勉強が全然進んでいないと感じるとき、もしかしたら、あなたは以下項目のいずれかに陥っているのかもしれません。少しでも思い当たる節があれば、ぜひ該当の項目をのぞいてみてください。詳しい状況と改善策・予防策などを紹介します。
- 1. 勉強以外のことで気が散っている
- 2. アウトプットの罠にハマっている
- 3. 机と椅子が不適切で肩がこっている
- 4. 自分の勉強を把握・コントロールできていない
- 5. 誰もいないから、いまひとつ頑張れない
1. 勉強以外のことで気が散っている
ハーバード大学が2010年に発表した研究によると、
People spend 46.9 percent of their waking hours thinking about something other than what they’re doing, and this mind-wandering typically makes them unhappy.
(人は、起きている時間の 46.9% を、自分がしていること以外のことを考えて過ごしており、この注意力が散漫な状態は、たいていその人を不幸にする)
(引用元:Harvard Gazette|Wandering mind not a happy mind)
のだそうです(引用の日本語文は筆者が補いました)。
上記の “注意力が散漫な状態” とは、いわゆる “心をさまよわせるマインドワンダリング” のこと。ところが一方では、マインドワンダリングが創造的な思考には重要だと考えられているそう(参考:CNN.co.jp|注意散漫? 創造的? さまよう思考が果たす役割)。
たしかにボーっと、とりとめなく考えているときのほうが、いいアイデアを思いつくものですよね。とはいえ、資格試験の勉強でもしようかと問題集を開いたら、
ふと昨日の嫌な出来事を思い出し、さらに数日後のおっくうなプレゼンを思い出して不安になり、あれこれ思いをめぐらせているうちに、「そうだ、明日の予定に〇〇を組み込めば時間を短縮できる」などと思いついて、少し気分がよくなったところで気がついたら、ひとつも問題を解いていなかった……。
なんて状況では、社会人の貴重な勉強時間をムダにしてしまいます。そんなときは、次を実践してみてはいかがでしょう。マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事の荻野淳也氏によれば、
まず、呼吸を意識すること。「今、吸っている」「今、吐いている」ということを意識するのは、「今、ここ」に注意を向ける入口になります。
(引用元:THE21オンライン|呼吸に集中することで「今、ここ」の状態を作り出すマインドフルネスの方法)
とのこと。姿勢を正して座り、鼻呼吸で行なうそうです。気が散った状態から「いま、目の前の勉強」に意識が向くようにしたいときのリセット術と考え、習慣的に取り入れてみてはいかがでしょう。
2. アウトプットの罠にハマっている
精神科医の樺沢紫苑氏は、自身の著書『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)のなかで、
インプットをしたら、その知識をアウトプットする。実際に、知識を「使う」ことで脳は「重要な情報」ととらえ、初めて長期記憶として保存し、現実にいかすことができます。これが脳科学の法則です。
(引用元:樺沢紫苑著(2018),『学びを結果に変えるアウトプット大全』,サンクチュアリ出版.)
