「リーダーシップの本質」とはなにか? 自らを導きチームを導く、いまの時代に必要なマインドセット

リーダーシップの本質について、伊藤羊一さんと澤円さんの対談の様子

複数の人間が集団をつくって成果を挙げることが課されている会社組織において、「リーダーシップ」や「組織マネジメント」が重要であるのは疑いようもない。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長であり、LINEヤフー株式会社LINEヤフーアカデミア学長でもある伊藤羊一氏をゲストに迎え、元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員で、現在は株式会社圓窓の代表取締役を務める澤円氏が話を聞いていく。組織を牽引してきたふたりは、組織をリードしてマネジメントするには、「個」の力が重要だと語る。

※本稿は、YouTubeチャンネル「Bring.」の動画「『真のリーダーシップ』を考える。いい組織と社会をつくるために必要な『個』の力を育む思考」の内容を再編集したものです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
伊藤羊一(いとう・よういち)
1967年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長、LINEヤフー株式会社LINEヤフーアカデミア学長。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行入社。2003年、プラス株式会社に転じ、事業部門であるジョインテックスカンパニーにてロジスティクス再編、事業再編などを担当し、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括する。2015年にヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)に転じ、現在はLINEヤフーアカデミア学長としてLINEヤフー株式会社全体の次世代リーダー開発を行なう。2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。主な著書に、60万部超のベストセラー『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』(SB クリエイティブ)、『「僕たちのチーム」のつくりかた メンバーの強みを活かしきるリーダーシップ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『FREE, FLAT, FUN これからの僕たちに必要なマインド』(KADOKAWA)などがある。

澤円(さわ・まどか)
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員のほかにも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行なうなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

過去を振り返らなければ、いまの自分は見えてこない

:(伊藤)羊一さんはいろいろな場所で、「自分を知ること」、特に「過去を振り返ること」が大切だと説いていますよね。リーダーシップを育むうえで、過去を振り返ることの重要性はどこにありますか?

伊藤:リーダーシップにはさまざまな意味合いがありますが、よりよいキャリアを歩めるように「自分自身を導く」という意味のリーダーシップもあります。当たり前ですが、自分を導くには自分を知る必要があります。自分がどのような人間なのかを知らないまま動き出すのは、羅針盤のない状態で航海に出るようなもの。その状態でいい航海はできませんよね?

そして、いまの自分をつくっているのは過去なのです。だからこそ、自分の過去を振り返るのが大切であると考えます。

:ただ問題なのは、人生のなかには振り返るのをためらうような「嫌な過去」も存在するということです。

伊藤:もちろん、嫌な出来事の記憶もあるでしょう。でも、羅針盤を持たずに航海には出るわけにはいかないのですから、そこはもう潔く諦めて、勇気をもって過去を振り返るしかありません。

でも、大袈裟に考えずに小さく始めればいいのです。「今日、僕は澤さんに会った」「楽しかった」「なんで楽しかったのかな?」というように、日々のなかでいろいろと思いますよね? そのように1日1日を振り返るのを積み重ねていけば、自然と過去を振り返ることもできるようになるはずです。

:そうして過去を振り返ったとします。自分を導いていくには、現在や未来について考えるのも必要ですよね?

伊藤自分の過去・現在・未来をつなげて自分の方向性、つまり「軸」をつくるのが重要だと考えています。ただし、これについても難しく考える必要はありません。

まず、過去を振り返れば現在の自分が見えてきます。これまでの経験によってかたちづくられた自分の好きなことや、さらにはそこから派生して将来的にやりたいことも認識できるわけです。そこまで来たら、とにかくその好きなことをやればいい。行動を起こさない限り、現在も未来もいい方向に変わることは絶対にないのですから。

ただ、ことさらに「自分を導くために未来を意識しなければならない」といった「must」の感覚などもつ必要はないでしょう。「いまそれが好きなんだからやるぜ。明日も明後日もやるぜ!」「理由? だって楽しいじゃん」でいいではないですか。ゲームをやりたいならゲームをやればいいし、本を読みたいなら本を読めばいい。自分の心に素直に従って行動を続けていく。そのような「いまの行動」が、未来を切り開いてくれます。

