2024年7月3日に、新しい紙幣が発行されました。新しい一万円札では、実業家の渋沢栄一が肖像となっています。渋沢栄一は、「設立や運営など、その生涯に関わった企業は約500を数えると言われ、『日本資本主義の父』と評されます。加えて、約600の教育・社会事業にも携わったとされ、まさにいまの日本社会の礎を築いた人物なのです。」(参考:國學院大學|私たちはなぜ今こそ渋沢栄一の理念に学ぶべきなのかよりまとめた)
このニュースをきっかけに、渋沢栄一に関心をもっている方もいるのではないでしょうか。本記事では、毎日を漫然と過ごしてしまっている方に向けて、渋沢栄一の仕事や勉強への向き合い方をご紹介します。
【ライタープロフィール】
藤原瑶
大学では経営学を専攻。思考法に興味があり、ロジカルシンキング・クリティカルシンキングを勉強中。仕事力向上のためビジネス書を読む習慣をもち、書籍で学んだことをタスク・スケジュール管理などに活かしている。
渋沢栄一の教え1:志を立てる
渋沢は、事業を立ち上げるうえで「沈む日本を何とかしたい、日本を強く繁栄させて、欧米列強から植民地にされないようにしたい」という志を生涯を通じてもっていたといいます。(引用元:日経ビジネス|渋沢栄一の謎・後編 経営能力の源は「図抜けた頭脳」「体力」「志」※太字は編集部が施した)
この志が動機となり、「日本資本主義の父」といわれるまでになったのですね。
現代を生きる我々も、勉強や仕事に対して志、つまり目標を設定することはよくあること。しかし、彼のように意志を保ち続けるためには、じつは目標の立て方にポイントがあるのです。
脳科学者の岩崎一郎氏によると、目標設定のやり方には大きくふたつあるそうです。それは、「一方は自分の物欲を満たすためで、もう一方は人に貢献して喜ばれたい、それによって心の豊かさを満たしたいというもの」です。(参考:東洋経済オンライン|やる気を削がれる人と奮起する人の決定的な差よりまとめた)
目標設定には、個人的な欲求を満たすものと、他者への貢献を目指すものの2つの側面があります。
個人的な欲求の例としては:
- 「年収○○万円を達成する」
- 「○○の資格試験に合格する」
一方、他者への貢献や心の豊かさを求める目標の例としては:
- 「○○業界の課題を解決し、困っている人々を支援する」
- 「地域の環境保護活動に参加し、持続可能な社会づくりに貢献する」
このように、自己実現と社会貢献のバランスを取りながら目標を設定することで、より充実した人生設計が可能になります。個人の成長と周囲への好ましい影響を両立させることが、真の成功につながるのかもしれません。
渋沢の志も、「日本を強く繁栄させる」、つまり日本に住んでいる人に貢献するという意味にとれるので後者が当てはまるでしょう。
岩崎氏によると、後者の目標設定のほうが幸福度が高くなる傾向にあるといいます。
人は誰かに貢献して喜んでもらえることで幸せになれる、そしてその貢献に対して、お金という形で自分にペイフォワードされると同じように幸せになれるのです。
(引用元:同上)
渋沢も、自身の事業や会社によって日本が繁栄したことで人々に喜ばれ、それがさらなるモチベーションになったのでしょう。
現在、特に目標がないまま毎日を過ごしている方は、まわりの方に貢献でき、自分の心が満たされるような目標を設定してみましょう。
渋沢栄一の教え2:生涯学び続ける
渋沢は、その生涯を通して学び続けたといいます。
父から学問の手ほどきを受け、青年時代には、いとこである尾高惇忠の塾で学問することのおもしろさを学びました。1867年にパリで開催された万国博覧会に参加した際には、パリへ渡る船のなかでフランス語の勉強を始め、1か月ほどでフランス語会話を習得。晩年になってもダーウィンの進化論とメンデルの遺伝の法則の本を一週間で読破し、わからないところへ印をつけ理解するまで質問するなど、絶えず学び続け、努力を惜しまぬ人でした。(参考:渋沢栄一デジタルミュージアム|2.生涯学び続けた渋沢栄一/深谷市ホームページよりまとめた)
