「本を読むことがいいのはよくわかっているんです。わかっているけど時間がないんですッ!」というあなたが、今日から本を読み始める方法を紹介します。
“時間がない” は言い訳?
カリフォルニア大学サンディエゴ校が2009年に発表した報告書によると、2008年に米国の世帯が消費した情報(テレビ、ラジオ、Web、テキストメッセージ、ビデオゲームなど)の合計は、3.6ゼタバイトだったそう。ちなみに、1ゼタバイトは1,000,000,000,000,000,000,000バイトです。
そして、平均的な米国人は、1日に34ギガバイトのコンテンツと10万語の情報を消費しているとのこと。ちなみに、1ギガバイトは1,000,000,000バイト。非常に長い小説として知られるトルストイの『戦争と平和』は約46万語なので、膨大な情報が消費されていることがわかりますね。
カリフォルニア大学の調査は2008年だと考えると、スマートフォンが普及した2019年の情報消費量はさらに多そうです。日本の状況とも大差はないでしょう。
これほどにばく大な情報を、私たちは何に使っているのでしょうか。貴重な時間を「ムダな情報のシャワー」に費やした結果、本当に必要な情報をインプットしそこなったり、アウトプットの機会を失ったりしているに違いありません。
脳生理学者・東京大学教授の酒井邦嘉氏は、適度に少ない情報の入力――いわゆる「紙の本」を読むことが、脳を創るためには大切だと話します。ならば、いったん「情報のシャワー」を止めて、「紙の本」を開いてみませんか?
本を読み始める方法とは
ベストセラー作家のニール・パスリチャ氏は、かつて1年にせいぜい5冊程度の本しか読んでいなかったそうです。しかし、現在の読書量は年間100冊を超えるとのこと。読書量を大幅に増やすことに成功したパスリチャ氏が、読書習慣を維持するために行なっている8つのことを、かみ砕いて紹介します。
1.本を「生活の一部」にする
米グーグル社は、ヘルシーなスナックを社内のカウンターに並べる一方、甘いお菓子は不透明な容器に入れて従業員から見えなくしているそう。反対にスーパーやコンビニのレジ横には、小さくて手に取りやすいお菓子がよく置かれていて、つい目がいってしまいますよね。
お菓子の並べ方は、「従業員がヘルシーなスナックを食べるように」、あるいは「レジに並ぶ人がついついお菓子を手に取るように」仕向けられた、経営者や販売者による戦略です。手にとってほしいものはよく見えるように、手にとってほしくないものは見えないようにするのです。
私たちも、「手にとるべきものは見えるところに置く」戦略を利用しましょう。机の横に、リビングのテーブルに、ベッド横に、玄関に――あらゆる場所に本を置き、本を生活の一部にしましょう。
2. 就寝時の読書の照明は「赤色光」
明るい光は意識はっきりとさせ、睡眠を妨げてしまいます。しかし、睡眠学者のマイケル・ブレウス氏いわく、赤色光は睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を促すそうです。
パスリチャ氏は就寝時、隣にいる妻が眠りにつくと、照明を「赤色光」に切り替えて読書を続行するのだそう。就寝時の読書は、気持ちを引き締めるのではなく、落ち着かせる助けになるべきだ、との考えからです。寝室で使う照明を「赤色光」にすれば、ベッドに寝転がって読書に励みつつも、意識が覚醒しすぎずに眠れなくなった、ということはなさそうです。
3. スマートフォンの中毒性を弱める
日本で電車に乗ると、ほとんどの人が下を向いてスマートフォンをいじっていますよね。スマートフォンには強い中毒性があります。皆さんのなかにも、ちょっと時間ができたらすぐにスマートフォンでアプリケーションを立ち上げてしまう人は多いのではないでしょうか。
スマートフォン中毒は、デジタル中毒とも言い換えられます。かつてグーグル社の製品哲学担当だったトリスタン・ハリス氏は、デジタル中毒を世界から根絶するため、グーグル社を去ったそうです。
数々の人が警鐘を鳴らすほど強力な中毒性を持つスマートフォン。読書に時間を使いたいなら、スマートフォンからなんとかして離れる必要があります。パスリチャ氏は、スマートフォンを手に取ってしまう衝動を抑えるため、スマートフォンの「魅力度」を下げるべく、以下の方法を実践しているそうです。参考になるかもしれません。
- メイン画面のアプリケーションをすべて削除する
- 夜間~朝はスマートフォンを寝室に置かない
- スリープモード機能で夜間のメールをブロックする
4. 図書館の分類法を利用する
デューイ十進分類法とは、米国の図書館学者であるメルヴィル・デューイ氏が1873年に創案した図書分類法です。 パスリチャ氏がデューイ十進分類法を自身の本棚に取り入れたところ、本を早く見つけられ、読書の目的がより明確になったと感じたそうです。