と述べ、最適な比率が “インプット3:アウトプット7” であると伝えています(同書より)。ただし、これはあくまでも、読む・聞く・覚えるなどのインプットより、思い出す・書き出す・話すなどのアウトプットに比重を置くべきという、ひとつの目安なのだとか。
同氏いわく、物事にはなんでも質と量が関係してくるので、単純に時間だけでは測れない場合があるとのこと。つまり、たとえば “3時間本を読んだから7時間感想を書く” といった時間の長さだけに限定されるものではなく、インプットより、質の高いアプトプットを行なうことも、それに該当するそうです。
また、数時間かけていたアウトプットを、効率よく1時間に凝縮することも当てはまるのだとか(YouTube/精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル|アウトプット黄金比率「3対7」の罠【精神科医・樺沢紫苑】 参考)。
これはつまり、自分の言葉や思考を絡める濃度や、要約力の高さが、アウトプットの質に影響すると言えるのではないでしょうか。ブレインコーチ(記憶力の改善、脳の最適化、加速学習の分野で知られる世界的エキスパート)のジム・クウィック氏による言葉も、それを裏づけています。
誰かの言葉をそのまま書いたら、その情報を自分のものにできないのだ。
けれども自分の言葉でノートを取れば、情報をそしゃくし出すので、はるかに深く学習できる。
(引用元:東洋経済オンライン|ノートPCでメモを取ると学習効率が下がる理由)
それなら、アウトプットを心がけているわりに効果を感じないときは、次を自問してみるといいかもしれません。
- アウトプットの時間だけにとらわれ、質を無視していないか
- 誰かの言葉を書き出して、アウトプットした気分になっていないか
そこで気づきを得て軌道修正を行なえば、きっと挽回できるはずです。
3. 机と椅子が不適切で肩がこっている
テープ材の総合メーカー・ニチバン株式会社が、デスクワーク中心のビジネスパーソン100名の意識調査を行なったところ、97%の人がデスクワーク中の肩こりに悩んだ経験があると答えたそうです(調査期間2018年12月20日~21日・インターネット調査)。その肩こりによる影響は次のとおり。
- 「ストレスを感じる」81%
- 「集中力の低下を感じる」80%
- 「仕事効率の低下を感じる」77%
- 「仕事の手を止めてしまうことがある」76%
- 「ミスをしてしまうことがある」33%
具体的にはこんな状況なのだそう。
「気持ちが肩にいってしまって集中できない」(51歳・男性)、「机に向かっていられず、何度も腕を回したり肩を押したりして仕事が全く進まないことが多々ある」(32歳・女性)
(カギカッコ内の項目と数値および上記の引用元:PR TIMES|仕事中の肩こりストレスは「動作の重いパソコンでの作業」と同程度!? デスクワーカーの97%が悩む肩こり…仕事効率に影響も)
これは、社会人の勉強においても無視できないデータです。オフィスコム株式会社(オフィス家具通販)が運営する情報サイト「オフィスのギモン」によると、肩こりの原因のひとつは机と椅子の高さにあるとのこと。頭痛を併発する場合も多いそうです。そんな状況では仕事も勉強もはかどりませんよね。
ちなみに同サイトによれば、次を意識(あるいは環境づくり)することが肩こりの予防になるのだそう。
- 肩の力を抜いてリラックスする
- 上腕を垂直に下ろしてもひじを90度ほど開ける
- 背中を預けられる椅子を選び、前傾姿勢にならない
また、自分に合った机と椅子の高さは、次の計算式で求められるとのこと。
- 適切な座面の高さ(センチ)=身長 × 1/4
- 最適な差尺(センチ)=身長 × 1/6
- 適切な机の高さ(センチ)=適切な座面 + 最適な差尺
たとえば身長が170センチの場合、適切な座面の高さ(椅子の座面から~足がついている地面までの長さ)は、170 × 1/4(0.25)=42.5センチとなり、最適な差尺(椅子の座面から~机の上など “手を置く場所” までの長さ)は、170 × 1/6(約0.1666)=約28.3センチとなります。そうなると適切な机の高さは 42.5+28.3 =70.8センチとなるわけです。
(引用元および計算例の参考:オフィスのギモン|自動計算アリ! 机と椅子の高さバランスやPC向け環境の選び方)
勉強がはかどらず肩こりを感じたとき、自分の勉強場所の机と椅子の高さが適切かどうか、一度確かめてみてはいかがでしょう。
4. 自分の勉強を把握・コントロールできていない
仕事をもちながらの勉強はなかなか大変なことです。思うようにいかず、イライラしたり不安になったりして、勉強に集中しづらくなることもあるでしょう。しかし、それは状況の把握で改善できるかもしれません。
働きながら3年で9つの資格に独学合格した、棚田行政書士リーガル法務事務所代表の棚田健大郎氏によれば、勉強の進み具合が把握できていないと、
「自分は今どこの分野が終わっていて、どこが手つかずなのか」が明確にわからないので、ちょっと勉強時間がとれなかっただけで、イライラしたり不安になったり