ただ、渋沢のように学びを続けたいと思っていても、仕事と勉強の両立がうまくできずに悩む方もいらっしゃるでしょう。日々忙しく過ごしていると、勉強すること自体のハードルが高くなってしまうものです。
確かに、日々の生活の中で長時間の学習時間を確保するのは容易ではありません。しかし、短時間の勉強でも十分効果は得られるのです。トレスペクト教育研究所代表の宇都出雅巳氏は、「すばやく・ざっくりくり返す」勉強をすすめています。(カギカッコ内引用元:All About|隙間時間で勉強する4つのコツ!1日5分でもOKの暗記術とは)
ざっくりと読んでも、ちゃんと勉強できないのはないかと不安になるかもしれません。しかし、じつは「脳はいきなり細かい知識を記憶・理解するのは得意ではありません。大雑把にざっくりと記憶・理解するほうが得意」なのです。(カギカッコ内引用元:同上)
脳の特性を活かした「すばやく・ざっくり」の勉強を繰り返していくうちに、細かい部分も頭に入っていきます。
毎日あわただしく、勉強からつい逃れてしまいたくなる方も、日々勉強する癖をつけてみると、努力を惜しまなかった渋沢の志に触れられるでしょう。
渋沢栄一の教え3:人を信用し、信用される
渋沢は、生涯のなかで多くの事業に関わりましたが、そのすべてを自分が率いていたわけではなく、中枢の仕事をほかの人に任せることも多くありました。
國學院大學教授の杉山里枝氏は、彼がこのような経営スタイルをとったことについて「彼が公益を追求していたからでしょう」「国全体が成長するには、自分だけで経営していてもダメで、なるべく多くの人材とともに成長したいという視点があったはず」といいます。(カギカッコ内引用元:國學院大學|渋沢栄一の「エリートらしからぬ」人脈構築術)
渋沢栄一は、教え1で紹介した志にのっとり、さまざまな人を巻き込んで事業を興していったのです。この考え方は、現代の仕事でも活かすことができます。
「自分が把握している仕事は、自分でやったほうが早い」とリーダーがたくさんのタスクを抱え、メンバーがなかなか育たないというのはよくある話。しかし渋沢の経営スタイルから学ぶなら、タスクをまわりにどんどん任せていくべきなのです。
とはいえ、信頼関係が構築されていなければ、ほかの人に仕事を任せるのは心配なものです。仕事を任せられるほどの関係は、どのようにして築くのでしょうか。
昭和女子大学ダイバーシティ推進機構キャリアカレッジ学院長の熊平美香氏によると、信頼関係を築くためには「意見を押しつけ合うのではなく、その背景にある経験、感情、価値観までも互いに知る」のが大切だそう。(カギカッコ内引用元:STUDY HACKER|まわりから信頼されるための3つの重要要素。「対話」さえできれば人間関係はうまくいく※太字は編集部が施した)
仕事を進めるときは、自分のやり方や考え方が最善だと思ってしまいがちですが、ほかの人の視点に思いを馳せてみることは、事業を大きくすることにつながるでしょう。
***
昔を生きた渋沢栄一ですが、じつは現代人である我々も学ぶべき点が多くありました。ぜひ参考にして、少しずつ取り入れてみてください。
國學院大學|私たちはなぜ今こそ渋沢栄一の理念に学ぶべきなのか
日経ビジネス|渋沢栄一の謎・後編 経営能力の源は「図抜けた頭脳」「体力」「志」
東洋経済オンライン|やる気を削がれる人と奮起する人の決定的な差
渋沢栄一デジタルミュージアム|2.生涯学び続けた渋沢栄一/深谷市ホームページ
All About|隙間時間で勉強する4つのコツ!1日5分でもOKの暗記術とは
國學院大學|渋沢栄一の「エリートらしからぬ」人脈構築術
STUDY HACKER|まわりから信頼されるための3つの重要要素。「対話」さえできれば人間関係はうまくいく