「人間関係で否定的な考えにとらわれやすい……」
「日々の仕事や勉強が負担。モチベーションは下がるばかり……」
そんな「心が疲れやすい人」は、言葉に注意を向けてみましょう。じつは、口癖を変えてみるだけで、思考の転換も図れるかもしれないのです。
今回の記事では、「心が疲れやすい人」が言いがちな言葉と「心が疲れない人」になるためにぜひ言いたい言葉を、シチュエーション別にご紹介します。
勉強と仕事の両立について悩んだとき
- 心が疲れやすい人は「疲れた」と言い、
- 心が疲れない人は「お疲れさま」と言う。
働きながら勉強するのは大変だ……と感じたとき、つい「疲れた」と言っていませんか?
『脳に悪い7つの習慣』の著者・脳医学者の林成之氏は、「疲れた」という口癖は、脳のパフォーマンスを下げると指摘します。その鍵を握るのが、感情をつかさどる脳の「A10神経群」という部位。脳に入ってきた情報は、A10神経群を通じて、「この情報はいいな」「この情報は嫌な感じ」と感情のレッテルを貼られます。ここで否定的なレッテルを貼られた情報に対しては、脳は活発には働かないのだそう。
たとえば、勉強前に「仕事で疲れた。勉強するのつらいな……」と言う癖があると、勉強自体にマイナスの感情が生まれ、本当に苦痛を感じてしまうのです。
また、臨床心理士の山名裕子氏によると、耳から入った「疲れた」という言葉は、脳に「自分はいま疲れているのだ」と認識させる指令となるそう。それにより自律神経の乱れが生じ体が疲れたり、精神的に余裕がなくなったりすると言います。疲れたからといって素直に「疲れた……」と口にしても、いいことは何もないのです。
とはいえ、疲れているときにポジティブな言葉はなかなか言えないものですよね。そこでぜひ使いたいのが「お疲れさま」という言葉。
山名氏によれば、「疲れた」を「お疲れさま」に言い換えれば、自分を励ますニュアンスになり、心身に活力をもたらせるのだそう。仕事の合間を縫って勉強をする自分に、ひとこと「お疲れさま」と労う言葉をかけてみてくださいね。
対人関係について悩んだとき
- 心が疲れやすい人は「〇〇のせい」と言い、
- 心が疲れない人は「〇〇のおかげ」と言う。
仕事やプライベートの人間関係で悩んだとき、心を疲れさせるのは「〇〇のせい」という口癖。
たとえば、上司が不機嫌なときに「自分のせいで上司は不機嫌なのかも……」と強く感じてしまう人は注意が必要です。公認心理士の川島達史氏は、強すぎる罪悪感は心身にネガティブな影響を与えると言います。
罪悪感によって憂うつな気分が継続すると、睡眠や食欲に問題が生じる恐れがあるほか、自分の行動を制限しがちになるのだそう。「自分は楽しんではいけない」という思いが強まり、ますます心が疲弊するのです。
また、「〇〇のせい」が他人に向くのもよくありません。脳科学者の中野信子氏によれば、他人の不幸を願うような感情を抱くと、ストレスホルモンの「コルチゾール」が分泌されるのだとか。その結果、脳や心身に悪影響が及ぶと言うのです。つまり、「自分が今回ミスしたのはあの人のせい。次はあの人本人がミスすればいい」のように、誰かを貶めるような考えは最悪だということ……。
「自分のせい」「あの人のせい」——このような自責・他責の口癖は心を次第にむしばんでいきます。それを打ち消すために、「おかげで」と感謝の言葉を使ってみるのはいかがでしょうか?
