「メタ認知」という言葉を知っていますか? 一言で言うと「認知を認知する」こと。言い換えると、この世界で考えたり記憶したり理解したり判断したりしている自分に対して、別の自分を立てて俯瞰することを指します。
脳科学者の茂木健一郎氏によれば、このメタ認知能力を高めることで、「自分に足りないものを客観視し、自分の限界を超えてチャレンジする力が身につく」のだとか。
「自分の成長は限界に来ているのではないか……」
「もっと自分の能力を高めたい……!」
そう感じている人に、メタ認知能力が役立つ場面と鍛え方をご紹介しましょう。
メタ認知能力が高いと「ビジネスコミュニケーションが円滑になる」
自慢話ばかりしてきたり、話がやたら長かったり……。職場でのコミュニケーションでイライラしてしまうことも少なくないはず。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏は、そんなときこそメタ認知を活用することをすすめています。
その方法とは、会話中にイラっとしている自分を認識したら「傾聴モード」に切り替えるというもの。つまり、相手の話にじっくり耳を傾けながら、「この人は、過去のどのような経験から、こんな話し方になってしまったんだろう」といった具合に、意識の対象を “自分の感情” から “相手” へと移すのです。そうすると相手も、自分の話をしっかり聞いてくれていることに安心するのか、不思議と話が短くなるのだそう。
加えて、メタ認知能力はマインドセット(個々人の思考様式)の変革も助けると、前野氏はいいます。
ひとつのマインドセットを持ち続けていると、固定観念が生まれ、ブレインストーミングなどで新たなアイデアを生み出しづらくなることも。しかし、メタ認知は、「物事のとらえ方は自分の見えている限りではなく、そのほかにも複数ある」ことに気づかせてくれます。その結果として、ほかの人の意見や新しい知識を柔軟に取り込めるようになり、マインドセットの変革が促されるのです。
常に新たなイノベーションが求められる、現代のビジネス界。多様な相手との円滑な対話を可能にしたり、マインドセットを変えてくれたりするメタ認知能力は、必須といえそうです。
メタ認知能力が高いと「ひとつの知識を横展開できる」
効率よく学習し、効果的に知識を活用することは、デキるビジネスパーソンに必須の能力。脳科学に詳しい、公立諏訪東京理科大学情報応用工学科教授の篠原菊紀氏によれば、メタ認知能力はその両方を助けてくれるのだとか。
たとえば、勉強において、算数の能力と国語の能力を同時に引き上げることは、普通はできなさそうです。しかし、どちらの場合も問題文は日本語で書いてあるため、何が問われているのかを正確に把握するには、読解力が必要になってきますよね。このように、両者の共通因子を見つけることを「汎化(はんか)」といい、これを可能にするのがメタ認知能力というわけです。
たとえば、ビジネス誌を読んだり異業種交流会に参加したりするとき、何も気にしなければ「ほかの業界ではこんなことが起きているのか、なるほど」と、ただ知識が増えるに留まるかもしれません。
しかし、そこにメタ認知能力があれば、他業種の成功パターンや失敗パターンを見て、「扱っているものは違うけれど、売り手と買い手の関係は似ているぞ」といったふうに、共通因子に気づけるかもしれません。すると、自分の業界に活かす方法も浮かびやすくなることでしょう。
メタ認知は、広い視野・視点を与えてくれるものでもあるのです。
メタ認知能力が高いと「よりよい人生を選択できる」
自分の人生を考える際にもメタ認知能力は役立つと、ゲノム解析の第一人者・高橋祥子氏はいいます。
動物である以上、人間は、快を感じたがり、不快を感じたがらない生き物です。寝たいときに寝る、食べたいときに食べる。ある意味これが動物としての本来の姿なのかもしれません。でも私たちは、「眠いけれども資格試験のために勉強しておこう」「つらいけれども食べすぎずに運動しよう」など、本能に抗った行動もしますよね。
このように、現在だけでなく未来も踏まえて行動を選択するのも「メタ認知」によるもの。本能的な快楽から外れるという道、あるいは従うという道を “後悔せず” 選ぶ。そのためには、それぞれの道を客観的に検討しなければなりません。
将来のことを考えて、時には大変な道を選ぶことができる。長いスパンで人生を考えると、こういった場面でもメタ認知能力が大切になってくるようです。
メタ認知能力は「マインドフルネス」で高めよう
近年はマインドフルネスが注目を集めていますが、メタ認知能力を高めるうえでも有効なようです。
医師で脳科学にも詳しい久賀谷亮氏は、マインドフルネスがメタ認知能力の向上に役立つことを、スタンフォード大学のキーラン・フォックス氏らの研究から示しました。この研究では、21件の神経画像研究から、300人に及ぶマインドフルネス実践者の脳画像データを分析。その結果、マインドフルネスをとおして、メタ認知に関わる前頭極皮質を含めた脳の8つの領域が変化することがわかったのです。
マインドフルネスのやり方は次のとおり。東京マインドフルネスセンター長の長谷川洋介氏が紹介する方法です。
- 静かな時間と場所を確保。椅子や床に坐骨を立てて背筋を伸ばし、安定した姿勢で座る
- 思考や感情、体の強張りなどの身体感覚を含めた自身の状態を把握し、1日を振り返る
- 2で凝っていると感じた体の部分をストレッチなどでほぐす
- ふたたび1と同様に座って、呼吸に意識を向ける瞑想を行なう
- 何か考えが浮かんだら、それらに対し思いやりや優しさを持って受け止め、また呼吸に戻る
- 4→5を無理のない時間行なう
久賀谷氏は、「脳は常に変化し続ける “可塑性” を持つため、継続的なマインドフルネスを続けることで、脳を一時的にでなく構造的に大きく変化させることもできる」とも述べています。1日の終わりに行なうもよし、4→5をちょっとした隙間時間に行なうもよし。継続したマインドフルネスでメタ認知能力を鍛えましょう。
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ビジネススキルアップから人生の選択まで、メタ認知能力は冷静に物事を見る目を養ってくれます。メタ認知能力を鍛えて自分の世界を広げ、一流のビジネスパーソンを目指しましょう。
文 / 谷口亮祐
(参考)
奈良教育大学|メタ認知の概要
プレジデントオンライン|余裕がない人ほど職場をダメにする仕組み
プレジデントオンライン|「名社長」はなぜ年を取っても元気なのか
WIRED.jp|遺伝子にとってのウェルビーイング:WHO IS WELL-BEING FOR〈1〉
ダイヤモンド・オンライン|記憶、感情調整、メタ認知…8つの脳部位を変える習慣 Forbes JAPAN|グーグルも実践、マインドフルネスで一日をリセットする方法