ある教育学者は、有能な人間でも能力の極限まで出世すると、そこで無能な人と化すため、結果として無能な人間だらけになる――といった内容の法則を提唱しました。
しかし、一方ではこの法則の回避策もいくつか示されており、別の観点から見た有能な人の特徴は、無能化回避のためのヒントを与えてくれます。
そこで今回は、無能化の罠にハマることなく「有能でい続ける人」はどんなことをしているのか、そこに近づくために “私たちができること” とは何かを探ります。
1. 自ら学んでトレーニング
冒頭で述べた法則とは、1969年に南カリフォルニア大学教授の教育学者ローレンス・J・ピーター氏が、作家であるレイモンド・ハル氏との共著のなかで提唱した「ピーターの法則」のことです(参考:Wikipedia|ピーターの法則)。
キャリアコンサルタントの木村千恵子氏によれば、
現代社会においてピーターの法則の影響をまったく受けていない企業はないといっても過言ではありません。
(引用元:ツギノジダイ(朝日新聞社)|ピーターの法則とは メカニズム・組織にもたらす影響・回避方法を紹介)
とのこと。木村氏の説明と先のWikipediaの説明を参考にすると、この法則が示すのは、ザックリと言えば次のふたつです。
- たとえば「有能な社員⇒主任⇒係長⇒課長⇒次長⇒部長」と順調に昇進してきた優秀な人が、ここで能力の限界を迎えて活躍できなくなってしまうこと(もちろん何回昇進するかは人による)。
- たとえば非常に優秀な技術者が昇進し、管理職になった途端に仕事内容がガラリと変わり、これまでに得たスキルを生かすことができなくなってしまうこと。
しかし一方では、ピーターの法則の影響を回避(改善)する方法も次のように示されています。
- 【企業側】:対象者が昇進後に活躍できるかどうか昇進決定前に見極める。昇進前に人材育成プログラムを実施する。いまの仕事に専念している(能力を発揮している)人材は昇進ではなく昇給させる。
- 【個人として】:昇進の話がこないよう無能なフリをする(創造的無能という)。能力の向上を図るべく自ら学び、トレーニングを行い、昇進による無能化から回復する。
(※以上、木村氏の説明とWikipediaの説明参考)
このなかで個人ができる “建設的な対応” は、「能力の向上を図るべく自ら学び、トレーニングを行う」ことではないでしょうか。これは、昇進前の “無能化予防策” としても有効なはず。つまり、
常に新しいことを自ら学び、トレーニングしている
のであれば、有能になる・有能でい続けられることが期待できるわけです。昨今、時代の変化に対応するべくリスキリング(企業が従業員に新しいスキルを再習得させること)の重要性もどんどん高まっています。個人の学ぶ意思は、むしろこれから不可欠だと言えるでしょう。
2. まずは自分を認識する
組織心理学者のターシャ・ユーリック氏の説明を参考にするならば、有能であることのカギは「自己認識の高さ」かもしれません。同氏は「Harvard Business Review」のなかで複数のエビデンスを挙げ、自分について明確に認識している人の有能さを伝えています。その特徴をザッと並べてみると――
自信がある、創造的である、適切な判断を下せる、コミュニケーション能力が高い、仕事のパフォーマンスに優れている、昇進しやすい、より有能なリーダーである、部下の満足度も高い、会社の収益向上に貢献している
――といった具合です。これは間違いなく有能な人材ですよね。
ただし、ユーリック氏ら研究チームが2014年に、5,000人近い参加者を対象とした自己認識に関する大規模な研究を行なったところ、自己認識の条件を満たしているのは、調査対象者のわずか10〜15%だけであったそうです。同氏いわく「自己認識は、実に稀有な資質である」とのこと。(以上参考元:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|リーダーに不可欠な「自己認識力」を高める3つの視点)
こうした事実が
有能になるためには、まず自分を知ることが大事
だという視点を、私たちに与えてくれたのは確かです。それに、自分に適した仕事(能力を発揮できる仕事)を自分で理解するためにも、この能力は必要となるはずです。
3. いまの自己認識を疑う
逆に自己認識力が低いと、認知バイアス(思考や判断の偏り)を引き起こす可能性があります。その認知バイアスとは、社会心理学者のデイヴィッド・ダニング氏とジャスティン・クルーガー氏が1999年に示した、「ダニング=クルーガー効果」のこと(参考:Wikipedia|ダニング=クルーガー効果) 。
さまざまな認知バイアスを紹介するサイト「錯思コレクション100(十文字学園女子大学)」のなかでは、こう説明されています。
自身の知識や能力が不足しているにも関わらず、自身の行動や状況を過大に評価すること
(引用元:錯思コレクション100(十文字学園女子大学)|ダニング=クルーガー効果)
また、Wikipediaには「自らの能力の低さを認識することの困難さが過剰な自己評価につながる」とあります(カギカッコ内引用元:前出のWikipedia「ダニング=クルーガー効果」ページ)。
