「自分はいつも運が悪い。運が良くなる方法ってないの?」科学的に考えてみました

運を良くする方法01

傘を持たずに外に出かけると、いつも雨が降ってくる。
レビューを信じて星が多いレストランに行ったのに、どこか満足できなかった。
コツコツやっていた投資の負けを取り戻そうとして、大失敗した。

「なんて自分は運が悪いんだろう……」

このように日常の一幕を思い出すだけでも、どこか「運が良い人」と「運が悪い人」がいるような気がしませんか? 今回は、あなたの運がいつも悪い理由を科学的に考えていきましょう。

そのキーワードは「行動経済学」です。

「運」は科学で説明できる?

インターネット辞典の『コトバンク』によると、「運」とは、その人の意思や努力ではどうしようもない巡り合わせのこと。コインを投げて、表が出る確率は1/2です。誰が投げても、その人がいくら頑張っても、その確率は変わりません。

ですが、「運が良いか、悪いか」は、変わり得ます。というのも、それは人が評価することだから。同じことが起きても、人によって、受け取る印象は異なります。

たとえば、オフィスで誰かひとり掃除当番を決めるくじ引きをしたとき、掃除当番のくじを引き当てた人は、はたして運が悪い人だと言い切れるでしょうか? 「掃除は嫌だ」と考える人にとっては、それは外れくじ(=運が悪い)かもしれません。ですが、「掃除している最中は仕事の電話を取らなくて済むからラッキーだ」と考える人にしてみれば、「運が良いから当たったんだ」と言えるでしょう。

このように、「運が良いか、悪いか」は物の見方、考え方により変わるわけですが、行動経済学でも同様に考えます。行動経済学とは、心理学と経済学をつなぐ融合的な学問。人の経済活動を分析する際に、数学的な考えだけでなく心理学的に観測された事実も取り入れる学問のことです。

行動経済学に基づけば、失敗を経験したとき、次どう行動すれば同じ失敗を起こさないかを考えることができる人は「運が良い」人です。対して、昔の失敗を思い出して「またやっちゃったよ」と落ち込みがちな人は「運が悪い」人。後者のような「運が悪い」人には、考え方にちょっとしたクセがあると言えるのです。そのクセとはどのようなものなのか、行動経済学の観点から詳しく解説していきたいと思います。

運を良くする方法02

あなたの運がいつも悪い理由1:「ほらね、やっぱり」と言う癖があるから

傘を持たずに出かけて雨に降られたとき、「自分は雨男・雨女だから」と言っていませんか? 野球を見ていて「ほら、打たれると思ったよ」とよく言ってはいませんか? そんな人は、「後知恵バイアス」が強いのかもしれません。

後知恵バイアスとは、自分やほかの人の行動を振り返ったときに、自分がそうなることをあたかも知っていたかのように振舞う心理的傾向のこと。カーネギーメロン大学教授のバルーク・フィッシュホフ氏が指摘した現象です。

同氏の解説によれば、人は自分に起きた嫌な出来事を「事前に知っていた」と片付けることで、自分にストレスがかからないようにしているのだそう。こうした行動は、同時に、経験や失敗から学ぶことを妨げます。そのため、あなたはまた傘を持たずに雨男になるのです。

口癖でつい「わかってた」と言ってしまう人は、この後知恵バイアスを取り払う必要があります。そのためにすべきなのは、多少面倒でも事前に対策をとること。

たとえば、あなたが雨男を自認しているのであれば、折り畳み傘を持ち歩きましょう。自分が担当している仕事の中でつい忘れがちなタスクがあるなら、チェックリストを作って作業の漏れを防ぎましょう。

特に仕事では、失敗してから「やっぱり、またやってしまった」とか「癖だからしょうがない」などと言い訳することは、状況の改善にはなんの役にも立ちません。失敗のストレスを解消するためにいちいち後知恵バイアスのせいにしていては、失敗から学ぶことができず、同じ間違いを何度も引き起こしてしまうのです。

事前に対策を講じておけば、失敗によるストレスがかかる機会が減り、自分は「運が悪い」と嘆く必要はなくなります。むしろ、事前の対策のおかげで急な問題に対応できれば、「運が良い」と感じるかもしれませんよ。

