ある識者はビジネスパーソンに「もう頑張らないでください」と言います。「頑張れば評価される時代は終わった」というのです。そこで今回は、“頑張らなくていい” の真意を探り、「頑張らない」の正しいやり方について考えてみました。
高い知性をもつ人は怠け者?
2016年に学術誌「Journal of Health Psychology」でオンライン公開された、フロリダ・ガルフ・コースト大学とアパラチア州立大学の研究によると、“考える人(思想家)は、考えない人(非思想家)に比べて、はるかに活動性が低い” とわかったそうです。
研究者らはこの結果が、“考えない人は退屈しやすいので、身体活動で時間を満たす必要がある” という考えに、説得力を与えるとしています。
また、「The Independent」の記事ではこの研究が、“頭のいい人は、アクティブな人よりものんびり過ごす時間が長い” という理論を証明し、“IQ が高い人は退屈しにくく、思考により多くの時間を費やす” といった考えを、裏づけているようだと表現しています(上記、電子ジャーナルのサイトの「SAGE Journals」とイギリスのオンライン新聞「The Independent」参考)。
ちなみに「The Independent」の記事タイトルはこうです。
Research suggests being lazy is a sign of high intelligence
(研究によると、怠け者は知性が高い証拠)
(引用元:The Independent|Research suggests being lazy is a sign of high intelligence/ ※日本語文は筆者が補いました)
これが、頑張らなくていい理由になるわけではありませんが、正しい「頑張らない」について考える際の、大切な要素にはなるはずです。
なぜならば――ビジネスにおいて強者の「知性の高い人」が、思考に時間を費やす怠け者なら、「よく考えれば、頑張らなくていいのかも?」と発想できるからです。もっと建設的に言えば、「行動前によく考えると、頑張らなくていい」になるでしょうか。
これらをふまえつつ、次は識者らの言葉に学び、「頑張らない」の正しいやり方について考えます。
1. 確実にムダを省いてから行動する
モルガン・スタンレーを経て、Google Japanでは人材開発や組織改革などに従事した、起業家・投資家・経営コンサルタントのピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、
がんばりさえすれば評価される時代は、もう終わりました。だから、もうがんばらないでください
と言います。同氏によれば、これからの時代をリードするのは “こんな人” なのだとか。
もっと主体的に動き、学び続け、成長し続ける人です。ゼロから新しい価値を生み出し、自分にしかできない仕事をつくり出し、「社会にインパクトを与えるような仕事をする」という大きなミッションと情熱を持つ人です。
筆者からすれば上記の人物は、ものすごく「頑張る人」のように思えてしまうのですが……。
しかしながら、ピョートル・フェリクス・グジバチ氏の言葉をさらに探ってみると、「これからの時代をリードする人」と「頑張る人」には、大きな隔たりがあるとわかります。同氏が言う「頑張る人」には、こんな特徴があるからです。
できるだけ頭を使って課題をこなすというよりも――
- 人に頼まれた仕事で毎日忙しい
- たくさん作業することで問題を解決しようとしている
- 周囲にどう思われるか心配で、いつも手を動かしている
- 効率よく最大限にアウトプットしようという意識が弱い
- 目先の仕事に追われるばかりで疲弊しそう
- その仕事の意味をじっくり考える余裕がない
そのせいで、自分の仕事を心から楽しんだり、自分がやりたいことや、人生のミッションを追いかけたりすることができない。
確かにこれでは、時代をリードするどころか置いてけぼりになってしまいそうです。だからこそ、ピョートル・フェリクス・グジバチ氏はこう説きます。
「インパクトが大きい仕事をする」ときに大切なのは、あれもこれもこなそうとするのではなく「ムダを捨てること」だということです。それは作業をがんばることではなく、むしろがんばらないことです。
(枠内の参考元および引用元:ピョートル・フェリクス・グジバチ著(2019),『ゼロから“イチ”を生み出せる! がんばらない働き方』,青春出版社.)
