“○○しながら” の勉強は脳に最悪。5つの「ながら勉強」アリ or ナシ? 考察してみた

「ながら勉強」アリ?ナシ?01

テレビを観ながら……、音楽を聴きながら……。いろいろな「ながら勉強」がありますが、それらの勉強法は、実際のところ「ナシ!」なのでしょうか。それとも「アリ!」なのでしょうか。

今回の記事では、いますぐやめるべきよくない「ながら勉強」と、実践するべき効果的な「ながら勉強」をそれぞれご紹介します。自分が普段どのような勉強をしているかを振り返りつつ、読んでみてください。

1.「テレビを観ながらの勉強」は……ナシ!

「テレビを観ながらの勉強」はやめたほうがよいでしょう。というのも、脳に大きな負荷がかかるマルチタスクの状態となり、学習効率が悪くなるためです。

マルチタスクとは、複数のタスクを同時に並行して処理すること。脳神経科学者の枝川義邦氏によれば、マルチタスクをすると、ストレスホルモンとされるコルチゾールが増えるのだそう。この状態が続くと脳にダメージが加わり、脳細胞が死滅して脳機能を低下させてしまう場合があります。記憶力も落ちるため注意が必要です。

そもそも、人間の脳は本質的にマルチタスクが苦手。たとえば、3つの作業を同時に進めようとすると、進行中の作業をいったん止めて別の作業へと切り替えるのにエネルギーや時間を使い、次に残り2つのどちらを行なうかを判断するのにも手間を要します。タスクの切り替えが頻繁になるほど、脳の処理効率は悪くなるのです。

テレビを観るときも一緒。勉強しているときには参考書やノートに注目し、テレビを観るときは顔を上げて番組に注目し……ということを繰り返さなくてはならないため、脳は学習内容を効率よく処理できません

精神科医の樺沢紫苑氏は、「テレビを観ながらの勉強」を防ぐ方法として、テレビを観てよい時間を決めたり、リアルタイムでは観ずに録画したりすることをおすすめしています。こうすれば、テレビをダラダラ観すぎてしまうという悪習慣をなくせるだけでなく、勉強にのみしっかり集中できる時間をとれますよ。

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2.「ガムをかみながらの勉強」は……ナシ!

集中して勉強したいのならば、「ガムをかみながらの勉強」もやめましょう。なぜなら、勉強中に「かむ」という行為が発生するせいで、集中力が落ちてしまうからです。

横浜市立大学医学部看護学科講師の佐々木晶世氏を中心とする研究チームは、大学生の被験者にガムをかみながら一桁の数字の足し算をさせ、脳の働きを調べるクレペリン検査を行ないました。その結果、ガムをかまない人のほうが、かみながら取り組んだ人に比べて成績がよかったのだそう。被験者自身もインタビューにおいて、かんでいることに意識が向いてしまい計算に集中しづらかったと述べています。

スピードが求められる計算といった、短時間で一気に集中しなければならないような勉強をする最中には、咀嚼がその邪魔をしないよう、ガムはかまないほうがいいのです。

ただし、絶対的にガムをかむことがよくないわけではありません。生理学研究所によれば、タスクの合間にガムをかむと脳が活発化するとのこと。また、佐々木氏らの研究では、ガムをかむことで身体的・精神的疲労が軽減されたという結果も出ています。したがって、「勉強の前後や休憩時」にはかんでもかまいませんが、勉強に集中したいならば、「勉強中」にはやめておきましょう

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3.「音楽を聴きながらの勉強」は……アリ! (ただしジャンル次第)

適切なジャンルを選ぶならば、「音楽を聴きながらの勉強」はおすすめ集中力を高められます

マギル大学の研究チームが行なった研究によれば、好きな音楽を聴いてワクワクしているとき、身体活動が活発化し脳からドーパミンが分泌されていたのだとか。『脳科学辞典』によると、ドーパミンが分泌されると、思考や創造性を担う部分である前頭前野が活発に働くとのこと。過剰な分泌は脳が興奮状態となり落ち着きを失うことになりますが、適度な分泌量であれば頭がさえて集中しやすくなるのだそうです。

ただし、勉強中に聴く場合、音楽のジャンルには注意しましょう。教育トレーナーのクリス・ボイド・ブルワー氏は、バロック音楽に集中力を高める優れた効果があると述べます。バッハやヘンデルなどによる、1分間の拍数が50~80のバロック音楽は、集中できる雰囲気をつくり出し、脳がアルファ波を出す深い集中状態を導いてくれるとのこと。語彙の勉強や暗記、読書などをするときにバロック音楽を聴いてみると、作業が一気にはかどるそうですよ。

一方、歌詞の内容が頭に入ってくるような音楽を聴きながらの勉強はNG。前述のマルチタスクの状態にもなりかねないため、避けてくださいね。

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4.「特定のにおいを嗅ぎながらの勉強」は……アリ!

