部下の教育には心を砕いているつもりなのに、いつまでたっても部下が成長しない。
リーダーとして一生懸命指示を出しているけど、部下は本当に自分を頼ってくれているだろうか。
あなたがこのように悩んでしまうのは、リーダーにとって大切な “あること” に、あなた自身が気づけていないせいかもしれません。
今回は、“なぜか部下がついてこない” あまりにも残念なリーダーの特徴を3つ挙げ、理想のリーダーに近づくための方法を紹介していきます。
1. 残念なリーダーは「質問」の大切さに気づいていない
「自発的に動かず指示待ちばかりする部下」にお困りのあなた。もしかしたら、普段から部下にこと細かく指示をしすぎなのではないでしょうか。
エグゼクティブコーチの桜井一紀氏によると、部下を育てるには、細かく指示を出すのではなく、部下自身に考えさせることが重要。やり方や解決策といった「答え」を教えることを優先するリーダーと、部下と一緒に考えることを優先するリーダーを比較すると、後者のリーダーのもとで働く部下のほうが提案やビジョンの構築を積極的にする傾向にあるそう。つまり、部下自身に考えさせるリーダーのもとでは、デキる部下が育つということです。
細かく指示を出せば、短期的には仕事のスピードは上がるでしょう。しかし、部下から自分で考える機会を奪ってしまうため、長期的に見ると部下の成長を阻むことになるのです。
桜井氏によれば、部下自身に考えさせるポイントは「どうしたらいいと思う?」と質問を投げ返して答えを待つこと。次のような具合です。
部下「新商品のターゲットの設定方法、どうしたらいいでしょうか?」
リーダー「そうですね、どうしたらいいと思いますか?」
とはいえ、部下自身はどうすればいいかわからないからリーダーに相談をしているわけです。「どうしたらいいと思いますか?」と尋ねたら部下をいっそう困らせる可能性もありますよね。『自分の頭で考えて動く部下』の著者である篠原信氏も、指示待ちの姿勢がある人ほど「どうしたらいいですか?」という反問には戸惑うと言います。
そこで、もしも部下から答えが返ってこないときは、以下のように言葉を継いでみましょう。
リーダー「私もわからないんですよ。でも、なにか考えるきっかけが欲しくて。○○さん、なにか気づいたことあります?」
このように「なんでもいいから口にしてくれたらありがたい」と意見を求めると、部下は意見を出しやすくなる、と篠原氏。さらに、意見を聞いたことがプラスになったことをきちんと伝えるようにします。
部下「『20〜30代の男性』だけでなく、学生、社会人、既婚未婚なども考えたほうがいいかなと思っています」
リーダー「なるほど! いまの意見を聞いて気づいたのですが、商品のスペック以外にも目を向けるとよさそうですね」
部下とのやり取りのなかでは、細かな指示を出そうと躍起にならず「質問」を重ねていきましょう。部下の積極性を引き出すことができるはずです。
2. 残念なリーダーは「位置」の大切さに気づいていない
「部下から嫌われるのが怖くて、きっぱりと指示ができない」あなた。高圧的な態度や理不尽な押しつけは論外ですが、部下の反応を気にしすぎて仕事が滞るようでは、いつまでも “残念なリーダー” のままですよ。
経営・組織コンサルティングを手がける株式会社識学の代表取締役・安藤広大氏によれば、リーダーは「位置」を明確に押さえるべきなのだそう。安藤氏の言う位置とは、上司・部下といった会社のルールにおける上下関係のこと。位置を正しく押さえていないと、意思決定のスピードが落ち、仕事が回らなくなると言います。
たとえば部下に仕事を任せるとき、以下のように伝えるのは「位置を間違えたコミュニケーション」の典型例。
- 「時間があるときでかまわないので、資料をまとめておいてくれない?」
- 「やりたくなかったら断ってくれていいんだけど、この仕事できるかな?」
(引用元:安藤広大(2020),『リーダーの仮面』, ダイヤモンド社.)
