頭が良くなる音楽はモーツァルトではなく「ヘヴィメタル」だった!? 脳科学からいえるこれだけの理由

中野信子「ヘヴィメタルは頭が良くなる音楽」インタビュー01

「クラシックを聴くと頭が良くなる」。そんな意見を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。しかし、脳科学者の中野信子さんは、一般的にマイナスのイメージを持たれる「ヘヴィメタル」(以下、メタル)を聴くほうが、むしろ頭は良くなる可能性があると大胆な推察をしています

そこで今回は、長年にわたるメタルファンで、2019年1月にメタルが脳に及ぼすポジティブな影響を考察した『メタル脳 天才は残酷な音楽を好む』(KADOKAWA)を上梓した同氏に、メタルを聴くと本当に「頭が良くなるのか」を聞いてきました。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 写真/櫻井健司

「モーツァルトを聴くと頭が良くなる」って本当?

「クラシックは良い音楽だ」「心にも頭にも良い影響がある」。そんな「クラシック信仰」とでもいうべき見方が、世の中には根強く存在します。たとえば、モーツァルトを聴くと頭が良くなるという、いわゆる「モーツァルト効果」を頭から信じ込んでいる人もいまだに多いようです

わたしは、こうしたことをかなり問題がある行動だと感じています。もちろん、クラシックが良くないといっているのではありません。クラシックを聴くと具体的にどんな効果が見込めるのか、身体のどのような機能に対して良いのかを理解して人にすすめるならいいと思います。でも、「なんとなく頭に良さそうだから」と思ってステレオタイプな見方で聴いたり、人に押しつけたりするのは、疑問を抱かざるを得ないのです

「モーツァルト効果」は、1993年に『Nature』に掲載された「モーツァルトを聴かせたら大学生の認知力テストの成績が上がった」とする研究報告によるもので、発表されるとまたたく間に全世界に広まりました。しかし、その6年後、心理学の専門誌『Psychological Science』に掲載された論文で、3人の研究者がその研究結果に再現性がないとして否定したのです(※1)。その論文により、「モーツァルト効果」が、「アーティファクト(人工的に出てきた結果)」であることがあきらかになりました。

中野信子「ヘヴィメタルは頭が良くなる音楽」インタビュー02

「モーツァルト効果」 は数々の研究で否定されている

「アーティファクト」といっても、けっして悪意のある捏造などではなく、研究者がまちがって発見してしまっただけです。おそらく最初の研究者は、「モーツァルトを聴くと頭が良くなるはずだ」と思い込んで研究したのでしょう。そして、一般的な科学の実験でも起こることなのですが、真実の効果ではなく「研究者が見たいと思う効果」が見えてしまったにちがいありません

たとえば、19世紀末~20世紀初頭に、人が出題する簡単な計算問題を、ひづめで地面を叩いて回答する「賢馬ハンス」という馬が評判になりました。このとき、飼い主たちは本当に馬が計算できると思いこんでいたのですが、実際のハンスは飼い主の体の微妙な動きを察知し、「このときに叩けばいい」と学習しているだけだったのです。

これと同じように、たとえばなんらかの研究をする際に「男女には差があるはずだ」と思っていると、男女差があるデータを拾ってしまうことになる。つまるところ、「モーツァルト効果がある」と仮定して実験していると、それが見えてしまう現象が起きることがあるのです。

前述の反証論文の後、ハーバード大学のクリストファー・チャベス氏をはじめ、そのほかの研究者たちもモーツァルト効果を否定する論文を発表しており(※2)、現在では「モーツァルト効果」など存在しないことは参照すればすぐにわかることです。でも、古い研究しかご存じない方やあまり論文を読まない先生、また「モーツァルト効果」を謳ったビジネスを展開されている先生たちは、現在でもそうした主張を繰り返している可能性があります。残念ながら、否定的な論文は「みんなが見たい結果」ではないので、広まりづらい面があるのです。

中野信子「ヘヴィメタルは頭が良くなる音楽」インタビュー03

成績優秀者に限ると、「メタルを聴くほうが頭が良くなる」可能性が高い

じつは、わたしはいまだ音楽産業や教育産業のPR・マーケティングとして使われ続けている「モーツァルト効果」よりも、むしろ「メタル効果を期待したほうが良いのでは?」と考えています。これはあくまでわたしの推論ですが、語学や資格取得のための勉強をするとき、成績優秀者に限っていうと、メタルを聴いている人のほうがより「頭が良くなる」と考えられるからです。