「ムダを捨てる=頑張らない」ならば、ピョートル・フェリクス・グジバチ氏の言葉から学ぶ、「頑張らない」の正しいやり方は、
と言えるかもしれません。先に挙げた「行動前によく考えると、頑張らなくていい」の法則にも、少なからず当てはまるのではないでしょうか。たとえば、
あれもこれも資料を集めて、まとめるのに大変な思いをしたうえに、情報を詰め込みすぎて、わかりにくい企画書が期限ギリギリにできてしまうより――
まずはどれがムダな情報かよく考え、資料を厳選したうえで作業を進めたほうが、まとめるのが簡単で、早々に仕上げることができ、内容も一貫してわかりやすくなる――
といった具合です。高い評価につながるのは、もちろん後者のはず。
2. 自分への要望を理解してから行動する
『非学歴エリート』(飛鳥新社)の著者で、株式会社MCJの代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)の安井元康氏は、頑張っても評価されないと悩む会社員に対し、
「評価されない」という人の多くは、「何をもって評価されるのか?」という根本を理解していないケースが非常に多い
と伝えています。その逆に、仕事で高い評価を得ている人は、求められていることを理解しているので、それに見合った方向で効率よく結果を出せるのだとか。安井氏いわく
「行き先が見えないしわからないけど、とりあえず走り出したので、走ったことを評価してください」といっても、求められている行き先とまったく反対の方向に行っているのであれば評価されるはずがありません。
とのこと。ならば、これも先に述べた「行動前によく考えると、頑張らなくていい」の法則に当てはまるはず。次の違いが成否を分けるからです。
- 「何が求められているのか」よく考えずに突き進む:評価されない
- 「何が求められているのか」よく考えてからその方向に進む:評価される
ただし安井氏は、
まず努力する前に、どこに向かって、どんな努力をするべきなのか、をキチンと理解するようにしましょう。
(引用元:東洋経済オンライン|「頑張っているのに評価されない」嘆く人の勘違い)
といった具合に「努力」と表現し、「頑張らない」とは説いていません。したがって安井氏に学ぶ「頑張らない」の正しいやり方は、企業あるいはクライアントが
と言えるのではないでしょうか。自分が進む道を整備して、ナビゲーションを設定したうえで進むわけです。この努力は、とても快適で効率的だと思いませんか?
3. 自分が納得できる環境で活動する
ちなみに前出の安井氏は、このようにも述べています。
何をもって評価されうるか、はその組織や職場の価値観でもあるのです。
その価値観が自分に合うのか否か、要は自分がしたいと思える努力であるか否か――。
(引用元:同上)
こうした理解のためにも、職場の基準を理解することは大事なのだとか。つまり「その組織の評価の基準」=「その組織の価値観」であり、それらの理解は、自分がそこで「力を込められるかどうかの判断基準」になるということ。
また一方では、アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立した、経済評論家・中央大学ビジネススクール客員教授の勝間和代氏が、このように述べています。
環境が整っていないところで自己啓発したり、意志力を発揮しようと頑張ったりしても、疲弊するばかりです。それであれば、わざわざ自分磨きをしなくても能力を発揮できる環境を選び、整えることが、確実に成功に近づくコツといえます。
(引用元:PRESIDENT Online|「真面目にコツコツ頑張る人は年齢とともに厳しくなる」40代役職無しの人が持っておくべき"代替プラン")
ならば安井氏や勝間氏の言葉から学ぶ、「頑張らない」ための正しいやり方は、
と言えるのではないでしょうか。「頑張らない」ということを正しく実践し、正しく評価されるためには、自分の気持ちに聞き耳を立て、受け身ではなく主体的に選択しようとすることも大切なわけです。
誰もが知る有名な企業だから、最近人気がある仕事だからという判断基準で選んだステージより、他者が理解するかどうかはわからないけれど、自分との価値観が合致している場をステージにしたほうが、ずっと快適に輝けるはずです。
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識者の言葉に学び、「頑張らない」の正しいやり方について考えてみました。よろしければヒントにしてみてくださいね。
(参考)
ピョートル・フェリクス・グジバチ著(2019),『ゼロから“イチ”を生み出せる! がんばらない働き方』,青春出版社.
SAGE Journals|Journal of Health Psychology|The physical sacrifice of thinking: Investigating the relationship between thinking and physical activity in everyday life
PRESIDENT Online|「真面目にコツコツ頑張る人は年齢とともに厳しくなる」40代役職無しの人が持っておくべき"代替プラン"
The Independent|Research suggests being lazy is a sign of high intelligence
東洋経済オンライン|「頑張っているのに評価されない」嘆く人の勘違い
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