本来、指示に対しての実行責任は部下が、結果責任は上司がもつもの。ですが、部下に「指示」ではなく「お願い」をすると、お願いされた部下のほうが上の立場になり、本来の位置(=上司と部下の立場)が逆転してしまいます。それゆえ、責任の所在が曖昧になり、仕事が滞るのです。
ですから、位置が不適切にならないために、以下のように「言い切り口調」で指示を出しましょう。
- 「来週火曜の15時までに資料をまとめておいてください」
- 「この仕事はAさんに任せます。契約に結びつけてください」
(引用元:同上)
このように言えば、実行責任は部下、結果責任は上司、ということがはっきりします。
安藤氏いわく、ポイントは「感情を脇に置く」こと。上司と部下はルールで決められた上下関係であり、強い人や詳しい人が上に立つ関係ではない。だからこそ、淡々と指示をすることが大切なのだそうですよ。
3. 残念なリーダーは「2.5人称の視点」の大切さに気づいてない
「部下の悩みを、うまく解決に導いてあげられない」というあなたは、親身になりすぎているか、逆に客観的になりすぎている可能性があります。ぜひ「2.5人称の視点」で部下の話を聞くよう、心がけてみてください。
「2.5人称の視点」とはもともと、ノンフィクション作家の柳田邦男氏が説いた言葉。「感情移入しすぎず、第三者目線にもなりすぎない」という、相手との距離感を示します。当初は医療現場における医者と患者の関係性を説明する言葉でしたが、帝京平成大学教授で経営学などを専門とする渡部卓氏は、職場で部下の相談に乗るときも2.5人称の視点が大切だと言います。
上司、部下という関係性でそれぞれの人称を定義づけると、以下のようになります。
- 1人称の視点=部下の視点
- 2人称の視点=部下の家族の視点
- 2.5人称の視点=上司+部下の家族の視点
- 3人称の視点=上司の視点
たとえば、部下から「仕事にやりがいを感じず、行き詰まっている」という相談を受けた場合、上司としての考え方は人称別に以下のように整理できます。
- 1人称の視点:部下の視点
「もし自分だったらどうするだろう? つらくて会社を辞めたくなるかもしれない」 - 2人称の視点:部下の家族の視点
「自分の子供がこんなふうに悩んでいたらと思うといたたまれない。どうにかしてあげたい」 - 2.5人称の視点:部下の家族+上司の視点
「仕事にやりがいを感じず行き詰まっているのか。それはつらいだろうな。自分はどうサポートしたらいいか考えてみよう。本人にも聞いてみよう」 - 3人称の視点:上司の視点
「彼くらいの歳のビジネスマンは仕事への不安を抱きやすいものだ。上司としてアドバイスしよう」
一見、1人称や2人称の視点をもてば、親身に話を聞いてあげられそうです。しかし渡部氏いわく、相手を自分に近しい問題として考えると、感情的になったり、冷静に判断できなくなったりする危険性があるとのこと。また3人称の視点では、部下の悩みを他人事としてとらえがちになり、寄り添うことができません。
そこで大切になるのが、「事実を客観的にとらえたうえで共感する」という2.5人称の視点です。上の例では、「仕事に行き詰まっている」という事実を客観的にとらえてから「つらいだろう」と共感。そのうえで、上司として解決策を考えつつも、本人が自分で考えるようにも促していますね。
渡部氏によると、「仕事が苦しい」「転職したい」などデリケートな問題に対峙するときほど、2.5人称の視点は有効だとのこと。感情が入りすぎて過干渉や過保護にならないのと同時に、突き放すこともしない。この絶妙な距離感で部下の悩みに向き合うと、よいアドバイスができるそう。部下からの信頼もきっと厚くなることでしょう。
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今回紹介した方法は一度にすべて実践できるものではないとは思いますが、部下のマネジメントに悩んでいるみなさんは、ぜひひとつでも参考にしてみてください!
(参考)
東洋経済オンライン|「指示待ち人間」はなぜ生まれてしまうのか
PRESIDENT Online|いい上司ほど「指示待ち」の部下をつくる
安藤広大(2020),『リーダーの仮面』, ダイヤモンド社.
柳田邦男(2005),『言葉の力、生きる力』, 新潮社.
渡部卓(2020),『あなたの職場の繊細くんと残念な上司』, 青春出版社.
【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。