幸せをつかさどる物質「オキシトシン」が出やすくなる、いい環境といい習慣のつくり方。

幸せをつかさどる物質「オキシトシン」が出やすくなる、いい環境といい習慣のつくり方。01

幸せを感じているときに脳内で分泌される神経伝達物質「オキシトシン」(※オキシトシンの概要については『「幸せ」と感じるときに、わたしたちの脳のなかで起きていること。』参照)。では、意図的にオキシトシンを出す方法はそもそもあるのでしょうか?

ここでは、日々の生活のなかでできる簡単な方法と、オキシトシンが出やすい状態になったときに意識すべきことについて、脳科学者の中野信子さんが解説してくれます。

構成/岩川悟(slipstream) 写真/佐藤克秋

オキシトシンが出やすくなる幸せな環境

オキシトシンを意図的に出す方法を考えてみます。そのひとつの方法としては、皮膚への刺激やスキンシップが挙げられます。

そこで、日常生活では、たとえば自分が着ていて「心地良い」と感じるような服を着ることは効果的となります。別に高価な服でなくても、柔らかいタオルや使い慣れた毛布、好きな肌触りのセーターなど、自分が触って「気持ちいい」と感じるものを身のまわりに増やしていくのはいい方法でしょう。

また、気軽にできる方法として入浴も推奨したいものです。入浴をすると、心身の安定や生体リズム、体温調節などにかかわる神経伝達物質「セロトニン」が分泌されます。そして、セロトニンが増えると、相互作用によってオキシトシンも増えることが明らかになっています。

さらに、音楽を聴くこともおすすめです。このときのポイントは、実際にコンサートなどに足を運んで生の演奏を聴いてみること。なぜなら、耳だけでは可聴域以外の音は聴けませんが、音は耳だけでなく「皮膚感覚」でも聴いていることがわかってきたからです。

実は、わたしたちの体は可聴域より高い音を毛穴から取り込み、低音にいたっては振動覚(物体の振動を感じる皮膚感覚)で受け取っています。つまり、音というのは聴覚だけではなく、触覚でも感じているといえるのです。そして、この触覚がコンサートで「一体感」を味わう感覚を生み出しますが、それは肌を刺激するとオキシトシンが分泌されることが関係しています。

ときに「音に抱きしめられる」という言い方をすることもあるように、ホールでの生演奏には、耳で聴くだけでは得られない満足感があると思います。もちろん、部屋でくつろいで音楽を聴くのもリラックスにはいいのでしょう。しかし、オキシトシンを出させるという意味では、可聴域の音だけでなく、重低音が利いた皮膚感覚の振動覚により強く訴える音楽を、まさに「肌で聴く」ことが望ましいでしょう。

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少しずつ愛情や幸せを感じることに慣れる

また、心地よく幸せを感じながら生きていくためには、人間関係におけるストレスを減らしていくことも重要です。そこで重要になってくるのは、言語スキル。なにかを思ったときに的確に話せるようになることで、コミュニケーション不全が改善され、自分の「幸せ」をつくるための環境を整えることができます(言語スキルの重要性そのものに関しては、次の『幸せのために必要なのは言語スキル! 「言葉」が自分を守ってくれる “最高の武器” になるワケ。』で詳しく解説していきます)。

そうして毎日をなるべく心地良い状態のもとで過ごすことで、オキシトシンが分泌されやすくなり、体内に放出されるストレスホルモンも減らしていくことができます。

ただし、ここで注意してほしいことがあります。それは、オキシトシンに即効性を期待して、毎日柔らかい毛布にくるまって寝ていても、当然ながらいきなり幸せになるわけではないということ。

オキシトシンに限らず、ドーパミンやセロトニンなどの内分泌系は、物質が分泌されることはその効能の一部分に過ぎません。残りの効能は、あたかもキャッチボールにおいては、ボールを投げるだけではなく受け止める相手が必要であるように、オキシトシンのキャッチャーである受容体がそれをきちんとキャッチできなければシグナルは入りません。

つまり、いくらオキシトシンの分泌量が増えても、受け取り手が少なければ、増やしてもあまり意味がないのです。そこで、幼少期の環境などが影響して、その受容体の密度が低い人は、腰を据えて、時間をかけて、自分の脳を変えていく姿勢が必要になります

「愛情」や「幸せ」を感じることに慣れていなくて、オキシトシンを受容しにくいタイプの人は(詳しくは『「幸せ」と感じるときに、わたしたちの脳のなかで起きていること。』参照)、「情」よりも「損得」などで考えるほうがむしろ安心できます。

「この人は自分に優しくすることで得をしているんだ」と、なんらかの合理的な理由が見つからない限り、愛情というものを受け取れないわけです。なぜなら、いつ相手に裏切られるかわからないし、そもそも愛情というものがどんなものかもよくわからないから。そのため、なかなか相手を信用することができないのです。

では、どうすればいいのか――。

そんな人は良き友なりパートナーなり、職場の先輩なりを見つけて、実際に愛情が信用できると実感する作業を繰り返すことをおすすめします。「こんなふうに人を信頼するものなんだ」と、少しずつ学んでいけばいいのです。

「愛情を受け取ることに慣れている人」を見つけるのが難しいかもしれませんが、もし毎日のように会えて、ずっとつきっきりでそんな人の言動に触れることができるなら、半年ほどの短い期間で、オキシトシンの受容体の密度を高めることも可能だと思います。

ただ、職場の先輩などは、週に数回というように会う頻度が限られるので、たとえば少し長めに1年間ほど期間を取って腰を据えて、「この人について学んでみよう」とトライしてみるのもいいでしょう。

最初は、傷ついてしまったり不安が先行したりするでしょうし、そもそも他人が怖くて、どんな人を頼ればいいのかわからないかもしれません。脅かすわけではありませんが、悪意を持った人につかまって騙されてしまうことだって考えられます。相手も自分も、季節的な気分の変動や仕事が猛烈に忙しい時期にあたってしまうこともあるでしょう。よって、うまくいかないことがあっても不思議ではない。いくら慎重に考えても、慎重過ぎないくらいのものかもしれません。

それでも、自分の手本となる人をうまく見つけることができ、その人と接し続けることができれば、考え方や行動のスタイルを知り、観察することで得られるものは大きいはず。情報量が多いため、ロールプレイング的にトレーニングをすることができれば、非常に効率がいいことは間違いありません。

ただ、どうしてもリアルな人間関係が怖い場合は、最初は信頼できるカウンセラーを頼ってみるのも悪くないでしょう。

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※今コラムは、中野信子著『引き寄せる脳 遠ざける脳 「幸せホルモン」を味方につける3つの法則』セブン&アイ出版)をアレンジしたものです。

【中野信子さん ほかの記事はこちら】
「幸せ」と感じるときに、わたしたちの脳のなかで起きていること。
幸せのために必要なのは言語スキル! 「言葉」が自分を守ってくれる “最高の武器” になるワケ。

【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都出身。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。脳科学者・医学博士・認知科学者として横浜市立大学、東日本国際大学などで教鞭を執る。脳科学や心理学の知見を生かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。レギュラー番組として、『大下容子 ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系/毎週金曜コメンテーター)、『英雄たちの選択』(NHK BSプレミアム)、『ホンマでっか! ?TV 』(フジテレビ系)。著書には、『サイコパス』、『不倫』(ともに文藝春秋)、『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)、『シャーデンフロイデ他人を引きずり下ろす快感』(幻冬舎)、『メタル脳 天才は残酷な音楽を好む』(KADOKAWA)、『あの人の心を見抜く脳科学の言葉』(セブン&アイ出版)、『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』(小学館)などがある。

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