するそうです。そのため同氏は「大量記憶表」というものを考案し、勉強したところを可視化するようにしたのだとか(下部に実践例の画像あり)。同氏いわく
「すでに勉強できている分野」「まだあまり進んでいない分野」が明確にわかるので、漠然とした不安がなくなるのです。
重要なことは学習の進行状況を「可視化」すること。つまり一目見てわかるようにすることです。色がついていくと自分の「自信」につながります。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|「勉強したところを見える化する」資格試験の不安を消す方法)
とのこと。これはある意味、自分の勉強をコントロールできている状態とも言えるでしょう。
ボンヤリとしか見えないもやのなかでは、自分の歩みをコントロールできず、不安が増幅しますが、視界がハッキリすれば制御可能になるので、不安は一気に吹き飛ぶはず。なおさら自信も湧くなら言うことありません。
棚田氏考案の「大量記憶表」は、STUDY HACKERでも詳しく取り上げ、ライターによる実践の模様も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。ちなみに「この表の特徴は、復習の間隔に重点を置いているという点」とのことです。
(※上画像とカギカッコ内の引用元:STUDY HACKER|方眼ノートで記憶力アップ。計画的に復習できる「大量記憶表」が、たくさん覚えたい人にかなり向いてる。)
5. 誰もいないから、いまひとつ頑張れない
セミナーなどに出向くと集中できるのに、ひとりになった途端に勉強がはかどらなくなってしまう――それは、こんな心理が働いているせいかもしれません。
注目されている、観察されているという事実だけで、対象者の行動に変化が起きることをホーソン効果と呼びます。
(引用元:錯思コレクション100|ホーソン効果)
このホーソン効果は、アメリカ通信機器メーカーの「ホーソン工場」で、1924年に行なわれた実験により見いだされそうです。そもそも実験は、照明・報酬・休憩時間などの変化で、従業員の生産性がどう変化するか調べるというものでした。ところが、予想に反して従業員たちの生産性は、どんな条件でも変わらずに向上したのだとか。
それからのちの調査で、従業員ひとりひとりに「自分たちの工場が選ばれた⇒注目されている・期待されている」という意識が生まれ、努力するような状態になっていたとわかったそうです(「錯思コレクション100」内の説明参考)。
この心理効果をうまく生かしたあるエピソードがあります。男女の機会均等や共同参画を推進する「東京大学男女共同参画室」が、東大生に自宅で勉強に集中するために行なっている工夫について尋ねたところ、
あえて何人かの友人とZoomを繋いで、各自黙々と勉強や作業をすることがあります。「Zoom自習室」ですね(笑)。見られているという意識から、自然と姿勢も正しますし、勉強中に携帯をいじることも減ります。(法学部・4年)
(引用元:東京大学男女共同参画室|自宅での勉強に集中するための工夫はありますか?|『Stay Home, but our Heart is on Campus!』第1回)
と答えている学生(2020年当時)の方がいました。これは、社会人にとってもかなり有益な情報ではないでしょうか。社会人の勉強仲間とつながる機会はそうそう多くないはず。だからこそ仲間を募り、「Zoom自習室」でも実施すれば、想像以上の大きなホーソン効果が生まれるかもしれません。
***
勉強が全然進まないとき、あなたに起こっているかもしれない5つのことを紹介しました。ちょっとした行動の変化で、勉強がうまくはかどり始めるといいですね。ぜひヒントにしてみてください。
(参考)
錯思コレクション100|ホーソン効果
Harvard Gazette|Wandering mind not a happy mind
CNN.co.jp|注意散漫? 創造的? さまよう思考が果たす役割
東洋経済オンライン|ノートPCでメモを取ると学習効率が下がる理由
オフィスのギモン|自動計算アリ! 机と椅子の高さバランスやPC向け環境の選び方
樺沢紫苑著(2018),『学びを結果に変えるアウトプット大全』,サンクチュアリ出版.
ダイヤモンド・オンライン|「勉強したところを見える化する」資格試験の不安を消す方法
THE21オンライン|呼吸に集中することで「今、ここ」の状態を作り出すマインドフルネスの方法
YouTube(精神科医・樺沢紫苑の樺チャンネル)|アウトプット黄金比率「3対7」の罠【精神科医・樺沢紫苑】
STUDY HACKER|方眼ノートで記憶力アップ。計画的に復習できる「大量記憶表」が、たくさん覚えたい人にかなり向いてる。
東京大学男女共同参画室|自宅での勉強に集中するための工夫はありますか?|『Stay Home, but our Heart is on Campus!』第1回
PR TIMES|仕事中の肩こりストレスは「動作の重いパソコンでの作業」と同程度!? デスクワーカーの97%が悩む肩こり…仕事効率に影響も
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。