- 本を読んでも、なかなか知識が身につかない……。
- なんとなく読書の効率が悪い気がする……。
- 本を読むのが最近楽しくない……。
こうした悩みが生まれるのは、「本とはこう読むべきもの」という思い込みに縛られ、 “読書下手” になっているせいかもしれません。読書の効能を最大限に享受したいなら、以下にご紹介する4つの誤解を解き、合理的な読書スタイルを身につけましょう。
誤解1.「最初から最後まで熟読すべきだ」
「本は1ページめから読み始めて、最後まで熟読すべきだ」――というのが、ひとつめの誤解。というのも、
- 効果的なプレゼンの構成を知りたい
- Excelでのグラフのつくり方を知りたい
というように「知りたい情報」が明確にある場合は、本を通読するより、テーマに関わる情報だけを本のなかから拾ったほうが効率的だからです。
経営コンサルタントの大石哲之氏は、特定のテーマについて調べるために本や資料を読む場合、「拾い読み」することを推奨しています。
大石氏によれば、拾い読みは「ウェブを検索するようなイメージ」で行なうのがコツとのこと。キーワードを検索してヒットした記事のなかから、自分のニーズに関係ありそうなページにだけアクセスする――こういった、私たちがウェブを検索する際に自然とやっているような行動を、本を読む際にもすればいいと言います。
具体的には、ひと通り目次を見て、自分の求める内容が書いてありそうなところに付箋などで印をつけたうえで、そのページだけを読んでいくといいとのこと。
たとえば、「プレゼンの構成方法」について知るために本を読むのであれば、「構成」「話の運び方」「ツカミ」「本題」といった、プレゼンの構成方法に関係しそうなキーワードを本のなかに探し、その周辺だけを読むようにするのです。こうすれば、必要な知識を効率よく得られるはず。
「最初から最後まで読み通す」という読み方がいつも必ず正しいとは限らない、ということを知っておきましょう。
誤解2.「紙の本を読むべきだ」
読書好きの人ほど、「本は紙媒体で読むべきであり、電子書籍なんて邪道だ」という考えを抱きがち。たしかに、紙の本は読み心地がいいものですが、「紙で読むのが王道」といった偏見にとらわれると合理的な読書が妨げられる可能性があります。
なぜなら、電子書籍ならではのメリットを享受できず損をしてしまう恐れがあるからです。
精神科医の樺沢紫苑氏は、紙書籍・電子書籍にはそれぞれ以下のようなメリットがあると述べています。
◆紙書籍のメリット
- パラパラ読みができる
- 拾い読み・飛ばし読みしやすい
- 記憶に残りやすい
- 書き込みやすい
◆電子書籍のメリット
- 保管場所が要らず、何千冊でも持ち運べる
- 読みたくなったとき、すぐに購入して読める
- 「検索」「印をつけた文章の一覧表示」など、電子媒体ならではの便利機能がある
- 読み放題サービスを使えば、膨大な書籍に手軽にアクセスできる
このように、双方にメリットがあるうえ、紙と電子のどちらに慣れているかは人それぞれなので、自分が読みやすいと思うほうを選べばそれでよいと、樺沢氏は述べています。
ただ、本の種類により電子書籍が適さないケースもあることには、注意したほうがよいとのこと。
電子書籍には、興味のない章を飛ばしたり、パラパラとめくって読み流したり、数ページ前に戻ったり――といったフレキシブルな読み方をしづらい、というデメリットがあるため、知りたいことだけを効率よく読むという読み方をするなら、紙の本のほうが向いているそう。つまり、「読書中の利便性」という面では、紙の本を直接めくるほうが優れているのです。
そのことをふまえると、ビジネス書・実用書などは紙書籍で、最初から流れを追うのが当たり前の小説やマンガなどは電子書籍で読むというように、使い分けるとよいそうですよ。
紙の本にばかりこだわらず、電子書籍も取り入れて、自分なりの読書の楽しみ方を広げてはいかがでしょうか?