というのも、成績が良い人というのは不安傾向が高いことが多く、心のバランスを取る役割を持つホルモンであるセロトニンがあまり出なかったり、うまく使いこなせなかったりする脳の持ち主だといえるからです。要は、ちょっとした出来事でも「もっと悪いことが起こるのではないか?」と不安に感じてしまうような人たちです。

そんな人は、勉強においても「ここが悪かった」「だから次は良くしよう」というように、自分に対してネガティブなフィードバックをする傾向にあります。まさに、それゆえに成績が良くなる面があるのですが、この高すぎる不安傾向をメタルという音楽がうまく埋めてくれることで実力を発揮しやすくなり、パフォーマンスが向上したという報告もあります

ちなみに、不安傾向の高さと成績の良さ(頭の良さ)の関連性も、推論の域を出ないものではあります。ただ、資格試験をはじめとするペーパーテストについていえば、90点で満足する人と90点しか取れなかったと悲観する人では、どちらのほうがより成績は伸びるかという単純な比較はできそうです。楽観的な考えの持ち主に比べると、「なぜまちがったのだろう」「次は失敗してはいけない」と思って復習する人のほうが、モチベーションとしても成績は上がりやすいと推測できるでしょう。

中野信子「ヘヴィメタルは頭が良くなる音楽」インタビュー04

メタルは、ストレスやプレッシャーから人間を守るのに役に立つ音楽

メタルに関するちょっとユニークな調査結果もあります。イギリスのウォーリック大学の研究チームが成績の優秀な学生を選んでメタルに関する調査を実施したところ、メタルはストレス発散や欲求不満の解消に役立つ効果が認められたのです(※3)

成績優秀であることは、同時に大きなプレッシャーを抱えることにもつながります。たとえば、自分自身の期待に加え、まわりから過度な期待があると、それがプレッシャーへと変わる場合があります。しかし、研究に参加したスチュワート・キャドワルダー氏は、「メタルを聴くことでそんなプレッシャーを一時的に忘れ去ることができるのかもしれない」とコメントを残しています。つまり、一時的にストレス耐性を上げるわけですね。

このようなことからも、「メタルなんか聴くと頭に良くない!」といった意見が、いかにステレオタイプで短絡的な見方であるかがおわかりになるはずです。

別に成績優秀者に限らず、社会人なら多かれ少なかれストレスを感じて生きています。少なくとも自分自身を不安傾向から守り、「ここぞ!」というときに力を発揮できるようにするためには、「メタルも役に立つかもしれないな」という認識を新たに持っていただけると良いと思いますね

中野信子「ヘヴィメタルは頭が良くなる音楽」インタビュー05

※1:『The Mystery of the Mozart Effect: Failure to Replicate』 July 1,1999, Psychological Science, Kenneth M. Steele, Karen E Bass, Melissa D. Crook
https://journals.sagepub.com/doi/10.1111/1467-9280.00169

※2:『Muting the Mozart effect』Dec 11,2013, The Harvard Gazette
https://news.harvard.edu/gazette/story/2013/12/muting-the-mozart-effect/

※3:『Gifted Students Beat the Blues With Heavy Metal』 March 19,2007, University of Warwick, Stuart Cadwallader and Professor Jim Campbell
https://warwick.ac.uk/newsandevents/pressreleases/gifted_students_beat/

【中野信子さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ヘヴィメタルは「不安解消」に効く! 手術中の外科医も好んで聴く “残酷な音楽” の力

メタル脳 天才は残酷な音楽を好む

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【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。東日本国際大学特任教授。1975年生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から2010年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。脳科学、認知科学の最先端の研究業績を一般向けにわかりやすく紹介することで定評がある。コメンテーターとしてテレビ番組に出演する傍ら、ベストセラーも多数。近著に『サイコパス』(文春新書)、『あの人の心を見抜く脳科学の言葉』(セブン&アイ出版)、『ヒトは「い
じめ」をやめられない』(小学館新書)、『不倫』(文藝春秋)などがある。

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