「なでしこジャパン」歓喜の優勝から8年。佐々木則夫氏 “ゆるゆるマネジメント” のすごさを振り返る。

サッカーなでしこジャパン佐々木監督のマネジメント術01

2019年の女子ワールドカップが開幕しました。初戦のアルゼンチン戦はスコアレスドロー。第2戦以降の日本代表の活躍に期待です。

さて、時はさかのぼって8年前の2011年。「なでしこジャパン」がアジア勢初の女子ワールドカップ優勝を成し遂げた、あの歓喜の瞬間を覚えている方も多いはず。優勝が決まった瞬間には、1秒間に7,916件ものツイートが投稿され、当時の世界記録となったそうです。

実はなでしこジャパンの優勝が、当時の監督・佐々木則夫氏による卓越したマネジメントのたまものだったことをご存知でしょうか。佐々木監督は、常識にとらわれないアプローチでなでしこジャパンを率い、驚異的な成果をあげることに成功したのです。

「リーダーを任されたものの、どうすればいいのかわからない……」
「部下や後輩からの人望がない……」

と、マネジメントの悩みをお持ちの方は必読です。

佐々木監督は部下を縛らなかった

私たちがよく使う「マネジメント」という言葉には、「部下を思い通りにコントロールする」という響きがありますよね。たしかに、マネジメントは一般的に、ある程度の主従関係に基づいて行なわれます。

しかし、佐々木監督が行なったマネジメントは、「思い通りのコントロール」とは正反対のものでした。つまり、なるべく選手に指示を出さず、伸び伸びとプレーさせることを重視したのです。

佐々木監督は、インタビューで以下のように語っています。

細かい指示を与えると、選手が考え込んでしまい、逆にパフォーマンスを落としかねない。なにより判断力が絶対に身に付きません。

若い世代にはできるだけ細かくいわずに、若い感性を活かしたアイデアやひらめきを表現して、伸び伸びと自分らしいプレーができるように環境をつくってあげることが大事です。

(引用元:iRONNA|一体感で本番へ!なでしこ・佐々木監督流マネジメント

子どもの頃、親に「早く宿題をやりなさい」「もっと勉強しなさい」と口うるさく言われ、かえってやる気がそがれた経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。上司が過度に口を出すのも同じです。あまりに細かいところまで口を出されては部下が萎縮しますし、もともとあったやる気が減退していきます

実際、2011年のワールドカップ以前のなでしこジャパンは、指示された作戦を実行しようと意識するあまり、プレーがワンパターンになっていたのだそう。「指示に忠実になりすぎてしまう問題」の解決策として生み出されたものが、「ゆとり」を大切にしたマネジメントスタイルだったのです

また、佐々木監督は選手のみならず、コーチやスタッフたちの裁量も大きくしました。

敵情視察を担当するテクニカルスタッフは、映像を編集するだけでなく、対策ミーティングも仕切る。ドクターが負傷した選手に症状を伝える際も、選手個々の心理状態に合った伝え方をするよう、ドクターに任せる。たとえば同じ程度の怪我でも、「このぐらいならできるよ」と言ったほうがいい選手と、「無理しないほうがいいよ」と言ったほうがいい選手がいるものなのだ。

(引用元:フットボールチャンネル|佐々木則夫のマネジメント ~なでしこを統率した5つの経営者的マネジメントセンスを読み解く~

部下にはそれぞれ、専門性や持ち味があります。部下たちの強みを最大限に発揮できるよう組織をデザインするのも、マネジメントの大切な要素です。

マネージャーだからといって、「ぜんぶ自分が決めなければ!」と思い込むのはよくありません。むしろ、マネージャーとしての権限を最小限にとどめ、部下に仕事をどんどん任せてしまうほうが、組織が生き生きと動き出すこともあるのです

ここからは、佐々木監督が実践していた方法をヒントに、佐々木流 “ゆとりマネジメント” の具体的手法を3つご紹介していきます。

サッカーなでしこジャパン佐々木監督のマネジメント術02

1. 上下関係よりも「横から目線」

佐々木監督は、選手たちから気安く「ノリちゃん」と呼ばれていました。佐々木流、上から目線ならぬ「横から目線」です。

明確な上下関係ができてしまうと、部下たちは「とにかく指示に従わなければ」という意識で凝り固まってしまいます。意識が「指示に従わなきゃ」でいっぱいになるのを防ぐために、佐々木監督はあえてフラットな立場で選手と接しました。対等な仲間であると認識し合うことで、信頼関係がより深いものになるのです。

人材教育や組織の改善をサポートする、組織革新研究会キャンパスリーダーの藤田英夫氏は、「横から目線」の重要性を以下のように解説しています。

権力によっては人間の心は動かない。 その結果として人びとから出てくる力は、いたしかたなく動く 「道具力」でしかない。(中略)そこで、横からの力ということになる。 その横組織化である。 この場合の “上” からの働きかけは、横どうしの力を相互作用させ合い、それに拍車をかけていくという、間接作用する力だ。