つまり、自己認識力の低さゆえ、自身の能力が不足していることに気づけないわけです。これでは有能になるどころか「裸の王様」まっしぐら。「私は大丈夫。ちゃんと理解しているから」などと思い込まず、どんな人でも一度は、
現在の自己認識を疑ってみる
ことが大切かもしれません。それにより、自分の無能化状態にもいち早く気づくことができ、早々に回復のための対応ができるはず。
4. 他者の意見を求める
では、どうしたら自己認識力を高められるのか、自己認識力の高い人の特徴を見て学びましょう。ユーリック氏ら研究チームは、自己認識をめぐるふたつの大きなカテゴリーを見いだしたそうです。その内容は次のとおり。
- 「内面的自己認識(自分で自身をどれだけ把握しているか)」
- 「外面的自己認識(他者からの認識をどれだけ理解しているか)」
そして、「自己認識度の高い人は、両方のバランスを保つことを強く意識していた」とのこと。
(カギカッコ内引用元:前出の「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」記事)
同記事内には図表に4つのタイプが示されていますが、そのなかで内面的自己認識度も、外面的自己認識度も高い「認識者」と名づけられている人の特徴は、次のように説明されています。
自分が何者であるか、何を成し遂げたいかを知っており、他者の意見も求め重視する。
(引用元:同上)
内省を行なうなどして自分のことをよく理解し、他者の考えをよく聞いて他者を理解し、他者から自分がどう思われるのか想像する精度を高める、といったところでしょうか。いずれにせよ、このなかですぐに実践できるのは、
他者の意見も求め、重視する
という部分ですよね。
5.「知的謙虚さが高い人」を目指す
前項で示された自己認識力が高い人は、じつのところリーダーに不可欠という観点で語られています。その特徴は、やはりリーダーに必要だとされる「知的謙虚さ」が高い人に重なる部分があります。
ペパーダイン大学の心理学者で、この分野の第一人者でもあるエリザベス・クラムレイマンクーゾ氏によると、知的謙虚さは主に以下4つの要素で構成されるとのこと。
- 意見の尊重:他者の意見を聞き、反対意見も積極的に集める。
- 知的側面で自信過剰でないこと:自分の考えに反したアイデアや解決策の発見にも前向き。間違いの可能性や、自分の知らないことがあればそれを認める。
- 自尊心の知性からの分離:恐れずに自分の過ちを認め、自分の不完全な部分も見せる。自分の正しさの証明に権威を用いない。
- 意見を修正する意思:自信があるので、自分の視点を積極的に修正できる。潔く他者に譲歩し、必要に応じて考えを改めた際には、その事実を正直に語る。
(枠内参考元:Forbes JAPAN|リーダーに必要な「知的謙虚さ」 レベルを測る4つの質問 ※要素ごとの詳細は、同記事内に示された「知的謙虚さを測る4つの問い」の概要を用いてお伝えしています)
これはまさに、前項で述べた「他者の意見も求め、重視すること」といったテーマを拡張し、なおかつ掘り下げた内容ではないでしょうか。それならば有能な人を目指すためにも、
「知的謙虚さが高い人」を目指す
ことが必要となるかもしれません。それに、そもそも謙虚さは「ピーターの法則」の回避策として示された、“新しいことを学ぶ” 際にも欠かせないはず。さらに言えば「知的謙虚さが高い人」を目指すということは、リーダーとしての能力を高めることにもなるわけです。
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無能化の罠にハマることなく「有能でい続ける人」はどんなことをしているのか、そこに近づくために “私たちができること” とはいったい何かを探った結果、
- 常に新しいことを学びトレーニングすること
- まずは自分を知ること
- 現在の自己認識を疑うこと
- 他者の意見を求め、重視すること
- 知的謙虚さが高い人を目指すこと
といったことが挙げられました。つまりは、有能でありたいなら謙虚に学び続けるべし――といったところでしょうか。
(参考)
STUDY HACKER|自分の価値を高めるには「リスキリングするしかない」。ただの学び直しではないリスキリングの本当の意味
ツギノジダイ(朝日新聞社)|ピーターの法則とは メカニズム・組織にもたらす影響・回避方法を紹介
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|リーダーに不可欠な「自己認識力」を高める3つの視点
Forbes JAPAN|リーダーに必要な「知的謙虚さ」 レベルを測る4つの質問
錯思コレクション100(十文字学園女子大学)|ダニング=クルーガー効果
Wikipedia|ダニング=クルーガー効果
Wikipedia|ピーターの法則
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