皆さんは、自分の強みは何か、将来どんな姿を理想としているか、答えることはできるでしょうか? 即答できない人も多いかもしれませんが、これからの時代、そのままでは少しまずいかも。
自分の経験や思考を整理し、強みや弱み、理想を探る手段としては、就職活動で多くの人が経験したであろう「自己分析」が有効です。「就活なんてまだ先の話……」という人も、すでにビジネスパーソンとして働いている人も、今一度、自分と向き合ってみませんか?
今回は、「メモ魔」として有名なSHOWROOM株式会社社長・前田裕二氏流の自己分析をご紹介します。
「好き」「やりたい」の重要性
「メモ魔」として数々のメディアに取り上げられている前田氏ですが、彼は「自己分析魔」でもありました。前田氏は学生時代、就職活動のために「自己分析ノート」を30冊も書いたのだとか。自己分析本を片っ端から購入し、全ての質問に答えていったのだそう。
前田氏は、これから「個」の時代が来ると述べています。
今までのように、自らの身を組織に委ねることで生きていけた時代が終焉を迎えつつあります。今後は、組織の中でも個人のスキルや仕事力が可視化・フィーチャーされていくし、組織の枠を超えて、プロジェクトベースで働くことも増えるでしょう。(中略)
そこで、「個」として戦う上で必要な基本姿勢やスキルを身につけていないと、気づけば時代に取り残されてしまう。僕たちは今、とてもチャレンジングな局面に立たされていると思います
(引用元:EL BORDE|【前田裕二】日常すべてがビジネスアイデアに変わる戦略的メモ術)
このような、個人のスキルが注目される時代で重要となるのは、「自分は何が好きで、何がやりたいのか」を明確に持つことです。事実、前田氏は自己分析で知った「やりたいこと」に向かって貪欲に進んでいった結果、若くして成功を掴みました。
前田氏は、「個」の時代においては、何かに熱狂している「オタク」が強いと言います。明確に「好き」「やりたい」という気持ちを抱き、圧倒的な熱量を注いでいる彼らは、「個」で戦ううえでそれが武器となるのです。
仕事のうえで「好き」「やりたい」を重視するのは前田氏だけではありません。Googleなどのグローバル企業で人材育成に携わり、現在は独立して2社を経営しているピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、志望先に一貫性がない日本の学生の就活に疑問を呈した上で、こう語っています。
私たちの能力というのは、疑問に思ったことを自分に対して説明できるよう学び、納得、説得させたときに伸びていきます。そういう意味では、数多くの会社を受け、どこかに決まれば……という就活の仕方はもったいない。もっと意図的に自分の興味のあるものを掘り下げて、仮説を立ててチャレンジしていくべきだと思います。(中略)
どこどこの会社に入りたいという視点ではなく、自分の興味、やりたいことから職業を選ぶようなアプローチが必要です。
(引用元:SCIENCE SHIFT|「私のミッションは誰もが自己実現できる世界」元Googleの人材育成責任者が、今、学生に伝えておきたいこと)
これからの時代は、自分の興味を軸に置いた働き方が、やりがいと成功につながります。そして、「好き」「やりたい」を見つけるために欠かせないのが、自己分析なのです。
前田流自己分析の方法
具体的な自己分析の方法をご紹介しましょう。前田氏は、大切なのは形式よりも熱量だと言います。方法は、本やサイトから自己分析の質問を集められるだけ集めて、自分と向き合う強い気持ちを保ったまま、全てに答えていくだけです。
目標は、「これは自分にとって不変の価値観だ」と感じられる軸に辿りつくこと。全てに答えきってもまだ軸が見えてこなかったら、自分で質問を作って問いかけます。
また、「前田流」として重要なのが、単に質問に答えるだけではなく、逐一「具体化(ファクト)→抽象化→具体化(転用)」させることです。
ファクトは見聞きした事実、抽象化はファクトを一般論に落とし込むこと、転用は一般論をほかの分野のアイデアに転用することを指します。
たとえば、「長所はなんですか?」という質問に対し、「聞き上手なところです」と答えるだけでは何も広がりませんよね。しかし、「ファクト→抽象化→転用」を徹底すると、以下のように答えが深まります。
■長所は何か?
「聞き上手なところ」
→どんな経験からそう言えるか?(ファクト)
「よく友人から頼られ、相談を受ける」
→その意味は?・なぜそれが実現できるのか?(抽象化)
「他者への興味と、人のためになりたいという思いがある」
→それは他の場面でどう活かせるのか?(転用)
「ビジネスにおいて、顧客の要望をうまく汲んだ提案ができる」
このような流れで具体化・抽象化を徹底すると、より答えが深まり、汎用性の高い自己分析となります。
前田流の具体化・抽象化については、こちらの記事で詳しく説明しているのでご覧ください。
自己分析をやってみた
前田氏の著書『メモの魔力』の巻末には、前田氏が大学生の時に実際に答えていた「自己分析1000問」が付録としてついています。その中から一部ですが、私も答えてみました。
(プライバシー保護のために一部ぼかし加工を加えています。)
一部を抜粋してご紹介します。
■なぜ自己分析をするのか? その目的は?
(答え)本当にやりたいこと、目指す方向を見出すため。
(ファクト)将来どんな職に就きたいか・就けるか、現時点で具体的なビジョンがない。ハマるものはあっても短期的で、人生をかけられるものが何か分かってない。
(抽象化)理想と現実のギャップがどれほどかわかっていない。熱意が持続しない。
(転用)職種について、就活について調べてみる。まずは今学んでいることを続ける努力。新たな分野と出会う。
■現在の自分の人生の軸はなに?
(答え)芸術。自分が楽しい・美しいと思えるもの。
(ファクト)文芸・演劇・美術・音楽 いくらでも注ぎ込んで良い・最も価値を感じるのは芸術による感動体験。
(抽象化)体験・経験による充実感・感動記憶。無形の感情的なものに価値を感じる。
(転用)ただ体験するだけで終わり? その価値をどう扱っていきたいか→アウトプット・プロデュース。受動ではなく広げる。
お試し程度に冒頭の10問ほどを答えてみましたが、たったそれだけでもかなりの気づきを得ることができました。
ただ、ぽんぽんと答えていくのではなく、具体化(ファクト)→抽象化→具体化(転用)の段階を踏み、ひとつの質問に立ち止まって考えることで、一問一問が自分の価値観と深く向き合うきっかけになったように感じます。書くことで思考が進み、手が追いつかなくなることもあったほど、一問ごとに視界が開けていく感覚を抱きました。
これからさらに回答を続けて、「人生の軸」に近づいてみようと思います。みなさんもぜひ、「自己分析ノート」を作って、自分自身に問いかけてみてくださいね。
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自分の「好き」「やりたい」を探す自己分析。まずは一つの質問に向き合って答えることから、簡単に始められます。あなたも「人生の軸」を探してみませんか。
(参考)
前田裕二(2018), 『メモの魔力』, 幻冬舎.
en-courage|「自己分析」の目的と方法とは?具体例付きでわかりやすい!
unistyle|メモで就活無双できる話 自己分析ノートを30冊書いた前田裕二が唱える「メモの魔力」とは?
EL BORDE|【前田裕二】日常すべてがビジネスアイデアに変わる戦略的メモ術SCIENCE SHIFT|「私のミッションは誰もが自己実現できる世界」元Googleの人材育成責任者が、今、学生に伝えておきたいこと
東洋経済オンライン|前田裕二「可処分精神を奪い合う時代が来る」
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。