多様な人々が集まるパーティで、どんどん人脈を広げられる人と、そうでない人がいます。後者は恐らく内向的な人が多いのではないでしょうか。じつは筆者もそのひとり。
そこで今回は、パーティに呼ばれると憂鬱になってしまう内向的なあなたに向け、ハフポスト日本版の編集長・竹下隆一郎さんが著した『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』で紹介されている、「スモールトーク」のコツを紹介します。
「スモールトーク」とは?
朝日新聞の経済部記者、スタンフォード大学客員研究員を経て、世界最大級のニュースメディア・ハフポスト日本版の編集長となった竹下隆一郎氏は、著書のなかで自身を「極度の人嫌い」「1人が好きな内向的な人間」だと明言しています。
そんな同氏はスタンフォード大学の教授に、「シャイな日本人はスモールトークが苦手だね」といわれたそう。
従来型の日本人の場合、たとえばビジネスを背景にしたパーティなどで初対面の人と会話を始める際、「じつは、わたくしこういう者でして……」と名刺をわたしながら自己紹介を始めるのではないでしょうか。
「スモールトーク」は、こうした名刺の物理的なやり取りや、名刺に載っている組織名や肩書きに頼らない、“ちょっとした雑談” を指すのだそう。
具体的には、自分が何に夢中になっているか、好きな店や食べもののこと、相手に質問したいことなどです。
詳細は後述しますが、これからは名刺に示された組織名や肩書きよりも、「個」の力がより重要になっていくそう。そして、「個」が「個」と対面し、ピンポイントでつながっていく際に役立つ対話術がスモールトークです。
この時点で、「ただでさえパーティが苦手なのに、内向的なわたしがスモールトークで会話を盛りあげていくなんて絶対に無理!」などと、拒否反応を起こさないでくださいな。竹下氏が出会ったスタンフォード大学の教授が、誰でも実践しやすいコツを伝えてくれました。
それに、内向的な人が悲観する時代は、もはや終わりを告げていますよ。
「内向型」が「外向型」のふりをしている?
長いあいだ、ビジネスで成功するには外向性(社交性や積極性)が必要だと考えられてきました。逆に、内気で過敏かつリスク回避的と考えられている内向性は、あまり歓迎されませんでした。
ウォール街の弁護士を経て、ライターに転身したスーザン・ケイン氏によれば、ハーバード・ビジネススクール(HBS)の生徒たちも、外向性次第で成績や社会的なステータスが決まると信じているそう。
しかし、ケイン氏は、外向型人間ばかりに見えるアメリカでも、じつは内向型の人間が全体の三分の一から二分の一もいて、多くが外向型のふりをしている、と述べています。
仕事のパフォーマンスには「内向型」の特徴が重要?
米テキサスA&M大学のマレイ・バリック教授らの研究では、「仕事のパフォーマンス」と「ビッグ・ファイブ」との、平均的な相関係数(関係の強さを示す数値)が明らかにされました。
「ビッグ・ファイブ」とは、5つの因子が性格を構成していると説く心理学的な理論のこと。「ビッグ・ファイブの因子」は、開放性・真面目さ・外向性・協調性・精神的安定性の5つです。示された相関係数の順位は次のとおり。
- 真面目さ:0.22
- 外向性:0.13
- 精神的安定性:0.08
- 協調性:0.07
- 開放性(好奇心や審美眼):0.04
つまり、「仕事のパフォーマンス」にもっとも関係が強いと示されたのは、目標と規律を持ち、ねばり強く物事をやり抜く「真面目さ」であったわけです。
もちろん外向的で真面目な方もいらっしゃいますが、スーザン・ケイン氏は「真面目さ」を内向型の特徴のひとつとして挙げています。
大阪大学の大竹文雄教授らも先行調査を利用し、日本でもアメリカでも、男性の場合は、「真面目さ」が年間所得を高めると示したそう。
それに、いまは内向的な人がどんどん活躍できる世の中に変化しています。
「個」の力が大きくなった世の中
ハフポストの竹下隆一郎氏は著書のなかで、いまは「個」の力が非常に大きくなったと説明しています。その理由は次の2つ。
