「仕事はスピードが命」とはよく言いますが、どんなに仕事が速くても、ミスや漏れが多い状況ばかりが続くと、評価は下降の一途をたどってしまいます。 ある識者によれば、仕事は “ちょっと速め” くらいが理想的なのだとか。
そこで今回は、仕事がものすごく速いのに評価が低いと悩む人が、「仕事が適度に速くて評価も高い人」になるための、4つのテクニックを紹介します。
ちょうどいい仕事ぶりとは
『デキる上司は定時に帰る 』(PHP文庫)などの著書をもつ、東京海洋大学教授、サイバー大学客員教授の小松俊明氏は、2013年1月15日に公開された「PRESIDENT Online」の記事のなかで、
何か突出して優れている部分があっても、突出してダメな部分があれば台なしになってしまう
と述べ、
一番理想的なのは、一定のクオリティは保ちながらも、スピードは「ちょっと速め」を心がけることだ。
(引用元:PRESIDENT Online|仕事が「雑で速い人」vs「丁寧で遅い人」どちらがエラくなるか?)
と伝えています。
たとえば急ぎでチラシを1,000部つくりたいとき、「通常は発送まで3~4日かかる」という認識があるとして、以下3つの印刷業者が見つかったとします。そのうえで、
- 【業者A】:当日発送も可能だが、仕上がりがひどい
- 【業者B】:1~2営業日後の発送が可能で、仕上がりも悪くない
- 【業者C】:仕上がりは素晴らしいが、10日後の発送になる
だとすれば、客観的に見ても多くの人が “一定のクオリティ” かつ “ちょっと速め” の、【業者B】を選ぶのではないでしょうか。この考え方は「仕事が適度に速くて評価も高い人」を目指すヒントになるはず。
仕事はものすごく速くやっているのに、どうして評価してもらえないのだろう……などと感じるなら、期日よりだいぶ前に仕上げて余った時間を、質の向上に当てるべきなのかもしれません。
なぜ人はミスを見落とすのか
仕事は速くやっているのに評価がいまひとつで悩んでいる人が、仕事の質の向上を図るとすれば、ミスや漏れの防止・予防策が必要となるはずです。そのためにも、なぜ人がミスを見落とすのか把握しておきましょう。
『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』(パレード)を著書にもつフリーランスライターの森末祐二氏によれば、アテンションミス(見落とし)にはふたつの “脳の働き” が関係しているそうです。
そのひとつは【ワーキングメモリ】。ワーキングメモリとは、いま注意を向けていることに関する情報を、短いあいだ脳内に保持して、同時に処理する(理解する)能力のこと。会話や読み書き、計算など、あらゆる活動を支えているといいます(参考:「PHP人材開発」内記事・「児童・生徒のワーキングメモリと学習支援(広島大学)」の説明・「岩手大学」サイト内の岩木信喜氏による説明)。
しかし、このワーキングメモリには「容量が小さい・脳に定着しない・短いあいだ便宜的に働く」といった特性があるため、森末氏はこんな側面も伝えています。
自分ではしっかりと注意を向けているつもりでも、隅々まで目が行き届いていないことがよくあります。そして、よく見えていないのに「わかったつもり」になり、大事なことを見落としてしまうアテンションミスが発生するのです。
(カギカッコ内参考元および引用元:PHP人材開発|「よく見たつもり......」アテンションミスはこうしてなくす! 太字による強調は編集部にて施した)
また、アテンションミスを引き起こす原因として、森末氏がもうひとつ挙げているのが【文脈効果】という現象です。
十文字学園女子大学「錯思コレクション100」内にある説明を参考にすると、たとえば下記のように「A」と「C」のあいだに数字の「13」があった場合、
A 13 C
一瞬「13」が、アルファベットの「B」にも見えてしまうのではないでしょうか。手書きであればなおさらのこと。このように、私たちの知覚や認知は、情報の前後関係によって変化するわけです。これが文脈効果なのだとか(ここまで十文字学園女子大学「錯思コレクション100」参考)。
ならば、本来は「A・B・C」であるものが「A・13・C」と書かれていても、脳が「A・B・C」だと判断してしまうかもしれません。だからこそ森末氏は、
変換ミスで同音異義語を入力していたり、あるいは脱字があったりしても、脳が勝手に「補正」して正しい意味で受け取ってしまい、ミスを見逃してしまう
(引用元:同上)
と言います。たとえば「報告を見るかぎり、検査結果は問題ありません」と書いたつもりが、変換ミスで「報告を見るかぎり、検索結果は問題ありません」になっていても、脳に自動補正されてしまい、そのミスに気づけないわけです。
完璧な人間などいないとすれば、「仕事が適度に速くて評価も高い人」は、こうしたミスを見落とさないよう、精度の高い確認作業を行なっていると考えられるでしょう。次項では確認作業の精度を上げるテクニックと、ミスを減らすコツを紹介していきます。
1. 指さし確認
各種センサや測定機器など、企業向けの機械装置を自社で開発・製造販売を行なう株式会社キーエンスの、「ものづくりの現場トピックス」内の記事には、
指さし確認は昔から行われているアナログな手法ですが、ヒューマンエラーの発生率を大幅に下げることが確認されています。
とあります(※ヒューマンエラー:人的ミス)。その理由は、指をさし発声することで、次の効果が生まれるからです。
- 対象に視線がとどまり、正確に視認できる
- 対象への意識が集中し、緊張感が高まる
- 目視・指さし・発声の多重確認なので、確認の精度が高まる
- 指をさして確認という動作でタイムラグができ、焦りによる確認不足を防ぐ