過去を振り返ることの大切さについて語る伊藤羊一さんと澤円さん

(左)伊藤羊一さん、(右)澤円さん

「嫌だったらやめればいい」。そんな軽い気持ちで行動を起こす

:しかし、羊一さんみたいな人ばかりではありません。世のなかには、「そうは言ってもなかなか行動できないんだよ」「一歩目が踏み出せなくて」という人もいます。

伊藤:僕も20代の頃はそういうタイプでしたから、そのような気持ちも十分に理解できますよ。たとえば、パーティーに誘われたとします。僕はそのような場面で、行きたい気持ちもあるし、行かなければいけない気もしていたわけです。でも、直前になるとちょっと怖くなったり面倒に感じたりして、最後にはドタキャンしてしまうこともあったのです。

でも、「行きたい」という素直な気持ちは大事にしていましたから、3回に1回くらいはパーティーに行ってみる。すると、そのうちの半分くらいは「楽しかった」「来てよかった」と思えるのです。そういった経験から、「行動すればいいことがある」と思うようになり、行動できるようになっていった感じです。

ですから、「嫌だったらやめればいい」くらいの軽い気持ちをもって、行動できるときは行動を起こすのを続けていくのが大事なのではないでしょうか。先にも言いましたが、「must」の感覚をもつとそれに縛られてしまい、逆に行動できなくなることもあります。また、行動できなかったときには自分自身にダメ出しをして自己肯定感を低下させ、「どうせ自分にはできない」と思い込み、さらに行動を起こしづらくなるネガティブなスパイラルにも陥りかねません。

:野球で言えば、全打席ホームランだとか打率10割を狙わなくていい。

伊藤:だって、そんなの超一流選手だって無理ですからね(笑)。「行動したい、行動できるときにはそうする」という気軽なスタンスでいいと思います。

軽い気持ちで行動することについて語る伊藤羊一さん

現在の組織では、メンバーの「個」の確立が求められる

:ここまでは「個」にフォーカスしてきましたが、リーダーシップは組織マネジメントにおいても重要です。「個におけるリーダーシップ」と「組織におけるリーダーシップ」の関係性についてはどう考えますか?

伊藤:僕は、「むかし」と「いま」を、「インターネット誕生前」と「インターネット誕生後」ととらえています。ざっくり言うと、インターネット前は主にモノをつくっていた時代です。その時代のなかでの個はそこまで重要視されておらず、「これをつくってくれ」「はい、わかりました」とトップダウンのかたちで問題なく組織や世のなかは動いていました。とにもかくにも、モノを大量生産して、たくさん売ればよかったからです。

でも、インターネット誕生後の現在(いま)は大きく時代も変わり、トップダウン方式だけではうまくいきません。「正解がない時代だ」と言われ、ビジネスにおける課題が以前よりはるかに複雑化しています。そのような時代においては、自らを導いてそれぞれに独自のスキルを身につけた多様な人材がみんなで「わちゃわちゃ」考えながら、成果を挙げられる組織にしなければならないのです。

組織の誰もが同じことを考えていたら、道がひとつだけになってしまいますよね? 仮にその道が不正解だったらリスクは大きすぎます。だからこそ、それぞれが自らを導いていくリーダーシップが、結果的に組織マネジメントにおいても重要なものになっているのだと思います。つまり、個がしっかりと確立されている必要があるのです。

:そこでポイントになるのは、個が大事でありつつも、それぞれが対立するのではなくお互いにリスペクトすることですよね。

伊藤:もちろんそう思います。いくら優秀で多様なメンバーが集まっても、それぞれがバラバラの方向を向いていては成果を挙げられる組織にはなれないでしょう。そう考えると、現在のリーダーの役割とは、トップダウンで指示を出すのではなく、メンバーみんながリスペクトし合いながらわちゃわちゃと議論ができる心理的安全性をつくり、最終的にひとつの方向にまとめるというものではないでしょうか。