運を良くする方法03

あなたの運がいつも悪い理由2:誰かの後をついていくから

「レビューで高評価だから商品を買ったのに、期待を裏切られた」「行列になっているから自分も並んでみたけれど、思っていたほど良くはなかった」ということがよくある人は、ほかの人の行動に同調することを重視しすぎているかもしれません。

このように、ほかの人の行動を真似して安心感を得ようとすることハーディング現象と呼びます。これは古くからある概念で、動物がもつ社会的性質を説明したもの。イギリスの外科医で社会心理学者のウィルフレッド・トロッター氏(1872~1939)が、書籍『Instincts of the Herd in Peace and War(平和と戦争における群れの諸本能)』の中で使ったのが始まりです。

たとえば、2019年はタピオカが社会現象になりましたね。行列のできるタピオカドリンク店につい並んでみたり、みんなと同じ商品を買ったりと、周囲と同じ行動をした人がじつに多くいました。これがまさしくハーディング現象です。

私たちはハーディング現象を適切に利用することで、知らなかったブームに参加できたり、レビューを頼りにすばやく商品購入の意思決定ができたりします。ですが、ハーディング現象が持っているのは、こうしたプラスの面ばかりではありません。マイナスの面があるせいで、私たちは「運が悪い」と感じてしまうのです。

先述の「レビューを信用したのに期待外れだった」というのはその一例です。周囲の行動をまねるという性質は動物にも備わっているほど非論理的なものなので、悪用することも容易。そのレビューはサクラによって書かれた、操作されたものだったのかもしれません。

運を良くする方法04

仕事の例であれば、次のようなケースもハーディング現象による負の影響を受けていると言えます。もっと効率的なやり方を思いついているのに、ほかのメンバーたちに教えられた非効率なやり方をしているために、「運悪く」業務時間が長くなっている。教わったやり方を変えると自分に対するイメージが悪くなるかもしれないから、しぶしぶ非効率なやり方をしている……。ほかの人に同調したからといって良い結果が生まれない場合もあるのです。

こうして見ると、悪いことのように感じるハーディング現象ですが、その長短をしっかり理解してうまく使えば、あなたの運を大きく引き上げる可能性があります。

組織開発コンサルティングを手がける株式会社インヴィニオ取締役の高井正美氏は、アマゾン、ヤフー、楽天などの圧倒的な成功は、スピード感あるベンチャースピリットによりハーディング現象を打ち破ることで得られたものだったと言います。これらの企業は誰よりも先に、誰よりも早く先駆的な取り組みをすることで、eコマース戦争を勝ち抜いてきたのです。そうして今や、多くの企業がこれらの企業を追随しています。

これにならい、あなたもビジネスパーソンとして成功するために、ほかの誰よりも早く行動することを心がけてはいかがでしょうか。先ほど挙げた業務の効率化の例であれば、自分が思いついた効率的なやり方を率先して実践し、皆に広めればいいのです。皆に同調することで「運が悪い」と感じるのなら、ハーディング現象をあえて打ち破れば運は上向くはず。率先して行動することは怖いかもしれませんが、その行動が良い成果につながれば、運だけでなくあなたへの評価も上がっていくはずです。

運を良くする方法05

あなたの運がいつも悪い理由3:損をしたくないから

「投資で損をしたとき、その損失を取り返そうとさらに大きな投資をしたけれど、再び損失を被ってしまった」といった経験が多い人は、損を取り返したいからといってやけくそになりがちなのかもしれません。

行動経済学にプロスペクト理論という理論があります。それは、人は利得よりも損失のほうにずっと敏感であるというもの。さらに、負けたときにより大きくリスクをとる傾向のことは反射効果といいます。これらはどちらも、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンによって生み出されたもの。行動経済学では、投資で負けたときに「運が悪い」と思ってしまうのはこれらの理論によると考えます。

プロスペクト理論と反射効果について、2つの設定を用いながら説明します。下記の場合、あなたはそれぞれどちらの選択肢を選ぶでしょうか?

