思考や感情の言語化は、非常に有益な作業だと言われます。たった5分間、日記を書くだけでもいいそうですよ。書くタイミングは朝、夜、あるいは朝と夜など、目的によってさまざま。筆者も有識者らが推奨する日記のひとつにチャレンジしてみました。
言語化はスキル習得に役立つ
東京国際大学准教授の川崎翼氏らが2019年に『brain sciences』で発表した内容によると、「自分のからだの動き」の言語化は、運動スキルの習得に役立つそうです。
研究では36名の参加者が運動課題を与えられ、「課題をうまくこなすコツを説明(言語化)するグループ」と、「雑誌を音読するグループ」に分けられました。その結果、前者の言語化グループのほうが練習効果を保持できていたとのこと。
以前の研究では、運動のイメージトレーニングによる脳活動と、実際に運動しているときの脳活動の類似性が示されており、川崎氏らは、言語化にもイメージトレーニングと似た作用があると考えているそうです。
イメージトレーニングはビジネスシーンにおいても効果が期待できるのだとか(田中ウルヴェ京氏のビジネスコラムより)。ならばビジネススキル習得時にも、言語化が大いに役立つはずです。
書き出せば肯定的になる
そして、言語化をより明瞭にするのが書き出す作業です。内容により肯定的な意識を高める効果もあるのだそう。
2005年の学術誌『Advances in Psychiatric Treatment』に掲載されたニュー・サウス・ウェールズ大学(UNSW)の論文には、自分の感情や思ったことを書き出すエクスプレッシブ・ライティングが、長期的に気分や健康状態を改善し、行動の変化にも影響することなどが示されています(2018年にケンブリッジ大学出版局がオンラインで公開)。
また、2002年の『Annals of Behavioral Medicine』に掲載されたアイオワ大学の研究では、自身のストレス体験に対する「考え方」や「感情」に焦点を当て、ジャーナリング(思いつくまま書き出すこと)を行なうと、肯定的な側面への意識を高めるとわかったそうです。この結果は、出来事への認知処理(解釈や判断)が盛んに行なわれたことを示しているとのこと。
過度なストレスは脳を萎縮させると言います(東邦大学「ストレスと脳」より)。だからこそ有識者の多くは、思考や感情を書き出しやすい「日記」をすすめているのです。
有識者がすすめる日記とは
ここで、4人の有識者と4つの日記法を紹介しましょう。
◆【目標達成】ティム・フェリス氏
投資家のティム・フェリス氏が推奨する朝と夜の「5分日記」は、目標達成に役立つ活動のひとつなのだとか。内容は以下のとおりです。
<朝に書く5分日記>
- いま感謝していること3つ
- 今日を素晴らしくしてくれそうな3つ
- 今日絶対にやりとげること
<夜に書く5分日記>
- 今日あった素晴らしいこと3つ
- 今日をよくするために自分ができたであろうこと
◆【幸福感を高める】古川武士氏
習慣化コンサルタントの古川武士氏がすすめるのは、「放電&充電日記」です。幸福感を高める習慣のひとつなのだそう。
放電では「テンションが下がったこと」、充電では「テンションが上がったこと」を書き、それぞれに抱いた感情も書き添えるとのこと。前者はストレスへの対処に最適で、後者は自己効力感を高める効果が期待できると言います。
前日を丸ごと振り返れるよう、朝に放電⇒充電の順番で書くのがおすすめとのこと。
◆【よい側面を見る】樺沢紫苑氏
精神科医の樺沢紫苑氏は、就寝前に “今日のよかった出来事” を1行ずつ、計3つ書く「3行ポジティブ日記」をすすめています。「物事の悪い側面ばかりを見るクセ」を直し、よい側面を見られるようにするのだとか。
慣れてきたら “よかった出来事” を4つ5つと増やし、文字数も増やしていくといいとのこと。加えて周囲に感謝する内容もプラスすると、多くの人に支えられ生きている実感が湧くそうです。
◆【自律神経を整える】小林弘幸氏の日記
順天堂大学医学部教授の小林弘幸氏がすすめる日記も就寝前に書く「3行日記」ですが、こちらの日記は乱れた自律神経を整えてくれるのだとか。内容と書く順番は以下のとおりです。
- よくなかったこと
- よかったこと
- 明日の目標
この日記をしっかりと作用させるため、就寝前、日付と曜日を記載し、簡潔に、丁寧に、手書きで、ひとりのときに書くといいそうです。
朝と夜の5分日記をやってみた
有識者らがすすめる日記は効果も内容もさまざま。自身の目的に合い、無理なく始められそうな日記を選んでみてはいかがでしょう。
なかなか目標を達成できない筆者は、ティム・フェリス氏が推奨する日記を選んでみました。まずは朝の5分日記から書いていきます(メモ帳サイズのノート使用/105×148)。
そして1日の終わりには、夜の5分日記を書いていきます。
なんだか表現が抽象的になってしまい、いずれも5分では書き終わりませんでした。しかし、たった1日でも感じた大きな利点があります。
それは、簡潔な日記ほど要約のため全体像が必要となり、外から自分の頭のなかをくまなく “のぞく” ので、客観性が手に入りやすくなるということです。
また、“感謝” や “素晴らしいこと” を先に挙げるのは、すべてが朝に決意し(=今日絶対にやりとげること)、夜に改善点を挙げる(=今日をよくするために自分ができたであろうこと)ために、つくられた流れのように感じられました。
決意せよ、改善点を挙げよとだけ言われるより、ずっとスムーズです。この策には進んでハマるべきかもしれません。
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書き出す効果と日記各種、筆者が実践して気づいたことを紹介しました。最適な日記が見つかるといいですね。
(参考)
自身の動きを言葉にすることの学習効果(Kawasaki et al. 2019)
Cambridge Core|Advances in Psychiatric Treatment|Emotional and physical health benefits of expressive writing
SpringerLink|Journaling about stressful events: Effects of cognitive processing and emotional expression
NCBI|PMC|Efficacy of Verbally Describing One’s Own Body Movement in Motor Skill Acquisition
STUDY HACKER|1日のうちたった1%の時間でできる。本当に幸福感が高まるノート習慣
STUDY HACKER|自律神経が整う「3行日記」が最高。夜寝る前の “たった5分” で頭もスッキリ!
日立ソリューションズ|第5回 なりたい自分になるためのイメージトレーニング術
エキサイトニュース|成功者がすすめる朝夜の日記フォーマット (2015年5月8日)
YouTube|ポジティブ日記を書いても効果がありません【精神科医・樺沢紫苑】
東邦大学|ストレスと脳
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STUDY HACKER 編集部
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