(引用元:組織革新研究会|「横から目線の組織化」のすすめ――リーダーの「足し算」・2

藤田氏は、マネジメントの役割を「芋洗い」に例えています。水を張ったオケの中に入っている無数の芋が部下たちだとするなら、マネジャーはそれを掻きまわす「かくはん棒」。芋を直接手で洗うのは「上から目線」ですが、「横から目線」は、芋同士がうまくぶつかって連鎖反応を起せるよう、芋同士の関係性やポテンシャルを調整するのです。

部下に接する場合には、上から指示を押しつけて「やらされ感」を与えるのではなく、部下ひとりひとりが最大限の力を発揮する手助けをする、という認識を持ちましょう。意識を変えれば、言葉遣いや表現から高圧的なニュアンスが自然と抜け、部下も心を開いてくれるはずです。

サッカーなでしこジャパン佐々木監督のマネジメント術03

2. 話を遮るのは最悪。最後まで耳を傾けるのが基本です

上司は、部下の意見をつい軽視してしまいがち。部下の意見をないがしろにするのは、「部下は上司におとなしくコントロールされるべきもの」という前提に立っているからでしょう。しかし、部下の意見を軽視することは、マネジメントとして適切とはいえません。

オノ・アカデミック・カレッジの経営管理学部講師、ガイ・イツチャコフ氏によれば、「自分の話を聞いてくれない」と感じたとき、部下は上司に心を閉ざしたり、上司の言葉を受け入れなくなったりするのだそう。イツチャコフ氏らは反対に、「質の高い傾聴」が話し手の感情や態度を前向きに変化させることを研究で証明しました。

実験は、112人の学生を話し手と聞き手に分けて会話させる、という方法で行なわれました。実験の結果、きちんと話を聞くよう指示をしたグループの話し手のほうが、不安感が低くなり、しかも自分の考えを相手に共有したいという思いが強くなるなど、全体的にポジティブな反応が見られたのです。

たとえ意見が食い違う場合でも、「いや、そうじゃなくて」と遮ってはいけません。話を最後まで受け止めたうえで、自分の意見を言うことが大切ですよ。とりあえず最後まで話を聞くことで、部下の心理的負担が減り、あなたの意見も素直に受け入れてもらいやすくなることでしょう。

サッカーなでしこジャパン佐々木監督のマネジメント術04

3.「手を抜くな」ではなく「もっとできるはず」

佐々木監督は、「手を抜くな」と選手に注意したいときは「もっとできるはず」という言い方を用いたのだそう。つまり、「○○するな」と禁止するのではなく、「○○しなければ、もっと良くなる」というふうに、相手の可能性を認めて期待をかける言い方を選んだのです。

人材派遣・教育サービスを提供する株式会社ヒューマンテック代表取締役・濱田秀彦氏は、次のように指摘します。

「諦めるな」「遅れるな」「ミスするな」「勝手に判断するな」のように否定的なセリフを多用すると、部下は「やってはいけないこと」が増えていくように感じ、出口をふさがれるような窮屈な思いをすることになります。

(引用元:プレジデントオンライン|信頼されない上司ほど「なぜ」をくり返す

「○○するな」では、部下は自分が一方的に否定されているように感じ、精神的に追い詰められてしまいます。上司の指示に同意できない場合は、不満に思ったり動いてくれなかったりするかもしれません。

一方、「○○しなければ、もっと良くなる」という言い方なら、部下の自主性を尊重したうえで、自分の思いも伝えることができます。相手を尊重する言い方ができれば、言われるほうも気持ちよく聞き入れることができそうですよね。

***
マネジメントに悩んでいる方は、「部下は上司に服従するもの」という固定観念から一度離れてみましょう。すると、横から目線で部下に優しく寄り添う “佐々木流” マネジメントに、自然と近づいていくのではないでしょうか。

(参考)
SOCCER KING|なでしこジャパン、W杯初戦はスコアレスドロー…猛攻仕掛けるもゴールを奪えず
RBB TODAY|Twitter、なでしこ優勝で秒間7,916ツイートを達成…選手らも喜びをツイート
iRONNA|一体感で本番へ!なでしこ・佐々木監督流マネジメント
フットボールチャンネル|佐々木則夫のマネジメント ~なでしこを統率した5つの経営者的マネジメントセンスを読み解く~
ダイヤモンド・オンライン|なぜ、なでしこジャパンの佐々木監督は、女性をやる気にさせるのか?
組織革新研究会|「横から目線の組織化」のすすめ――リーダーの「足し算」・2
ハーバード・ビジネス・レビュー|上司が部下の話に耳を傾けるだけで、自発的な改善がうながされる
プレジデントオンライン|信頼されない上司ほど「なぜ」をくり返す

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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