- 発声や指さし動作の筋肉運動が刺激となり、脳の認知機能を活性化する
(引用元および枠内の参考元:キーエンス|意識しだいで効果が変わる!?指さし確認でヒューマンエラーを軽減)
前出の森末氏も、アテンションミスを防ぐ最もシンプルな方法として、この指さし確認を挙げており、指でさした対象にしっかりと注意が向くと伝えています(前出の「PHP人材開発」記事参考)。
発声が難しい状況だとしても、「ものづくりの現場トピックス」が挙げた内容を見るかぎり、指さしだけでも大いに効果がありそうです。状況に応じて調整しながら、ぜひ取り入れてみてくださいね。
2. 回を重ねてミスを小さくする
微小洩れ測定法開発で科学技術長官賞を受賞した経験をもつ、コンサルソーシング株式会社代表取締役の松井順一氏は、自身の著書『仕事の「ミス」をなくす99のしかけ』(日本能率協会マネジメントセンター)のなかで、次のように述べています。
仕事は、その都度、少しずつ処理するとミスが少なくなります。
その原理はこうです。
たとえば毎日、少しずつ返品伝票が回ってくるような場合――
- 1か月ぶんをまとめて処理しようとすると、1か月ぶんのミスがまとまって数多く見つかる。処理期限ギリギリなので大慌ての対応となる。
- 1週間ごとに処理をすると、最初の1週間で少量のミスが見つかり、期限まで時間があるので余裕をもって処理できる。2週目でもミスは見つかるが、1週目で生じたようなミスは、再発防止に努めているので発生が少なくなっている。
(引用元および枠内の参考元:松井順一著(2014),『仕事の「ミス」をなくす99のしかけ』, 日本能率協会マネジメントセンター.)
松井氏が挙げた例は、伝票の発行元とのやり取り(および先方の意識)をともなうものでした。これをビジネスパーソン個人に置き換えた場合――
たとえば大量のデータ入力を頼まれたとしましょう。すべて終わってからまとめて確認すると、大量のミスや漏れが発覚して、焦り、再びミスしてしまいそうですが……、ひと工程終わるごとに確認作業を行なうと、余裕をもって修正でき、その経験によりミスそのものが減っていくわけです。
仕事が速いあなたは、小さな確認作業を組み込んだとしても、時間にはまだ余裕があるはず。ぜひ試してみてください。
3. 時間を置いてから確認
最終的な確認の際は、いったんその仕事から離れ、時間を置いてから行なうほうがよさそうです。
書いた文章の字句や表現を練り直すことを推敲といいますが、「FUJITSUファミリ会2009年度論文 執筆の手引き」をもとに編集された「第4回 推敲のススメ」には、次のように書かれています。
文章を書き終えたら、少し時間を置いて推敲することで、よりよい言い回しを思いついたり、誤字・脱字などのケアレスミスを見つけることができます。1日くらい時間を置いてから推敲をすると、違う視点で見直すことができることもあります。
(引用元:会報Family - FUJITSUファミリ会|今日から使える「文章作成力」)
前出の森末氏も、「その仕事から一度距離を置いて、意識がリセットされることで、前日に気づかなかったミスが見つかる可能性が高ま」ると述べ、時間を置くと確認の精度が上がるとしています(カギカッコ内、前出の「PHP人材開発」記事より引用)。
仕事の課題をひととおり終えたら、一晩寝てスッキリした頭で、もしくは休憩によりリフレッシュした頭で、あるいは周辺を片づけて気分がスッキリした状態で、最終的な確認作業を行なってみてはいかがでしょう。その、ささやかなリセットが、高い評価につながるはずです。
4. 積み上げチェックリスト
人材育成や研修などを行なう、イントランスHRMソリューションズ株式会社 代表取締役社長の竹村孝宏氏いわく
「チェックリストなんか原始的だ」と思う人もいるかもしれませんが、ミスや漏れを減らして仕事のクオリティーを高めるためには、とても有効な手段です。
とのこと。
(引用元:日経クロステック(xTECH)|仕事の効率が落ちている? ミスを確実に減らす方法)
先の森末氏も脳機能の側面から、チェックリストは有効だと説明。「確認事項があらかじめ決まっていれば、ワーキングメモリの負担が少なくなり、注意すべき事柄に集中しやすくな」ると伝えています(カギカッコ内、前出の「PHP人材開発」記事より引用)。
ちなみに筆者も仕事の確認事項が多いのでチェックリストを使用していますが、パソコンのメモ機能を使い、新しい項目を一番下にではなく、一番上に書き重ねています。こうする理由はこんなメリットがあるから。
つまり、
- 項目が増えても、どんどん上に挿入していくだけなので、毎回下までスクロールする必要がなく、書き足す際の労力が少なくてすむ
- 上部が最新の確認事項となるため、まだ慣れていない項目から始められ、確認作業で脳が疲れ始めても、徐々に慣れた項目になっていく
といった利点があるわけです。加えて森末氏が述べているとおり、チェックリストがあるとその内容に沿って確認していくだけなので、脳への負荷が少ないことも実感しています。驚くほどシンプルですが、本当に漏れが少なくなるのでおすすめですよ。
***
もともと仕事が速いあなたの評価は、少しだけ仕事の丁寧さに意識を向けるだけで、グッと高まるはずです。
(参考)
松井順一著(2014),『仕事の「ミス」をなくす99のしかけ』,日本能率協会マネジメントセンター.
PRESIDENT Online|仕事が「雑で速い人」vs「丁寧で遅い人」どちらがエラくなるか?
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【ライタープロフィール】
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