デューイ十進分類法に従って蔵書を分類すれば、本と本との関連がわかるようになり、コレクションにおいて抜け落ちている分野を発見することもできます。デューイ十進分類法のおかげで、パスリチャ氏はよりいっそう読書に熱中しているとのことです。
日本では、ISBN(国際標準図書番号)の基本部分に加えて、「販売対象・発行形態・内容」を示す分類コードと本体価格を加えたコード体系を開発し、「日本図書コード(ISBN)」 として使用しています。分類コード(Cコード)はアルファベットのCと数字4ケタで「C0000」のように表記されており、4ケタの数字の下2ケタは内容コードです。
内容コードは、00台(総記)、10台(哲学・宗教・心理学)、20台(歴史・地理)、30台(社会科学)、40台(自然科学)、50台(工学工業)、60台(産業)、70台(芸術・生活)、80台(語学)、90台(文学)と大まかに分けられています。内容コードの項目は00~98まであります。パスリチャ氏の方法を日本で取り入れるとしたら、内容コードで分類するのがおすすめです。
5. 「次の1冊」で困らないようにする
パスリチャ氏は、“次に何を読むべきか” と困らないよう、「次の1冊」について真剣に取り組むポッドキャストやWebサイトを利用しているそう。私たちなら、憧れの人が読んだ本を聞いたり調べたり、身近な愛読家に尋ねてみるのもいいかもしれません。
いずれにせよ、本を読み終わったとき、次の1冊がすぐ決まるか、決まっている状況にしておくことが大切です。次の1冊が決まっていれば、いつでも新しい本に着手する準備が万全ということですから、読書習慣が中断されません。
6. あらゆるニュースのフォローを解除する
パスリチャ氏は本に没頭するため、に5つの雑誌と新聞2紙の定期購読を解約したそうです。おまけに、ソーシャルメディアにおけるニュースのアカウントのフォローを解除し、ニュースサイトのブックマークも全て解除したとのこと。
政治学者のハーバート・サイモン氏は、「情報が消費するのは受け手の注意力。情報が豊かになれば、注意力は貧困になる」と説いたそう。仕入れる情報は多ければ多いほどよい、というわけではないのです。読書に時間を使いたいのなら、最新ニュースを追うのはほどほどにしましょう。
7. 邪魔をしない「紙の本」で読む
パスリチャ氏は、電子書籍で読書をしていると、使用中のデバイスでメールをチェックしたい衝動に駆られるので、本の世界に深く没入しにくいと説明しています。 だからこそ、読書するなら電子書籍よりも現物の本がよいとのこと。
紙に印刷された本には、メールチェックの誘惑がないという以上のメリットがあります。手触り、装丁、ページをめくる音、本の香りなどは、視覚・触覚・嗅覚・聴覚を刺激してくれます。読書中、無意識のうちに空間的な情報も記憶されるのです。脳を刺激し、想像力を養うことにつながりますよ。
8. 地元の書店員に相談する
パスリチャ氏には、「史上最高のお気に入り書店員」がいるのだそう。その書店員は、会話を始めると、そのときのパスリチャ氏にとって最適な本を選んでくれるのだとか。その書店員が選んでくれた本はどれも、「より深いレベル」で、パスリチャ氏の心に響く本ばかりだといいます。
あなたも「お気に入り書店員」を探してみませんか? まずは書店の「スタッフおすすめ本」リストを品定めしてみましょう。興味・関心があなたと一致した店があれば、書店員を捕まえ、勇気を出して個人的な推薦本を尋ねてみてはいかがでしょうか。
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パスリチャ氏は、読書の素晴らしさを伝えるだけでなく、以下の研究結果を示しています。
- 読書によって、共感力と理解力の発達を担う脳部位が活性化する
- 文芸小説を読むことは、共感力と社会生活機能の向上に役立つ
- 読書によって、左脳側頭皮質(言語の受容に関連する脳部位)の神経がつながりやすくなる
ぜひ、有益な読書を楽しめるよう、本記事で紹介した方法にチャレンジしてください!
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|「時間がない」と諦めている本を読み始める8つの方法 年間100冊超の読書を実践するベストセラー作家が明かす
The New York Times|The American Diet: 34 Gigabytes a Day
STUDY HACKER|電子書籍では不十分。「紙の本」でこそ脳と想像力が鍛えられるワケ。
クーリエ・ジャポン|スマホ中毒を阻止せよ! 元グーグル幹部の孤独な闘いがはじまった|前編
バーコード屋さん|書籍JANコードについて「バーコードについて」のまめ知識
TIME&SPACE by KDDI|「ゼタバイト」。一体、何バイト?
Wikipedia|デューイ十進分類法
Wikipedia|日本図書コード
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