誤解3.「たくさん読むほどよい」
「去年は100冊以上本を読みました」「これまでにビジネス書を1,000冊は読み漁ってきたんです」など、読書量を自慢げに語る人を見ると、「やっぱり本は、たくさん読むほどよいのかな……」と思ってしまうもの。
しかし、「冊数」という指標にこだわりすぎることには、あまり意味がないようです。
そのことがわかる事実をひとつご紹介しましょう。Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏の読書ペースは、年間50冊(週1冊)程度だそう。年に何百冊、何千冊と読み漁るタイプの「多読家」ではありません。それでもゲイツ氏は世界的成功者として知られ、ビジネス界きっての読書家と評されることも。
そもそも、本の文字数や内容、難度はまちまちですし、どんなにたくさん本を読んだとしても、内容が身になっていないのでは意味がないものです。そう考えると、個人の能力やスキルは、「読書量」という指標で測れるものではないのかもしれません。
経営コンサルタントの小宮一慶氏は、読書の技術は「目的」によって使い分けるべきものだと提唱しています。小宮氏が使い分けをすすめる読み方は、以下の4つです。
- 速読
求める情報を探すために、要点をすばやく把握する読書法(拾い読みなど)。 - 通読
最初から最後まで読む、いわゆる一般的な読み方。ビジネス書などの論点を整理しながら読みたいときに有効。 - 熟読
わからない箇所について調べたり、じっくり考えたりしながら読む方法。専門書などをしっかり理解したいときに有効。 - 重読
同じ本を繰り返し読むこと。古典や自己啓発本のような自分の指針になる本、心に響く大切な本などをより深く味わうときの読み方。
つまり、「すばやく効率的に」拾い読むのがよい場合もあれば、「じっくり何度も」同じ本を読むべき場合もあるということ。「たくさん読むほど偉い」という考え方にとらわれれば、本の読み方が「速読」「通読」だけに偏り、「熟読」「重読」がおそろかになってしまう恐れがあります。
「たくさん読まなきゃ」とただ焦るのでなく、目的に合った最適な速度・深度で読むことを心がけましょう。そうすれば、本当に有意義な読書ができますよ。
誤解4.「マンガは読書に入らない」
マンガが “読書” に含まれるかどうかは、個々人の見解により意見が分かれるところでしょう。じつは、「マンガは読書に入らない」という考えに偏ることは、少々もったいないようです。
株式会社カルぺ・ディエム代表で勉強法に関する著作家・西岡壱誠氏によると、マンガは格好の教材になりえるそう。「学びたい学問分野への興味をかき立てる」「入門的な知識を得る」「描かれた絵が知識の補完に役立つ」といったメリットがあると言います(西岡氏と東大生2名の対談より)。
加えて、西岡氏は、マンガは感情を揺さぶるようなエピソードをともなって描かれているため、情報が記憶に残りやすく、理解もしやすくなるというメリットがあるとも述べています。
最後に、新しい分野の “学びの入口” として役立つ、知的なテーマを扱ったマンガ作品をいくつかご紹介しましょう。
『トリリオンゲーム』(経営)
『チ。―地球の運動について―』(歴史)
『ブルーピリオド』(美術)
『BLUE GIANT』(音楽)
『Dr. STONE』(科学)
「しょせんマンガだし……」といった偏見をもたず、マンガも学びの一手段として、大いに有効活用してください。
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“読書下手” だという自覚がある方は、上記4つの誤解から脱却し、本との付き合い方を見直してみましょう。
(参考)
大石哲之 (2014), 『コンサル一年目が学ぶこと』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
FRIDAYデジタル|「電子書籍」と「紙の本」どっちがいいか 脳科学の専門家の見解
The New York Times|Bill Gates on Books and Blogging
小宮一慶 (2008), 『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
東洋経済オンライン|知識や教養が身に付く、東大生3人が厳選「勉強と人生に役立つ漫画」20冊
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。