キャリア重視で仕事に邁進する「バリキャリ」でもなく、生活を優先して働く「ゆるキャリ」でもなく、ライフもキャリアも可能な限り充実させたい「フルキャリ」女性が増えているーーというお話を前回のコラムではご紹介しました。
今回はそんな「フルキャリ」女性が、自分にぴったりの職場を求めて転職するうえでぜひ実践していただきたいポイントをお伝えします。
(前回のコラムはこちら:いまの生活に満足してる? 仕事もプライベートも重視したい「フルキャリ」女性が “理想の働き方” を実現する方法)
【プロフィール】
田中美和(たなか・みわ)
1978年5月7日生まれ、千葉県出身。株式会社Waris共同代表。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事。国家資格キャリアコンサルタント。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日経BPに入社。編集記者として、働く女性向け情報誌『日経ウーマン』を担当。取材・調査を通じて、延べ3万人以上の働く女性の声と接する。女性が生き生きと働き続けるためのサポートを行なうべく独立し、2013年、多様な生き方・働き方を実現する人材サービス企業として株式会社Warisを創業し、共同代表に就任。フリーランス女性と企業との仕事のマッチングやリスキリングによる女性の就労支援に取り組む。近年は、女性役員・管理職の紹介事業を通じて意思決定層の多様性推進にも尽力する。
- ポイント1:今回の転職で実現したいことは?言語化しよう
- ポイント2:最も大切にしたいことは? かなえたいことの優先順位を明確に
- ポイント3:先入観を捨て、可能性の扉を開ける
- ポイント4:キャリアを中長期でとらえ後悔のない選択を!
ポイント1:今回の転職で実現したいことは?言語化しよう
まず取り組んでいただきたいのが「今回の転職で実現したいこと」を自分の言葉で整理することです。筆者の会社では30代40代の女性たちの転職支援をしており、「転職のきっかけ」についてはみなさん明確にお話をされます。
「残業が多い」
「自分のスキルや経験が活かせない」
「成長を感じられない」
など、現職への不満が直接のきっかけとなって転職活動を始める人が多いからです。
一方で「今回の転職で実現したいこと、叶えたいことはなんですか?」とお聞きすると、意外なほど言葉につまる人が多いのです。
きっかけとしては現職での不満が大きいのかもしれませんが、ご本人にとって「不満が解消されればどんな仕事でもいい」わけではないでしょうし、現職への不満を軸に転職活動の選考を通過するのは難しいものです。
現職への不満から転職を考え始めるのは自然なことなのですが、その先にどんな未来を思い描いているのか?何を実現したいのか?ーーこういった点をぜひ自分なりに明確にしておきましょう。
うまく言葉が出てこない人は、転職サイトで求人を検索してみてください。気になる求人情報はありませんか? いくつかピックアップしてみて、「自分がどこに惹かれているのか」を深堀りして考えてみてもいいかもしれません。
「これまでの経験やスキルを活かし、チームを率いるリーダー職を目指したい」
「専門性を高め、希少価値の高い人材になりたい」
「自分の興味のある分野で、熱意を持って働きたい」
など、「今回の転職で実現したいこと」を言葉にしてみましょう。
ポイント2:最も大切にしたいことは? かなえたいことの優先順位を明確に
2番目におすすめしたいのがポイント1で出た「今回の転職で実現したいこと」の優先順位を明確にすることです。「今回の転職で実現したいこと」として複数の項目があがってくることもあることでしょう。
仕事のやりがい、報酬などの条件面、リモートワークなどの働き方の柔軟性を比較したときにどれを最も優先するのか? 仕事のやりがいを優先するから報酬については○万円までであれば妥協してもよいが、それ以下は許容できない……といった優先順位とそれにともなう条件面での「OKライン/NGライン」を明確にしていただきたいのです。
これらの優先順位や「OKライン/NGライン」については人材エージェントを使う場合はエージェントのコンサルタントともぜひ共有しましょう。明確に伝えてもらったほうがエージェント側としても、要望に沿った仕事情報をスピーディにご紹介することが可能になります。
ポイント3:先入観を捨て、可能性の扉を開ける