(設定1)
選択肢1:80%の確率で100万円を得られるが、20%の確率で利益はゼロ
選択肢2:確実に80万円を得られる 

(設定2)
選択肢1:80%の確率で100万円を失うが、20%の確率で損失ゼロ 
選択肢2:確実に80万円を失う

どちらの設定でも、選択肢1と2の期待値は同じなので、どちらの選択肢を選んでもいいように思えますが、そうはならないでしょう。おそらく、大半の人が設定1では選択肢2を選び、設定2では選択肢1を選ぶはずです。

運を良くする方法06

反射効果によると、人は利益を得るときはリスクを抑えようとする傾向があり、損失を回避しようとするときは積極的にリスクを取ろうとする傾向があるのだそう。設定1で選択肢2を選ぶ理由は、「目の前の利益が手に入らない」というリスクを抑えたいから。設定2で選択肢1を選ぶ理由は、「損をしないで済む」ほうに少しでもかけたいからなのです。こうした直感に従っていると、利益は小さく積み重ねることしかできませんし、損失はいきなり膨れ上がってしまいます

「損をしたくない」と思ってばかりいては、運は悪くなる一方です。ならば、あなたの運を上向かせるために、仕事でプロスペクト理論を利用してみてはいかがでしょうか

NetflixやSpotifyなどのサービスには、「開始時のみ無料」というセールス文句がありますね。これは、一度サービスを使ったあとだと、そのサービスを取り上げられる苦しみ(損)を大きく感じるというプロスペクト理論の効果を利用したもの。私たちはこのような損得計算を頭の中で無意識にやっていて、これを「メンタル・アカウンティング」と呼びます。

こうしたことを仕事の中にも応用してみましょう。たとえば、取引先に新商品を勧めるとき、最初の1回は無料で提供してください。そして、相手に商品の良さを理解させ、「これを手放すのは惜しい」と思わせるのです。そうすれば、相手は商品の正式購入を真剣に検討するはずです。「損に敏感」という人の特徴をうまく利用して、あなたの運を良くしていきましょう。

運を良くする方法07

「誰かのためにお金を使う」ことが、運を上向かせる可能性

あなたの運を良くする方法をもうひとつ考えてみましょう。行動経済学には、社会に楽観的な雰囲気が広がると、景気が良くなるという理論があります。それと同じように、あなたの気分を良くできるなら、運も良くなるかもしれません。

ハーバードビジネススクール教授で心理学者のマイケル・ノートン氏が行なった実験によると、誰かのためにお金を使うと幸福感が増すことがわかったのだそう。また、世界中のほぼすべての国において、慈善活動に寄付をしている人のほうが、していない人に比べて幸福度が高いというデータもあるのだとか。

ですから、あなたも少額でもいいから誰かのためにお金を使ってみてはどうでしょう。ノートン氏の実験でも、他人のために使った金額の多寡は関係なかったとのことです。肝心なのは、自分のためではなく誰かのためにお金を使うこと。そうすることで、より幸せを感じられるようになります。

幸せになって物事をポジティブに考えることができるようになれば、何か悪いことが起きたときも、いつもより気楽な気持ちでいられるでしょう。雨に降られたって、信じていたレビューに裏切られたって、さほど「運が悪い」とは思わなくなるかもしれません。きっと、物事を良いほうに解釈できるようになるのではないでしょうか。

***
最後に、後知恵バイアスをポジティブに使う方法をご紹介します。自分のことを「私は晴れ男・晴れ女だ」と言いましょう。一般社団法人全日本晴れ男・晴れ女協会によれば、日本で一番雨が多い富山県でも、年間174日しか雨が降りません。ですから、雨が降らない日に「やっぱり、自分が晴れ男・晴れ女だから雨が降らないんだ」と考えてみてください。このようにしてポジティブに後知恵バイアスを使えれば、「運が良い」と思えるようになりますよ。

(参考)
ミシェル・バデリー著, 土方奈美訳(2018),『〔エッセンシャル版〕行動経済学』, 早川書房.
マックス・H. ベイザーマン著, ドン・A. ムーア著, 長瀬勝彦訳(2011),『行動意思決定論―バイアスの罠』, 白桃書房.
コトバンク|
Wikipedia|Hindsight bias
ResearchGate|Hindsight is not equal to foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty
Wikipedia|Wilfred Trotter
ダイヤモンド・オンライン|タピオカのブーム終焉は本当か?消費者行動から見える「真の賞味期限」
リーダーシップインサイト|ファーストペンギンの経済学
Wikipedia|プロスペクト理論
日本経済新聞|行動経済学と無料の威力
Taylor & Francis Online|Social Mood and Financial Economics
TED|Michael Norton: マイケル・ノートン: 幸せを買う方法
一般社団法人全日本晴れ男・晴れ女協会|日本の年間平均降水日数とは【明日から晴れ男?】

【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。

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