- SNSの発展
- ICTの進化
FacebookやLINE、Twitter、Instagramなど、さまざまなSNSの発展で、組織を頼らず、「個」と「個」が人脈を築きやすい時代になりました。
また、ICT(情報通信技術)の進化で、インターネットをつかった販促や資金集め、企業と得意分野がある「個」のマッチング、「個」の売り手と「個」の買い手、「個」のチャンネルに「個」の視聴者がいるといったことが、ごく一般的になりました。1人あるいは少人数でできることが格段に広がったのです。
じつはアメリカ『TIME』誌で、2006年の “今年の顔” として表紙を飾ったのは「YOU」。つまり、誰もが当てはまる「あなた(YOU)」でした。「個」の力が拡大し、1人ひとりが主役になれる時代を、『TIME』誌はすでに指摘していたわけですね。
スーザン・ケイン氏は、内向型(熟考人)の特徴として、思慮深さや繊細さ、理性、控えめさ、丁寧さ、謙虚さ、孤独を求めること、内気さ、リスク回避傾向、神経過敏などのほか、内省的であることや、内部指向を挙げています。
内省とは、 自分の考えや行動などを深くかえりみること。内部指向とは、自分の内部にある信念や良心を行動規範にすること。
「個」のパワーが強まり、個人が世界へ向けて力を発揮できるようになったいま、自分の内側と向き合ってきた内向的なあなたが活躍する土台はできています。
――これまでの内容を踏まえると、いまは多勢も無勢もあまり強さが変わらない時代。ならば、広くて浅い人脈より、深くて濃い人脈のほうが、より強さを増すはず。それが、竹下氏が提唱する「ピンポイントの人脈」です。
したがって、これからは仕事にかかわるパーティや集まりがあったとしても、外向的な人のように、「たくさんの人と交流しなきゃ」と内向的なあなたがストレスをためる必要はありません。内省が得意なあなたが敏感に受け止めている「自分の好きなこと、自分の好きな(波長が合うと感じる)人」を大切に、濃い人脈をピンポイントに築いてみませんか?
その際には、スモールトークをスムーズにするコツを知っていると便利です。筆者も実践しながら説明しましょう。
A4用紙を使い「スモールトーク」の準備をしてみる
竹下氏はスタンフォード大学の教授に、スモールトークのための事前準備をするようアドバイスを受けたそうです。必要なのはA4の紙1枚とペンのみ。パーティや集まりなどの前に、次の3つを雑談のネタとして書いておきます。
- 【仕事や活動】:仕事等のテーマや課題、どう解決しようとしているか。
- 【食べもの】:最近気に入っている食べものや、お気に入りの店の特徴など。
- 【誰かに聞きたいこと】:最低でも3つ準備。
1番目の【仕事や活動】では、自分の仕事や活動の「テーマや課題、どうしたいか、どうしようとしているか」などを明確な言葉にしておきます。それにより、自己紹介がストーリーのようになるとのこと。
たとえば「光触媒で水に含まれる汚れを分解除去する開発」にたずさわっているなら、「災害地や発展途上国で人々を助けるため、低コストで環境に負荷をかけない光のエネルギーで、誰もがきれいな水をつかえるようにしたい」と、自分が情熱を傾けていることを説明するわけです。
組織名や肩書よりも、あなたの “物語” のほうが、相手を引き込む効果を生むでしょう。
なお、スモールトークでは、あなたが属している企業の名前や、肩書きは必要ないのだそう。とはいえ、アメリカと日本では慣習が異なるので、相手から会社名を聞かれたり、名刺を求められたりした場合は普通に応じましょう。
2番目の【食べもの】の話は、他愛のない雑談を間違いなく盛り上げてくれるはず。 たとえば最近夢中になっている食べものや、お気に入りの店のこと、人生で一度は食べてみたいものなどです。
「最近〇〇にハマっていて……」「〇〇駅のすぐそばにおいしい〇〇の店があるんですが……」「映画で観た〇〇国の〇〇がものすごくおいしそうで……」といった具合に話ができるでしょう。
