去」をどのように捉え直していけばいいのでしょうか? そのためには、「過去の失敗があったからこそ、次の行動の糧にできる」と、考え方の枠組みを変えてしまうことが有効です。すると、過去にできなかったことがあればあるほど、次にできるチャンスが増えることになります。
このように、自分の記憶の枠組みを変える「リフレーミング」によって、過去の体験を有効活用していくのが自己肯定感の高い人です。過去に心を支配されるのではなく、いまを良くしていくための「素材」にしてしまうのです。
具体的に、「リフレーミング」は、「否定語を肯定語に変える」ことでトレーニングできます。言葉には自分の心の状態が表れるため、自分が発する表現をポジティブなものに変えることで、感情も変えていくことができます。
たとえば、子どもに飲み物を運んでもらうとき、「こぼさないでね」と伝えるか、「しっかり持ってね」と伝えるか。そんな言葉の違いで、実際に子どもがうまく飲み物を運べるかどうか、結果が分かれることがあります。
前者の「こぼさないでね」というのは、こぼした状態を前提にしているからこそ出る言葉です。しかし、うまく運べた状態を想像していると、「しっかり持ってね」という言葉になるはず。
このように、肯定語は相手に成功をイメージさせ、いまの自分で大丈夫だと思わせます。逆に、否定語は相手に失敗をイメージさせ、不安や恐れを抱かせてしまう。だからこそ、すべての物事において、「良い状態をありありと想像すること」が大事なのです。
ただ、物事がダメになるようなパターンをつい考えてしまう人も、日々の「小さな習慣」で変えることができます。否定語を使いそうになったときに、「ストップ!」と自分にいって、意識的に肯定語に変えるクセをつければいいのです。
また、自分の過去からポジティブな要素を探すことも大切。世の中の成功している人は、たいてい「行動」している人です。なぜなら、行動すると失敗が多くなり、そのぶん未来の成功のための「素材」を過去からたくさん得られるからです。
あともうひとつ、まわりにネガティブな人がいたら、自分もつられてしまうことを知っておくべきでしょう。もし、その人たちがネガティブな言動をはじめたら、「終わり!」と、自分の脳内で区切りをつけるのです。脳は人称がわからないので、聞いているだけでネガティブな言動が脳に刷り込まれてしまいます。
このように、自分の脳を自分で育み、人生をコントロールしていくことが必要です。
「タイムライン」で理想的な未来を思い描くといい妄想が始まり人生が変わる
過去を「リフレーミング」によって捉え直していくと、自然と「未来の自分」に対してもポジティブになっていきます。そこで、さらに未来のイメージを強めるために、わたしは「タイムライン」というトレーニングをすすめています。これは、1年後、3年後、5年後の「いい自分」、そして死ぬ間際の自分まで想像し、「後悔しない人生だったか」を思い描いていく方法です。
やり方は簡単。まず、「○年後、どんな自分になっていたいか」「○年後、どんなことを達成したいか」というような問いを自分に投げかけて、自由に想像を膨らませます。
次に、思い描いたイメージをもとに具体化した目標を書き、それぞれに対して、「達成したときに感じるはずの感情(アファメーション)」を書き出していきます。アファメーションは、「こうなったら、こんな自分がいる」というように、自分が目的を達成した状態を描いてみてください。
たとえば、英語を話すことが目標なら、「ハワイに行ってネイティブと会話し、買い物で交渉もできている」と、映像化できるくらいに想像するのです。そして、それをシンプルな言葉にしてみましょう。
よく将来の目標を立てる人がいますが、未来を明確にイメージできていなければ、目標は具体化しません。だからこそ、まず未来の「いい自分」を自由に想像することが重要なのです。すると、脳は「1年後こうなっている」とラベリングし、そのイメージに対して「どうすればいいか」と、サーチエンジンのように答えに向かって働き始めます。
具体的なビジョンが描けるようになるのは、気持ちがいいものです。なぜなら、未来の自分を思い描くことは、過去からいまに至る自分を認めることにつながり、「自己受容感」が高まるから。そして、気分が良くなれば自己肯定感も高まっていきます。また、判断や行動の際の指針にもなりますね。「1年後の自分にとってこれは大切なのか?」と考えることができるようになり、精神的にとても楽になるでしょう。
これは、いってみれば「妄想」です。じつは、わたしは「妄想」ほど人生で大切なものはないと思っています。なぜなら、イメージはすべて自分の現実になっていくからです。
考えないことは絶対に実現しません。どれだけいい妄想をするかで、成功の確率が変わるのです。脳がいい妄想に対して自動的に答えを探していくと、現実にはまるで偶然のような、思いがけない出来事が起こったり、発見できたりするようになっていきます。でも、初めから「そんなのあり得ない」と思ったら、その時点で何も起こりません。
だからこそ、みなさんには、思いきり妄想してもらいたい。仕事でも収入でも恋愛でもいいので、ぜひ楽しみながら、「タイムライン」をたくさんつくってみてください。
わたしは、自己肯定感が高い状態は、自分の力で人生をコントロールしている状態だと捉えています。つまり、自己肯定感が高まると、「自立」して生きることができる。そうして、あなたの人生が変わっていくのです。
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【プロフィール】
中島輝(なかしま・てる)
心理カウンセラー、作家、トリエ代表。5歳で里親の夜逃げという喪失体験をし、9歳ごろから、HSP、双極性障害、パニック障害、統合失調症、強迫性障害、不安神経症、潰瘍性大腸炎、斜視、過呼吸、認知症、円形脱毛症に苦しむ。25歳で背負った巨額の借金がきっかけでパニック障害と過呼吸発作が悪化。10年間実家に引きこもる。自殺未遂を繰り返すような困難な精神状況のなか、独学で学んだセラピー・カウンセリング・コーチングを実践し続ける。10年後、「恩師の死」がきっかけとなり35歳で症状を克服。その後、30年間の人体実験と独学で習得した技法を用いたカウンセリングとコーチングを24時間365日10年間実践。Jリーガー、上場企業の経営者など15,000名を超えるクライアントにカウンセリングを行い、回復率95%、6カ月800人以上の予約待ちに。「奇跡の心理カウンセラー」と呼ばれ上場企業の研修オファーも殺到した。現在は、ニューライフスタイルを提案する資格認定団体「トリエ」(旧国際コミュニティセラピスト協会、他5団体)を主催し120以上のオリジナル講座を開発。新しい生き方を探求する「輝塾」、好きを仕事にする起業塾「The・DIAMOND」を主宰している。