「もっとよく考えろ!」。こんな言葉を上司や先輩に言われた経験がある人も多いと思います。たしかに、クリティカル・シンキングとかロジカル・シンキングといった言葉があるように、ビジネスにおいては考えることは重要なこと。でも、「考えすぎ」はどうでしょうか?
『最先端研究で導きだされた 「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)が話題となっている明治大学教授の堀田秀吾(ほった・しゅうご)先生は、「考えすぎ」のデメリットを指摘します。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
考えすぎると、判断を誤り、決断できず、病気になる
結論から言うと、考えることは必要であっても、「考えすぎ」はよくありません。考えすぎることは、次のような3つのデメリットをもたらします。
【「考えすぎ」がもたらす3つのデメリット】
- 判断を誤る
- 決断できない
- 病気になる
「1. 判断を誤る」については、オランダのラドバウド大学の研究がエビデンスとなりえます。その研究は、4台の中古車のなかに1台だけお買い得な中古車があるという状況において、その「当たり」(お買い得な中古車)を選べるかといった内容でした。
片方のグループの人たちには4台の中古車に関するさまざまな情報を比較検討する時間を与え、じっくりと考えてもらいました。一方、別のグループの人たちにはパズルをやらせて考える時間を奪いました。
結果は、後者の考える時間を奪われた人たちのうち約60%が「当たり」の車を選べました。では、前者のじっくり考えたグループはどうだったでしょうか。当然、60%より高い数値を残しそうなものですが、結果は約25%。「当たり」は4台のうちの1台ですから、当てずっぽうの確率となんら変わらなかったのです。
じっくり考えたグループの人たちは、多くの情報を比較検討するうちに頭のなかが混乱してしまい、結果的に判断を誤ることになったと推測されます。
決断できない人は、コインにでも決めさせればいい
次の「2. 決断できない」について解説しましょう。みなさんのまわりにも、心のなかではあることを決めているはずなのに、誰かに話を聞いてもらいたいだけといったふうに悩み続けているような人はいませんか? みなさん自身はどうでしょう? もちろん、それでは決断力不足と言われても仕方ありません。
これは、そもそも人間がもつ「考えるという能力」による弊害です。考える能力があるからこそ、考えずに「えいや」で決めてしまっていいようなことも考え続けてしまうのです。
だったら、コイン投げででも決めてしまえばいいかもしれません。実際、シカゴ大学の行動経済学者が2万人を対象にコイン投げで決断してもらうという研究を行ないました。しかも、この研究でコイン投げによって決めさせたことには、「離婚すべきか」とか「仕事を辞めるべきか」といったけっこう重いことも含まれていました。それでも、研究対象の2万人のうち約60%がコイン投げの結果に従い、かつその多くがその決断に満足していて幸福度が高いことがわかったそうです。一度、決めてしまえば、その決断を後悔しないように行動するから満足度も高くなる。だから、大切となるのは、決断し、行動してしまうことなのです。
最後のデメリットは、「3. 病気になる」です。考えすぎる人たちには、「こうあるべきだ」というふうに理想を追い求める傾向が強いという特徴があります。でも、現実はどうでしょうか? 他人も社会も自分が思ったとおりに動いてくれるはずもありません。その結果、心理学では「認知的不協和」と呼ばれますが、理想と現実のギャップに耐えられずに心が壊れ、うつを発症してしまうのです。
考えすぎないためには、自分のなかに「軸」をもつ
では、考えすぎないことのメリットを考えてみましょう、そのメリットとは、考えすぎることのデメリットの逆で、「正しい判断ができるし、決断できるし、病気になりにくい」となります。
しかしながら、ついつい考えてしまうのが人間というものです。どうすれば、考えすぎないようになれるのでしょう。私は、判断したり決断したりするための「軸」をもつことが大切だと考えます。
先に触れたラドバウド大学の研究でじっくり考えた人たちは、中古車に関するいくつもの情報を比較検討しました。一方の考える時間がなかった人たちは、それらの情報のなかから「これとこれはきちんと見よう」というふうにチェックする情報を絞ったことでしょう。たとえばそれは、「中古車の年式と走行距離だけはきちんと見る」といったこと。それこそが、軸です。チェックする情報は限られているのですから、即断即決できます。そうして、考えすぎないようになれるというわけです。
それこそ、どちらでもいいというようなことなら、シカゴ大学での研究のようにコイン投げで決めてしまってもいいでしょう。時間をかけてどちらでもいいようなことを考えることほど無駄なことはありません。
同じように、初めて入った飲食店でメニューをすみずみまで見てなにを注文すべきか悩むようなことも無駄です。そういうケースでは、「お店のおすすめを注文する」といったふうに決めておくのです。そのような考える時間を減らすルールをつくることも、考えすぎないための軸をもつことなのだと思います。
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【プロフィール】
堀田秀吾(ほった・しゅうご)
1968年6月15日生まれ、熊本県出身。言語学者。明治大学教授。1991年、東洋大学文学部英米文学科卒業。1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了(Ph.D.in Linguistics、言語学博士)。2000年、立命館大学法学部助教授。2005年、ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了。2008年、同博士課程単位取得退学。2008年、明治大学法学部准教授。2010年より現職。企業の顧問や芸能事務所の監修、ワイドショーのレギュラー・コメンテーターなども務める。『絶対忘れない勉強法』(アスコム)、『最先端研究で導きだされた 「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)、『科学的に証明された 心が強くなるストレッチ』(アスコム)、『いじめのことばから子どもの心を守るレッスン』(河出書房新社)、『科学的に自分を変える39の方法』(クロスメディア・パブリッシング)、『このことわざ、科学的に立証されているんです』(主婦と生活社)、『もしも崖っぷちアイドルが心理学を学んだら』(アスコム)、『言葉通りすぎる男 深読みしすぎる女』(大和書房)、『科学的に人間関係をよくする方法』(KADOKAWA)、『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。