キャリアもライフも充実させたいと願う女性にとって、転職は人生を大きく好転させるチャンスです。しかし、希望の条件に固執し、選択肢を狭めてしまうケースも少なくありません。
「〇〇業界でなければダメ」「大企業じゃなければ安定しない」といった固定観念は、思わぬ才能や適性を埋もれさせてしまう可能性があります。転職を成功させ、真の充実を手に入れるためには、固定観念を捨て、広い視野で業界や会社規模を検討することが重要です。
たとえば、スタートアップ企業に対して「昼夜問わず働くイメージ」から抵抗感を示す人もいるのですが、これは非常にもったいないと感じます。じつは、私は30代・40代の働く女性とスタートアップは相性がいいと考えていて、実際、スタートアップへの転職支援の事例も数多くあります。
スタートアップの経営者は30代・40代中心で、共働き世代でもあるので女性が働き続けることや仕事を通じて成長していくことに対して理解があります。
また、新しいテクノロジーやサービスをどんどん取り入れて働き方を効率化していく傾向が強く、リモートワークも積極的に導入している企業が多いです。
さらに事業の成長とともに組織も拡大していきますから、これにそって急速なキャリアアップも可能になります。私達がお手伝いした事例でも入社時は管理部門の1メンバーとして入った人が、組織の成長とともにすぐに管理職になり、数年で執行役員にまで昇進されたケースもあります。
大切なのは会社規模ではなく、心から事業内容や価値観に共感でき、自分を活かせる環境を選ぶことです。企業の大小にかかわらずリモートワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方を実現し、個々の能力を最大限に引き出す経営を行なっている企業はあります。
事業内容についても同様のことが言えます。「身近な商材じゃないとイメージがわきづらい」「できれば一般消費者向け(To C)のサービスを展開している会社がいい」とこだわりを持っている人もいるのですが、B to B(企業間取引)の企業の中にも仕事のやりがいとワークライフバランスの実現に積極的に取り組んでいるところもあるのです。
ぜひ見た目や先入観にこだわりすぎずに転職先を検討していきましょう。
ポイント4:キャリアを中長期でとらえ後悔のない選択を!
より良いキャリア実現のためには、希望の条件に合致する求人を探すことはもちろん、キャリアを中長期でどのように築いていきたいのかを明確にすることも重要なポイントです。
「現職への不満」から転職を検討し始めると、ともすると短期的な視点から転職先についても検討しがちです。今の「しんどさ」を解決するための選択になってしまいがち、ということです。
たとえば現職が常に長時間労働の職場で、そこに苦しさを感じていたとします。このため、できるだけ長時間労働ではない「ホワイト」な職場を探します。ただ、その決断が今までの経験とつながっていなかったり、経験を広げる・深めることにならなかったりする場合は注意が必要です。
数年後にまたキャリアのアクセルを踏み込みたい瞬間が来るかもしれません。そのときにつながる経験になっているでしょうか?
キャリア選択においてよく「子育てが一段落したら…」という言葉を聞きますが、私が女性のキャリア支援をしていて感じるのは近年の「育児の長期化」です。
当たり前のことですが、未就学期間だけでは子育ては終わりません。小学生になって勉強や友達との関係が複雑化するなかで親の関わりが求められる場面も増えてきますし、近年は中学受験をする家庭が増えていることから、そこでもまた親の関わりが必要になってきます。
ですから「一段落するタイミング」を待っているとあっという間に10年くらい経ってしまいます。このため、ワークもライフも追求したい「フルキャリ」さんであれば、短期的な視点で転職先を選ぶのではなく、5年後、10年後を想像し、自分がどのようなキャリアを築きたいのか、どのようなライフスタイルを送りたいのかを考えつつ、ライフを大事にしながらも仕事を通じてもっともっと成長できるキャリアをぜひ選択していただきたいと思います。
世の中は史上空前の売り手市場、加えて近年の「女性活躍推進」や「人的資本経営」の潮流による追い風が吹いています。成長志向の女性たちにとっては今がチャンスです!この風をうまく活用しながら、より自分を活かせる環境を選んでいきましょう!