「特定のにおいを嗅ぎながらの勉強」もおすすめです記憶力を高められますよ

ふと懐かしいにおいを嗅いだことによって過去の思い出が蘇ってきた経験はないでしょうか。これは「プルースト効果」と呼ばれます。フランス人作家マルセル・プルースト氏の『失われた時を求めて』という作品のなかの、主人公が紅茶にマドレーヌを浸したときの香りで幼少期を思い出すという描写から名づけられました。

においが記憶に強く影響する理由は、脳の仕組みにあります。嗅覚は五感の中で唯一、本能や情動をつかさどる大脳辺縁系という部分に直接つながっているそう。そのため、ほかの感覚機能よりも情動と関連づけしやすく、記憶に強く残りやすいというわけです。

放送作家・演出家の横山龍太氏は、番組中に行なったある実験により、このプルースト効果が勉強にも活用できることを証明しました。ある子どもには香りつき消しゴムを嗅ぎながら漢字を学習させ、その後の記憶力テストも嗅ぎながら受けさせます。そしてもう一方の子どもには、においを嗅がせずに学習と記憶テストを実施しました。その結果、においを嗅ぎながらテストをした子どもは、嗅がなかった子どもより正解率が約10%高かったのです。においの効果が大きく表れていますね。

実験のようににおいつきの消しゴムを使うほか、アロマを焚いたり香水をつけたりするのもよいでしょう。たとえば、手首に香水を少量つけて勉強し、試験前に同じ香水を嗅ぐなどすると記憶を効率よく思い出せるかもしれません。アロマセラピストの芦川佳子氏は、集中力を高めたい勉強時にはローズマリーやペパーミント、ユーカリやレモンの香りがおすすめだと言います。においで記憶を呼び戻すというプルースト効果を、勉強に活用してみてください。

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5.「歩きながらの勉強」は……アリ!

「歩きながらの勉強」も実践してみましょう暗記効率を高められます

京都大学名誉教授の森谷敏夫氏によると、筋肉と脳は深く関係していて、筋肉を動かすことで、BDNFという脳や血中に存在するタンパク質の一種が増えるのだそう。BDNFは、脳の神経細胞を増やしたり記憶力や学習能力を向上させたりする働きがあります。いわゆる、「よい頭」をつくる栄養分のようなもの。座ったままだと筋肉が動かないため脳も働きませんが、歩けば筋肉が動き、脳も活性化して暗記しやすくなるのです。

京都大学出身で教育業に携わる粂原圭太郎氏も、生徒を対象に暗記に関しての実験を行なったところ、歩きながら覚えることで暗記力が高まったと伝えています。

特に、歩きながら音読をすると、より記憶に定着します。世界記憶力選手権で日本人で初めて記憶力グランドマスターの称号を獲得した池田義博氏いわく、口に出すとリズムや韻で覚えられるため、目で見るだけより記憶に残りやすいとのこと。図書館などでは難しくても、自分の部屋ならできますね。ぜひやってみましょう。

***
「ながら勉強」をするなら、非効率なやり方はやめて、成果が出やすい効果的な方法を実践してくださいね。

(参考)
プレジデントオンライン|人間は本質的に"マルチタスク"はできない
マイナビウーマン|仕事に必要な能力? マルチタスクとは。シングルタスクとの違い
樺沢紫苑(2019),『学び効率が最大化するインプット大全』, サンクチュアリ出版.
医療法人社団 平成医会|ドーパミンを増やすことで得られるメリット
佐々木晶世, 佐久間夕美子, 叶谷由佳, 佐藤千史(2009), “ガム咀嚼が作業効率と疲労に与える影響に関する研究”, 日本健康医学会雑誌18巻1号, pp.24-30.
生理学研究所|噛めば噛むほど、脳は活発に — モノを噛むことに効果あり。脳波を使った研究で証明 —
AFPBB News|好きな音楽にワクワクする原因はドーパミン、カナダ研究
脳科学辞典|前頭前野
東洋経済オンライン|バッハを聞くと「勉強&読書」がはかどる理由
日医on-line|においと記憶
キャリア9ペーパー|【新勉強法】 匂いを嗅いで勉強すると記憶力アップ 嗅覚と記憶の深い関係
ダイヤモンド・オンライン|【落ち着きのない子向き】暗記効率がアップし、眠くもならない「アインシュタイン法」
SIXPAD STATION|【vol.10】”筋トレは脳トレ!”筋肉を鍛えてBDNFを活性化
タウンワークマガジン|記憶力日本一、池田義博さんに聞く「五感を使って暗記力を高める方法」

【ライタープロフィール】
YUKA
大学ではフランス語を専攻。高校では一年間オーストラリアへ留学。海外への一人旅も経験し、夢は海外移住。趣味は音楽鑑賞・グルメ巡り・旅行など。

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