パナソニックの創業者・松下幸之助氏は、感謝と幸福について以下のような言葉を残しています。
感謝の心は幸福の安全弁。その安全弁を失ってしまうと、人間の幸福の姿は瞬時にこわれ去ってしまう。人間にとって永久不変のこの心を大切にしたい
(引用元:PHPオンライン衆知|松下幸之助「感謝の心は幸福の安全弁」)
松下氏が説いたことは、科学的にもうなずけるものです。脳科学者の細田千尋氏いわく、「感謝しやすい人」には以下のメリットがあるとのこと。
- ストレス反応が起こりにくい
- 充実感を得やすい
- 主観的幸福感が高い
- 楽観的になりやすい
もし、自分や誰かを責めたくなったら、「おかげ」という言葉に言い換えてみてください。「あの人のせいでミスをした」ではなく、「ミスをしたおかげで、業務改善のきっかけが得られた」と考える――そんなイメージです。
感謝できることを数えれば、自分や他人を否定して心が疲れることは確実に減っていくはずですよ。
仕事が思うようにいかず悩んだとき
- 心が疲れやすい人は「〇〇すべきだった」と言い、
- 心が疲れない人は「〇〇はできた」と言う。
寝る前に、その日の仕事でうまくいかなかったことを思い出して、「あのとき、〇〇すべきだった」と後悔していませんか? “すべきだった” や ”ダメだった” は、疲れやすい口癖のひとつです。
メンタルコーチの飯山晄朗氏によれば、脳は眠りについた瞬間にその日の出来事を再生するのだそう。日中抱いた嫌な気分を寝る直前まで抱え続け、「これはダメだった、本当は○○するほうがよかった」などとつぶやいていると、睡眠中の脳内で否定的な出来事が何度も繰り返されると言います。
そこで飯山氏が推奨するのは、「〇〇はできた」という具合で、寝る前に “今日うまくいったこと” を思い出す習慣をつくること。脳には「最後を強く記憶する」という性質があるので、一日の終わりにポジティブな感情を抱けば、肯定的な記憶をもてるそうです。
ケンブリッジ大学が2018年に発表した研究でも、ポジティブな瞬間をより多く思い出せた被験者ほど、ストレスレベルが低く、レジリエンスを高められる可能性が示されたそう。ポジティブな出来事を思い出すだけで、疲れにくい心でいられると考えられます。
たとえば「もっと迅速に対応すべきだった」と反省したのなら、「段取りの見直しはできた」「誠実な謝罪はできた」など、些細なものでもいいのでできたことを思い浮かべましょう。疲れた心を引きずらないために、「〇〇はできた」で一日を締めくくってみませんか?
まわりと比較して悩んだとき
- 心が疲れやすい人は「自分なんて」と言い、
- 心が疲れない人は「だからこそ」と言う。
「同僚や友人は成果を出しているのに、自分なんて……」。このように自分を卑下する言葉も、心の調子を崩す口癖のひとつです。
精神科医の樺沢紫苑氏によれば、自分より優れた人と比較する心理を「上方比較」と呼ぶそう。上方比較は、「あの人のようになるためにもっと頑張ろう!」という、向上心のきっかけとなりうるものではあります。しかしながら、ほとんどの人は、優れた人と比較して、自分の欠点を探し出してしまうと樺沢氏。同僚と比べて成果を出せていない、友人と比べて収入が低い——このように他人と比較しては「自分なんて……」と落ち込み続けてしまうのです。
マイクロソフト社共同創業者ビル・ゲイツ氏も、こう警鐘を鳴らしています。
自分のことを、この世の誰とも比べてはいけない。それは自分自身を侮辱する行為だ
(引用元:Forbes JAPAN|ビル・ゲイツの名言10選 「自分のことを、この世の誰とも比べてはいけない」)
そこで、自分のことを自らさげすむ言葉を言ってしまったら、「だからこそ」という言葉に変換してみてください。
前出の飯山氏によると、「だからこそ」は、マイナス面からプラスの側面を見つけるのに有効なフレーズ。もしも「自分なんて仕事が遅くて……」と思ったのなら、「“だからこそ” 丁寧に対応できる」と言い換えるのです。
自分が欠点としてとらえていたことであっても、「だからこそ」使えば美点を見いだせます。自信へとつながり、疲れない心をもてるようになるはずですよ。
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つい口にしていた言葉はありましたか? なにげなく口にする言葉からの影響は大きいもの。あなたの心が少しでも楽になるよう、この記事を参考に言葉を変えてみてくださいね。
(参考)
林成之(2021),『脳に悪い7つの習慣』,幻冬舎新書.
リクナビNEXTジャーナル|疲れた、忙しい…ネガティブな「口ぐせ」をプラスに言い換えるには?
クリスクぷらす|頭の中を埋め尽くす「罪悪感」をどう解消する? 心理学の視点から考える、罪の意識との向き合い方
STUDY HACKER|嫉妬の感情がキケンな理由
PHPオンライン衆知|松下幸之助「感謝の心は幸福の安全弁」
PRESIDENT Online|脳科学者が直伝、1週間で「ご機嫌な人」になれる日記の書き方
東洋経済オンライン|「メンタルが安定しない人」が言いがちな言葉4つ
PubMed|A Systematic Review of Amenable Resilience Factors That Moderate and/or Mediate the Relationship Between Childhood Adversity and Mental Health in Young People
ダ・ヴィンチWeb|他人と自分を比べて落ち込んでしまう、嫉妬してしまうストレスからフリーになるには
Forbes JAPAN|ビル・ゲイツの名言10選 「自分のことを、この世の誰とも比べてはいけない」
【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。