ここで重要なのは、必ず根底に自分の「好き」があること。じつはよく知らないのに見栄を張って選んだ店について話してしまうと、すぐに会話がしぼんでしまうし、「あの店が最低だった」なんて話をした矢先に、相手が「あの店好きなんだけど」となったら会話が盛り下がってしまうからです。
3番目は【誰かに聞きたいこと】。竹下隆一郎氏はスタンフォード大学の教授に、雑談のコツは「上手に聞くこと」だと教えられたそう。うまくしゃべろうと自分に意識を向けず、相手に意識を向けてみるわけです。
ちなみに「子どもの悩み」はけっこう使えるネタなのだとか。子どもの悩みについて聞かれ、答えるのを嫌がる人は少ないからです。 たとえば「自分の子どもが将来〇〇になりたいというのですが、どうしたらいいんでしょうね」とか、「姪っ子が進路に悩んでいるようで……、あなたの業界ではどんな資格が必要ですか?」といった具合です。
また、同じ業種の集まりなら仕事で悩んでいることのアドバイスを求めるのもいいですし、さまざまな職業の人々がいるなら、「どんなときにアイデアが浮かびますか?」といった質問でもいいかもしれません。
ここで大切なのは、スタンフォード大学の教授が教えてくれたとおり「上手に聞くこと」です。自分のことだけを話し続けず、相手の話の腰を折らず、熱心に聞いてくださいね。
筆者の場合はこうなりました。
では、さっそくこのメモの内容をつかい、ちょっと苦手な集まりでスモールトークにチャレンジしてみます。
メモを準備してスモールトークをしてみた結果
竹下隆一郎氏は、スタンフォード大学の教授にアドバイスを受けたとおりに質問を準備し、スモールトークを実践したところ、雑談の質がグンと上がったそうです。「濃い内容のスモールトーク」=「濃い(ピンポイント)人脈の構築」だと学んだそう。
筆者もメモを事前準備して、初対面の人も多い集まりに参加し、ある効果を感じました。
人の視線のなかでメモをちょくちょく見ることはできませんでしたが、「仕事のテーマ」や、自分の頭のなかの「最近の話題」を書き出しておいたことで、ホワイトボードにでも書いておいたかのように、それらの内容がしっかりと頭に焼きついており、話題をつくりやすくなりました。
ある人は筆者の「蕎麦にこだわりすぎていて、最高においしい鍋焼きうどんを頼みにくい店」の話を受け、馴染みの焼き鳥屋さんでは、ほとんど焼き鳥を食べない話を教えてくれ、大いに盛り上がりました。
介護や趣味の話では同年代の人と会話が弾み、姪っ子の話題では、若い年代の女性がいいアドバイスをくれました。
そして、何よりも、仕事や活動のテーマや課題、どう解決しようとしているかを明確にしておくことは、単なる仕事の説明を飛び越えて、「自分の目指すものを説明しやすくしてくれる」と気づきました。その部分を明確に伝えられるほど、波長の合う、同じものを目指す人と、ピンポイントでつながりやすくなるのは、いうまでもありません。
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筆者はスモールトーク用メモがあったおかげで、いつもは憂鬱なパーティが、少し有意義で楽しいものになりました。ぜひみなさんもチャレンジしてみてくださいね。
(参考)
竹下隆一郎(2019),『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
スーザン・ケイン著, 古草秀子訳(2015),『内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える』, 講談社.
講談社BOOK倶楽部|外向型人間が軽視され、内向型が世界を変える【理由とテスト】
RIETI - 独立行政法人経済産業研究所|人生100年 伸ばせ「性格力」
コトバンク|内部志向型(ないぶしこうがた)とは
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STUDY HACKER 編集部
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