WBC優勝 栗山英樹監督に学ぶ。ビジネスパーソンがぜひまねるべき「名将の思考法」

優れたリーダーのイメージ

いまや野球ファンのみならず、日本中の人々を夢中にさせている第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の侍ジャパン。2023年3月22日(日本時間)の決勝戦でアメリカを3対2で下し、2009年以来3大会ぶり3度目の世界一を達成しました。

この勝因が選手の実力だけでなく、チームの結束力・団結力であったことは誰が見ても明らかではないでしょうか。その陰には、数多くのスター選手を発掘し、大谷翔平選手を二刀流として成長させた栗山英樹監督という大きな存在があります。

日本代表チームの監督として、個性豊かなプレーヤーたちを短期間で見事に結束させた栗山英樹監督。そんな人物が培った経験、考え、心がけを知ることは、リーダーを目指すビジネスパーソンにとって価値ある学びとなるはずです。さっそく探ってみましょう。

「艱難辛苦の日々」を知恵にする

栗山監督は野球選手引退後、解説者・スポーツジャーナリスト・大学教授など多岐にわたって活躍し、そのあと北海道日本ハムファイターズの監督に就任。1年目でパ・リーグを制覇し、2016年には日本一に輝いています。そして、今回ついに侍ジャパンとして、世界一のチームの監督となりました。

どこから見ても華々しい経歴ですが、2019年に出版された自身の著書『栗山ノート』(光文社)の前書きには、「プロ野球という世界に存在するヒエラルキーで、もっとも低い立場でした」と自身の選手時代を振り返り、北海道日本ハムファイターズの監督時代においては「自分の無力さに絶望したのは、一度や二度ではありません」と伝えています。

自信なさげにうつむき、悩み苦しむことも数多くあった――上記の内容を読むとそれがわかります。ただ、いずれにおいてもそのあとには、

  • 「だからこそ、チームの勝利に貢献できる自分になることを、強く意識する必要がありました」
  • 「心のなかで違う自分が立ち上がってきます」

(カギカッコ内引用元:Book Bang -ブックバン-|WBC侍ジャパン「栗山英樹」監督がノートに込めた想い 「もっと選手に、スタッフに、ファンに尽くせ!」【『栗山ノート』試し読み】

といった具合に、地に足がついた建設的な言葉が続いているのです。これは、艱難辛苦が続く日々が同氏にもたらした思考法――つまり、経験を知恵にする方法論の獲得とも言えるのではないでしょうか。それを知らないより、知っているほうが、さまざまな困難を乗り越えやすくなるのは確かです。

苦労を糧に、未来を創造する

そもそも栗山監督の言葉には、苦しみを受け止めようとする姿勢が表れています。日本経営合理化協会・主席コンサルタント、作間信司氏との対談で栗山監督はこう述べました。

人は、本当に追い込まれて苦しまないと得られないものがあると僕は思っています。

だからこそ、選手に対する指導においても、

 苦しんで、もがき苦しんで、悩みに悩んで。でも何もできない。そのときしか、成長のチャンスはないんだという話を選手によくします。

とのこと。また、“選手は勝っても負けても学べる” としたうえで、こうも述べています。

起こった事柄をどのように取り入れ発展させるかは、人としての在り方です。

(引用元:JMCA web+(日本経営合理化協会)|【特別対談】WBC日本代表 栗山監督の『人の用い方』) 

これらの内容は、熱工学の世界的権威である上原春男氏の「成長は創造性と忍耐力をかけたもの」という言葉に通ずるかもしれません(参考:上原春男著(2005),『成長するものだけが生き残る』,サンマーク出版.)

なぜならば、先の栗山監督の言葉に学び、苦しい経験に建設的な意味づけをして自ら発展しようとする場合、必要なのは発想を転換したり見方を変えたりするといった、創造性ではないかと考えられるからです。

また、栗山監督が言うように、苦しみもがき、悩み抜いたときしか成長のチャンスがないとするならば、当然のごとく “それ” を乗り越えるための忍耐力も必要となるでしょう。そこで、日々の苦労を糧に、未来を創造しているリーダーの姿が想像できるわけです。

苦労を糧に成長しようとしているビジネスパーソン

人に担がれ、勝ち残る

また、栗山監督は、前出の作間氏との対談でこう述べています。

僕が思っているリーダー論の一番目は、「人に担がれる」かどうかです。人がこの人を手伝ってあげようと思ってくれるかが、最大の成功要因です。

そして、栗山監督が言う “人に担がれる人” がどんな人かといえば、

 自分が裸になって、なんとか一生懸命、この会社をみんなのためにやってあげようという真摯な姿があれば、能力があろうとなかろうと、手伝ってくれる人は必ず出てきます。

とのこと。 それが組織の進歩発展のために最も重要だと考えるのだそう。

(引用元および参考:前出の「JMCA web+(日本経営合理化協会)」記事)

じつはこんなエピソードがあります。伊藤園の創業者である本庄正則氏は、初めて烏龍茶を飲んだとき、「これは売れない」と思いながら、社員を信頼して任せてみたそうです。その結果は周知のとおり、大ヒット商品となりました。経営・ビジネスの課題解決メディア「経営プロ」によれば、本庄氏は自身が「担がれるタイプ」だと自覚していたとのこと。

(上の段落の参考元:経営プロ|「経営者には陣頭に立って指揮をとるタイプと、部下に信頼されて、いつもみこしのように担がれるタイプの二つがある。」伊藤園 元社長 本庄正則

これらを客観的にとらえて表現してみると、“人に担がれる人” は――強い意志と信念をもって行動しながらも、周囲を信頼して身を任せることができる。一方でその姿を目にしたり、信頼を受けたりした周囲も、この人の助けになろうと考える――といったところでしょうか。