「個におけるリーダーシップ」と「組織におけるリーダーシップ」の関係性について問う澤円さん

マネージャーの役割は、「なんとかする人」

伊藤:また、ほかにもリーダーやマネージャーにもっていてほしい意識があります。マネジメントを「管理する」という意味で認識している人が多いのですが、その動詞形の「manage」の本来の意味は「なんとかする」です。

つまり、マネージャーとは、「組織がゴールに到達するためになんとかする人」なのです。組織の目的を達成するために、やれることはなんでもやる――それが、マネージャーです。指示する人でもなければ、管理する人でもありません。

:僕自身も「管理職」という言葉は好きではありませんが、羊一さんはよく「FLAT(フラット)」という言葉を使いますよね。

伊藤:正解がない社会において、「誰が上だとか下だ」などと言っているようでは成果につながっていきません。誰もが自由に意見できるフラットな関係性にあり、マネージャーやリーダーは「なんとかする役割をもっている人」といった認識がある組織こそが、強いのではないでしょうか。

もちろん、マネージャー職の人の給与は高く設定されます。その理由は、駆けずり回るからです。偉いからでもなんでもなく、組織の目的達成のためにやれることはなんでもやろうと誰よりも駆けずり回る。だから、メンバーより給与が高いだけの話です。

:そのフラットの意識をもちながらも、マネージャーやリーダーには悩みが尽きません。たとえば、「どうすれば部下のモチベーションを高められるかわからない」というのも典型的な悩みのひとつです。

伊藤:そのような悩みをもっている人に、僕は声を大にして訴えたいですね。「あなたは、その人の意見や気持ちをきちんと聴いていますか?」と。相手の意見や気持ちを聴かずに「こうすべきだ」と自分の考えを上から押しつけていたのでは、部下のモチベーションが高まらなくて当然です。

マネージャーやリーダーは優秀だからこそ、その職位に就いています。優秀さゆえに、「それはちょっと違う」とメンバーの意見を否定したくなることもあるでしょう。でも、それでは心理的安全性をマネージャーやリーダー自らが破壊してしまうことになります。

ですから、メンバーの意見を否定せず、ただひたすらに耳を傾けるのです。しっかりとメンバーの発言を受け止め続けていれば、「こうして安心して本音を言える組織なら、私にも貢献できることがありそうだ」と感じてくれます。

マネージャーの役割について語る伊藤羊一さん

1on1ミーティングでは、相手を「先生」だととらえる

伊藤:メンバーとの接し方に関しては、逆に僕から澤さんにお話を伺いたいですね。日本でも広まりつつありますが、1on1ミーティングは、澤さんがかつて在籍していた日本マイクロソフトなど外資系のカルチャーですよね。1on1ミーティングには、どのような意識をもって臨んでいましたか?

:僕がひたすらやっていたのは、「相手を先生ととらえ、僕が生徒になって教えてもらう」ということでした。そういう設定にすると、こちらからの質問がとてもしやすくなるのです。しかも、自分は生徒ですから「その考えについては意見しなければならない」などと、ジャッジをするような考えをもつこともありません。

また、とても大きな副次的効果も期待できます。それは、相手の考えやメソッドを僕が吸収できるということ。僕がマネージャーで羊一さんがミーティングの相手だとしたら、羊一さんからなにかを教えてもらうことで、僕は「プチ羊一さん」になれるのです。

すると、羊一さんの手が回らないようなタイミングで代役に回ることができる。誰かが羊一さんにアサインしてきたときに、「ごめんね、その日は羊一さんが無理だから僕がやるよ」と、つなぎ役ができるようになるのです。

伊藤:ミーティングに限らず、チームづくりにおいて澤さんが気をつけていることはほかにありますか?

過去の自分に対してプライドをもたないことでしょうか。過去の実績や成功体験について自分のなかでプライドをもっておくのはいいのですが、それを他人に対して武器のように使うとろくなことになりません。「俺が若い頃は」「俺に言わせれば」といった言葉は本当に格好悪いじゃないですか。

伊藤:確かにね。でも僕は、「俺が若い頃は……」という言葉をよく使いますよ。「とてつもないバカだった」って(笑)。

「リーダーシップの本質」についてお話しくださった伊藤羊一さんと澤円さん

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