「成長する人」は嫌な気持ちを “道具” として活かす。「成長できない人」はそれを “攻撃” に使う

中野信子さん「嫌な気持ちとの向き合い方・活かし方」01

私たち人間は、「妬み」や「怒り」といったネガティブな気持ちをたくさん抱えながら生きています。そんな「もやもや」した気持ちは気分のいいものではないため、きれいさっぱりなくしたほうがよさそうに思います。

しかし、脳科学者の中野信子さんは、「解消しようと頑張らず、嫌な気持ちをどう活用するか」がポイントだと語ります。嫌な気持ちに振り回されないために知っておきたい、嫌な気持ちとの「向き合い方」「活かし方」です。

写真/川しまゆうこ

「もやもや」は、自分を成長させるエネルギーに変わる

私は、「妬み」や「自信のなさ」「怒り」といった、いわゆる「もやもや」する嫌な気持ちは、あまり解消しようと頑張らないほうがいいと考えています。

なぜなら、嫌な気持ちを感じることができているということは、自分を成長させるエネルギーに変えられるからです。

わかりやすい例を挙げると、SNSで知り合いの投稿を見て、うらやましくなることがあると思います。でも、そのときの妬みの気持ち自体がダメなのではなく、それが「相手への攻撃」として出力された場合に問題が生じるのです。

「この人、腹が立つから変な噂を流してやろう……」。そんな感情になると、一時的には気が晴れるのかもしれませんが、そんなことをしても誰の得にもなりません。

そうではなく、「あの人ができないことを私はしよう」「あの人に少しでも追いつこう」と、「自分の成長」に出力先を切り替えることで、「もやもや」は新しいものへ挑戦させてくれる原動力になります

エネルギーをわざわざ捨ててしまうのは、とてももったいない。嫌な気持ちは、自分を成長させる機会を得るきっかけにしましょう。

人類の歴史は、「妬み」とその克服の歴史

「妬み」の感情は、脳の「前頭前野」という部分で処理しています。知識や言語体系を生み出す部分でもあり、人間の脳においては、この前頭前野の領域がほかの動物よりも多くを占めています。

よく「自分の頭で考える」と言いますが、それは脳の前頭前野を働かせることとほとんど同義です。人間がここまで進歩し社会を発展させてきた原動力は、まさにこの部分の働きにあると言えるでしょう。

前頭前野で生み出される妬みの感情は、いわば銃や刃物のようなものです。相手を傷つけるために使うと危険ですが、うまく使えば、とても便利な「道具」になりえます

たとえば、誰かを妬んだときにその気持ちを克服しようとすることで、自分自身を成長させることができます。自分にはないものをもつ者に追いつこうと試行錯誤し、新しい発明をすることもできるでしょう。そうして妬みをエネルギーに変えることで、人類はここまで成長してきたとも言えます。

その意味では、人類の歴史は、いわば「妬み」とその克服の歴史とも言えるのではないでしょうか。

妬みは一般的に嫌な気持ちなので、すぐにでもなくしたいと思うかもしれませんが、人間である以上なくなりません。

むしろ、「道具」としてうまく活かすことを考えるほうが、いいことをたくさん生み出す可能性が高まるでしょう。

中野信子さん「嫌な気持ちとの向き合い方・活かし方」02

「あの人の何が妬ましいのか」を紙に書き出すと、「自分が本当に欲しいもの」が見えてくる

自分が誰かに妬みの感情をもったときは、「相手のどんな部分に妬みを感じるのか」を、突き詰めて考えてみてください。

自分よりも頭がいい、年収が高い、容姿が美しい……。たいていの場合、妬みの要因となるものが複数あるはずです。気分はあまりよくないかもしれませんが、ひとつずつ明らかにしていきましょう。

ポイントは、それらを紙に書き出すこと。

頭だけで考えていても、気持ちが乱れるばかりで、妬みの感情はなかなか解消に向かいません。紙に書き出すことができたら、次はその妬みのリストを見て、「自分はどうすれば満たされるか」を考えてみてください。自分が本当に欲しいもの、自分がありたい状態を思い描くのです。

それは相手と同じ土俵に立ち、相手を超えることかもしれません。あるいは、相手がもっていない能力を磨くことかもしれません。自分のやるべきことが明確になれば、妬みの感情があなたのエネルギーへと昇華されていきます

妬みの感情に振り回されず、むしろ徹底的に向き合うことで、妬みをいいかたちで転換していく道筋を描くことができるはずです。

自分の「売りポイント」がはっきりしていれば、自信を失うことはない

つい他人と比べて自信を失いがちな人は、「自分と他人はこんなに違う」という事実を確認する意味でも、あらかじめ自分の「売りポイント」を明確にしておくといいかもしれません。

要は、「己を知る」ということです。自分の経験や実績、自分のいいところなどを、「売りポイント」として語れるように洗い直しておきましょう。

実際に文字で書き出していくと、思考を客観視できて案外いろいろなポイントが見つかるはずです。他人がどう思おうと、自分が自信をもてるのであればどんなに些細なことでも構いません。どんどん書き出してみてください。

こうして普段から「売りポイント」を意識していると、少しずつ自信を養うことができます

誰かに酷いことを言われたとしても、「あなたがどう思おうと自由だけど、私はこれを誇りに思っているので、それをけなされるのは困る」と、きっぱり言い返せるようになります。

そんな経験の積み重ねによって、少しずつ自信が育まれていくはずです。

「怒り」は、攻めよりも守りに役立つ

「怒り」の感情に振り回される人もたくさんいます。これも妬みの感情と同じで、相手を傷つける方向に出ると、破滅的な結果以外は何も生み出しません。

そもそも、やみくもに怒ってなにかを主張しても、たいていの場合、相手の心には届かないでしょう。言いたいことを伝えるときにただ感情にまかせて怒ってしまっては、肝心の伝えたい中身が伝わらない可能性が高いことを知っておく必要があります。

もちろん、相手に舐められてはいけない場面に限っては、意識的に怒ってみるのもひとつの方法です。キレるそぶりを見せて、相手に「この人は怒ると怖いんだな」と思わせることが、自分を守るための大切な力になる場合もあるからです。

要するに、「怒り」もまた使いようなのです。

私たちは、怒りの使い方を教えてもらうことなく大人になっていきます。これはつまり、ナイフの使い方を練習しないまま、ナイフを持たされるようなもの。怒りの扱い方を知らないから、いきなり相手をぐさりと刺してしまい、取り返しのつかないことになってしまう場面もしばしば見かけます。

でも、怒りは使い方の練習をすることで、無遠慮に踏み込んでくる相手をいなしたり、牽制できたりもする——。自分を守るための、心強い武器として活用するものになりえるのです。

※今コラムは、『脳を整える 感情に振り回されない生き方』(プレジデント社)をアレンジしたものです。

【『脳を整える 感情に振り回されない生き方』より ほかの記事はこちら】
「協調性の高い人」は「収入が低い」。 “同調してばかり” の人が成功できない納得の理由
欠点を認識できるのは、「知性が高い」証拠。嫌な気持ちを紙に書き出せば、冷静に向き合える

脳を整える 感情に振り回されない生き方
中野信子 著
プレジデント社(2021)

中野信子さん『脳を整える 感情に振り回されない生き方』

【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者・医学博士・認知科学者。1975年、東京都に生まれる。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学などで教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を活かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。著書には、『サイコパス』『不倫』(ともに文藝春秋)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』『ペルソナ』(ともに講談社)、『悩みと上手につきあう脳科学の言葉』(プレジデント社)などがある。

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