かなり前の記事ですが、株式会社シグマクシス・ホールディングス代表取締役会長の倉重英樹氏は、“「部下から担がれる人」が勝ち残る” と題した2009年7月20日公開の「PRESIDENT Online」記事のなかでこう述べました。

上から命じられてなるのが管理職、下から担ぎ上げられてなるのがリーダーである。

また、株式会社Indigo Blue代表取締役会長(当時は社長)の柴田励司氏は、自身の経験をふまえながら次のように伝えています。

「権限では人は動かない」

(引用元:PRESIDENT Online|「部下から担がれる人」が勝ち残る

数々の功績など目に見えている事実に、これまでの内容をふまえると、栗山監督が人に担がれ、勝ち残っていけるリーダーであることは明白な事実です。

良好な関係性をもつリーダーとメンバー。優れたリーダーのイメージ

尽くして、導く

栗山監督の著書『栗山ノート』(光文社)には、

もっと選手に尽くせ、もっとスタッフに尽くせ。
もっとファンに尽くせ、もっと人に尽くせ――

(カギカッコ内引用元:前出の「Book Bang -ブックバン-」記事)

などと自分自身に言い聞かせたことが書かれています。また、前項で紹介したリーダー論(人に担がれるかどうか)に関する栗山監督の言葉には、「人がこの人を手伝ってあげようと思ってくれるかが、最大の成功要因です」とありました(カギカッコ内引用元:前出の「JMCA web+(日本経営合理化協会)」記事)。

これは、栗山監督が近年注目されているサーバントリーダーであることを、示唆しているのではないでしょうか。

サーバントリーダーシップとは、ロバート・グリーンリーフが提唱したリーダーシップ哲学のこと。この哲学において「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」ため、「サーバントリーダーは、奉仕や支援を通じて、周囲から信頼を得て、主体的に協力してもらえる状況」をつくり出すのだとか。(参考およびカギカッコ内引用元:NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会|サーバントリーダーシップとは) 

前項と重なる内容ではありますが、ここで特筆すべきは栗山監督が(意識せずとも)支配的なリーダーとは真逆の、サーバントリーダーシップを発揮している可能性があるということです。

つまりそれは、同氏が尽くして、導くタイプのリーダーであり、そのリーダーとともに歩むメンバーには、必然的に主体性が生まれるということ。侍ジャパンを見てもわかるように、こうした指導者がいるチームや組織は、自ら考えて積極的に動くようになることは間違いありません。

サーバントリーダーのイメージ

10倍学ぶ姿を見せる

グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長・田久保善彦氏いわく、

トップが学び続け、変えることを厭わない姿勢を見せること。そうすることで、学びの連鎖が起き、組織全体の成長につながるのです

(引用元: 東洋経済オンライン|「学び続けるトップ」こそ企業の成長を加速する

とのこと。

じつは読書家で知られる栗山監督、論語、菜根譚、孫子の兵法、貞観政要などの中国古典も読破しているのだとか。また、そうした中国古典を読むきっかけとなった埼玉銀行(現・りそな銀行)元専務、井原隆一氏による中国古典の話が入ったCDは、自宅から球場への行き帰りに100回以上は聞いているとのこと。さまざまな場面で判断の指針になるそうです。(参考:前出の「JMCA web+(日本経営合理化協会)」対談)。

同氏は、先の作間氏との対談で勉強のモチベーションについて尋ねられた際、自分の成長がチームの勝利に深く関係していることを理解できるようになった旨を述べ、

選手のほうが若いので、いろいろ経験して早く成長します。だから僕は、選手の10倍勉強しなければいけないと強く思うようになりました。勝利のために選手に厳しい練習をさせているわけですから、僕は素振りの代わりが勉強だと思っています。

と伝えています。そして、

何かを教えるということではなくて、僕自身が勉強して成長する姿を見せることのほうが大事だと思っています。

とのこと。また、自分がどれだけ勉強しているかがチームの成績にも表れることや、組織はトップの器以上に大きくならない真理にも触れています(参考およびカギカッコ内含む引用元:前出の「JMCA web+(日本経営合理化協会)」対談)。

つまり、学べと言わずに自分が学ぶこと――自分の成長を見せて、相手に自ら成長してもらうことが、栗山監督に学ぶ指導の極意というわけです。

***
マイアミの宿舎で行なわれた優勝記者会見や、日本で行なわれた優勝帰国会見でも、栗山監督はコーチ、スタッフ、選手ら、そしてすべてのファンに感謝の気持ちをたくさん述べていました。最後に挙げるとすれば、「名将は感謝の気持ちを忘れない」かもしれませんね。

(参考)
経営プロ|「経営者には陣頭に立って指揮をとるタイプと、部下に信頼されて、いつもみこしのように担がれるタイプの二つがある。」伊藤園 元社長 本庄正則
Book Bang -ブックバン-|WBC侍ジャパン「栗山英樹」監督がノートに込めた想い 「もっと選手に、スタッフに、ファンに尽くせ!」【『栗山ノート』試し読み】
nippon.com|14年ぶりWBC優勝 侍ジャパン全員で会見…大谷選手「野球人生において素晴らしい経験」爆笑場面も
JMCA web+(日本経営合理化協会)|【特別対談】WBC日本代表 栗山監督の『人の用い方』
NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会|サーバントリーダーシップとは
東洋経済オンライン|「学び続けるトップ」こそ企業の成長を加速する
上原春男著(2005),『成長するものだけが生き残る』,サンマーク出版.
PRESIDENT Online|「部下から担がれる人」が勝ち残る

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