「協調性の高い人」は「収入が低い」。 “同調してばかり” の人が成功できない納得の理由

中野信子さん「社会や環境からの圧力に負けない方法」01

人類は誕生以来、「集団」をつくって外敵から身を守り、今日まで生き延びてきました。その長い歴史を経て、私たちには、集団を維持、社会に適応して生きるための本能的な仕組みが備わっているのです。一方、集団を維持するために、そこから外れる「異質な存在」を排除する仕組みも同時にもっています。この仕組みがさまざまな災難をもたらし、身近なところでは、いじめやネット上のバッシング、ヘイトクライムというかたちで顕著に現れています。

「集団」に生きるからこそ、私たちは集団に関係する脳のメカニズムを知り、社会や環境からの圧力を見極め、それらに負けない方法を知っておく必要があるのです。脳科学者の中野信子さんが、その方法を教えてくれました。

写真/川しまゆうこ

人は、まわりから言われることに合わせて生きてしまう

古くから集団をつくって生きてきた人間は、社会からの同調圧力に影響を受けてしまう性質をもっています。

特にいまは、SNSによってあらゆる情報に触れる機会が増え、この傾向はどんどん強まっているようです。よく「みんな〇〇だと思っている」「みんなが〇〇だから」などと表現しますが、その「みんな」の存在がものすごく膨れ上がったのが、ここ20年における大きな変化ではないでしょうか。

そして、この「みんな」が、「早く結婚しろ」「働かざる者食うべからず」「女はこうあるべき」「男はこうあるべき」などと押しつけてくるわけです。

興味深いのは、「自分」というのは案外曖昧な存在なので、社会から同じことを言われ続けると、いつの間にかその言われたことに合わせようとしてしまうこと。

これは、身のまわりにいる数人程度の規模でも同様です。「あなたは痩せているね」と言われ続けると、なぜかいつも痩せていなければならない気がしてしまうという圧力です。痩せていないとまわりからはみ出すような気がして、生きづらくなってしまうわけです。

まわりから言われることに合わせて生きてしまうと、どんどん生きづらさが増してしまいます

社会からのイメージが私たちに「呪い」をかける

社会に広く浸透しているイメージや固定観念に合わせてしまうことを、ステレオタイプ脅威といいます。人はある集団に属すると、その集団がもつ社会的イメージに自分のパーソナリティーを合わせるように思考し、行動してしまうのです。

なかでも強力なのが、性別によるステレオタイプ脅威でしょう。

かつてアメリカで、男女の学生に「メンタルローテーション(※)」を測る実験が行われました。これは一般的に男性が優位とされる能力で、実験では答案用紙に「性別」と「大学名」を書かせたグループに分けて、女性に、男性のほうが得意なテストであることを意識させる準備操作をしました。

すると、性別を書いたグループの女子学生の正答率が、大学名を書いたグループに対して低い結果になったのです。女性はこのテストが苦手だと意識させられたことで、「私はこのテストでいい結果を出すべきではない」と無意識に自分にブレーキをかけてしまい、パフォーマンスが低下したと考えられるのです。

人は社会から与えられたイメージに従って、簡単に自分で自分に「呪い」をかけてしまう生き物なのです。

※メンタルローテーション:頭のなかで2次元または3次元の物体を回転させ、その物体を認識する能力

中野信子さん「社会や環境からの圧力に負けない方法」02

「協調しすぎる」のは、あまり賢い戦略ではない

「同調圧力」や「ステレオタイプ脅威」はどんな社会にも見られます。

しかし、いまのような変化が激しく多様性に対応することが求められる時代には、まわりに協調するだけでなく、「自分の考え」をはっきりと主張できる力が求められると思います。

まわりにいる誰かが「正解」を知っているわけではなく、ましてや自分が属する社会が正しい方向へ進んでいるかも定かではありません。そんなときこそ、自分の頭で考え、判断し、行動できる「協調しすぎない」姿勢が大切になるでしょう。

ちなみに協調性が高い人は、協調性が低い人よりも収入が低いとする研究結果もあります。協調性が高すぎると、まわりと合わせようとしたり、簡単に他人の意見に同調したりして、その人独自のオリジナリティーを発揮しづらくなることが考えられます。また、安易に同調することで、悪意ある人からつけ込まれる可能性もあります。

協調性そのものは、社会で生きていくうえでたしかに大切な資質かもしれません。しかし、協調しすぎるのは、いまの時代にはあまり「賢い戦略」とは言えないのでしょう。

ほかの多くの人が選んだ「答え」を、人はいとも簡単に受け入れる

物事を選択するときは、多くの人が支持する選択に合わせるほうが楽です。その理由は、脳の消費エネルギーを節約できて、認知負荷が下がるためです。

ビジネスではこの人間の心理を利用すべく、トレンドを生み出そうとします。なぜなら、ある程度の人数さえそのモノやサービスを選んでくれたら、あとは特別な仕掛けをせずとも、多くの人が他人の判断(トレンド)に合わせて勝手に選んでくれるからです。

社会心理学者のソロモン・アッシュは、かつて「同調圧力」についての有名な実験を行ないました。

まず、簡単なテストを被験者ひとりずつに行ない、最初の正解率は95%という結果でした。次に7人のサクラを仕込んで計8人でテストを行ないましたが、このときサクラに誤回答をさせます。すると、なんと被験者の正解率が65%にまで低下したというのです。これは、衝撃的な結果です。

つまり、被験者はほかの多くの人が選んだ答えに影響され、自分の考えを取り下げてしまったというわけです。

このような、多くの人の選択に合わせて安心する心理が自分のなかにあると知っているだけでも、まわりに振り回される機会は減っていくのではないでしょうか。

圧力があろうとなかろうと、「自分の答え」を選択する

いつの時代に生きていても、「こうすべし」という社会からの無言の圧力がなくなることはありません。

そんな社会からの圧力に抗って生きることは、あたかも自由で人間らしい気もしがちですが、「私は圧力に負けない!」とあえて逆のことをしているのもまた、社会からの圧力に振り回されている状態なのではないでしょうか。

そのことで頭がいっぱいであれば、本来自分のために有意義に使えたはずの時間を失います。それもある意味で、圧力に負けている状態です。

大切なのは、社会からの圧力があろうとなかろうと、「自分の答え」をきちんともつ姿勢のほうです。もちろん自分の身を守ることも大切ですから、その「答え」は表明しなくてもいいのです。理不尽な攻撃の標的にならないように注意することも大事なことです。

その注意を払ったうえで、できる限り自分はどうしたいのか、何をしたくないのかといった考えを貫いていくことができれば、何かに振り回されるよりはるかに満足度の高い人生を送っていくことができるでしょう。

※今コラムは、『脳を整える 感情に振り回されない生き方』(プレジデント社)をアレンジしたものです。

【『脳を整える 感情に振り回されない生き方』より ほかの記事はこちら】
「成長する人」は嫌な気持ちを “道具” として活かす。「成長できない人」はそれを “攻撃” に使う
欠点を認識できるのは、「知性が高い」証拠。嫌な気持ちを紙に書き出せば、冷静に向き合える

脳を整える 感情に振り回されない生き方
中野信子 著
プレジデント社(2021)

中野信子さん『脳を整える 感情に振り回されない生き方』

【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者・医学博士・認知科学者。1975年、東京都に生まれる。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。現在は、東日本国際大学などで教鞭を執るほか、脳科学や心理学の知見を活かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。著書には、『サイコパス』『不倫』(ともに文藝春秋)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』『ペルソナ』(ともに講談社)、『悩みと上手につきあう脳科学の言葉』(プレジデント社)などがある。

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