自分の価値を高めるには「リスキリングするしかない」。ただの学び直しではないリスキリングの本当の意味

後藤宗明さんインタビュー「ただの学び直しではないリスキリングの本当の意味」01

岸田政権が「リスキリングの支援に5年で1兆円を投じる」と表明したこともあり、「リスキリング」という言葉を見聞きすることが昨今増えてきました。その言葉の響きからどんなものなのかなんとなくイメージすることもできますが、その明確な定義とはなんでしょうか。

日本における「リスキリングの第一人者」と言える、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明(ごとう・むねあき)さんが、その必要性とあわせて解説してくれます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

「リスキリング」はただ「学び直す」ことだけを指すのではない

「リスキリング(reskilling)」は、一般的には「学び直し」という日本語訳があてられます。そう言うと、「自分自身で学び直すこと」といったイメージをもつかもしれません。しかし、リスキリングのもとである「リスキル(reskill)」は「新しいスキルを()習得させる」という意味の他動詞です。ですから、「企業」が主語、「従業員」を目的語とした「企業が従業員に新しいスキルを再習得させる」というのが、リスキリングの本来の意味になります。

しかし、現在では、自分を主語とした意味でも広く使われるようになってきました。その原因は、企業に限らず個人にとってのリスキリングの重要性もどんどん高まっている点にあります。

世のなかにあるのは、従業員に対して学び直しの場を提供してくれる企業ばかりではありません。そうであるならば、自ら学び直していく、あるいは学び足していく必要があります。なぜなら、これからの労働市場には大きな問題が立ちはだかるからです。

みなさんも、「AIの進化によって、いまある仕事の多くがなくなる」といった話を聞いたことがあるでしょう。なくなっていく職業に就いている人の場合には、今後の成長が見込める新たな仕事をこなせるスキルを身につけなければなりません。そうできなければ、自分の雇用そのものが危うくなるのです。

そのような、労働力の担い手の労働市場内における移動を経済学用語で「労働移動」といいます。AIの急激な進化によって仕事にあぶれてしまう人をいかに減らせるのか、どうすればスムーズに労働移動を実現できるのかということが、今後、世界がぶつかる大きな問題であり、その解決策としてリスキリングが注目されているのです。

つまり、リスキリングとは、学びによってすでにもっているスキルをアップデートしたり、新たなスキルを身につけたりすることだけを指すのではありません。最終的に新たな業務を担当する、新たな職業に就くところまでを含みます。

そのため、「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」というものがリスキリングの定義となります。

後藤宗明さんインタビュー「ただの学び直しではないリスキリングの本当の意味」02

まず取り組むべきは、リスキリングのための時間の捻出

「リスキリングできなければ、将来、失職してしまうかもしれない……」と知れば、リスキリングの必要性もわかってもらえるでしょう。時代の変化のスピードが加速度的に増していると言われるいま、リスキリングについては「やるか、やらないか」という選択肢はありません。「やるしかない」と、マインドセットを変える必要があります。

しかし、実際にリスキリングに取り組むのは、そう簡単なことではありません。先に、本来のリスキリングは企業が「新しいスキルを()習得させる」ことだとお伝えしました。つまり、取り組むべき仕事のひとつとして就業時間内に行なうものなのです。

リスキリングの重要性を認識している企業のなかには、週のうち1日を従業員のリスキリングだけにあてている会社もあります。複数の事業を営む大企業であれば、ある事業から撤退するようなことになった場合に、その事業に関わっていた多くの従業員を、新規事業など別の事業に移すことも必要だからです。

ところが、会社主導のリスキリングを行なっている企業は、そう多くありません。勤務先がリスキリングを行なっていない会社である人なら、自分でリスキリングをする必要があります。でも、多忙なビジネスパーソンの場合、「目の前の仕事をこなすだけで精いっぱい」という人がほとんどではないでしょうか。

そうなると、日々の業務の効率化によって、リスキリングにあてられる時間をいかに捻出するかが大きな鍵となります。そのためには、デジタル化をまず考えてほしいと思います。もちろん業種や職種によるところもありますが、日進月歩のデジタルツールを積極的に取り込むことで、業務の効率化を図れるでしょう。

日本のビジネスシーンでは、たとえばFAXや紙の手帳を使うといったこともまだまだ見られます。仕事の効率化を阻む大きな敵のひとつは、「あのとき届いたFAX、どこに置いたっけ?」「このあいだいいアイデアをメモしたんだけど、どこに書いたかな?」「次回のミーティングはいつだっけ?」といった「検索時間」なのだと思います。それぞれはわずかな時間かもしれませんが、それらが積み重なれば効率化にとって大きな障害になります。

デジタル化と言うとちょっと大げさかもしれませんが、メールはもちろんチャットツール、デジタルカレンダー、メモアプリなどを使うだけでも、そういった検索時間は大きく減らせますから、それだけ業務を効率化できてリスキリングにあてられる時間を増やせるのです。

後藤宗明さんインタビュー「ただの学び直しではないリスキリングの本当の意味」03

リスキリングできる人の評価はこれから必ず上がる

また、「学んだところでいいことがあるわけではない」という思いを多くの人がもっていることも、リスキリングに取り組むためのハードルになっているように思います。

自ら学んで新たに手に入れたスキルを活かし、大きく売上を伸ばした従業員がいるとします。その売上アップに見合うほど給料が上がればいいのですが、そうはならないという会社も多いでしょう。その従業員からすれば、まさに「学んだところでいいことがあるわけではない」と思ってしまいます。

しかし、これからは必ず変わります。外部環境の激しい変化に合わせて自分をリスキリングし続けられる人の労働市場における評価は、確実に上がっていくと私は予測しています。それこそ、先を見越せるセンスをもった経営者なら、もうすでにそういう人を喉から手が出るほど欲しがっているはずです。

そして、リスキリングはなにより「安心」を自分にもたらしてくれるものだと思います。リスキリングによってこれまでもっていなかったスキルを新たに身につけることは、それだけ将来の選択肢が増えるということでもあります。

それこそ「AIの進化によって、いまある仕事の多くがなくなる」と言われるなか、将来の選択肢を増やすことによって、精神的な安定も得られるのではないでしょうか。

後藤宗明さん

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自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング

自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング

  • 作者:後藤宗明
  • 日本能率協会マネジメントセンター
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【プロフィール】
後藤宗明(ごとう・むねあき)
一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事。SkyHive Technologies日本代表。早稲田大学政治経済学部卒業後、1995年に富士銀行(現みずほ銀行)入行。2002年、グローバル人材育成を行うスタートアップをニューヨークにて起業し、卒業生約2,000名を輩出。2008年に帰国し、米国の社会起業家支援NPOアショカの日本法人を2011年に設立後、米国フィンテック企業の日本法人代表、通信ベンチャーの国際部門取締役を経て、アクセンチュアにて人事領域のDXと採用戦略を担当。2021年、日本初のリスキリングに特化した非営利団体、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。2022年、AIを利用してスキル可視化を含むリスキリング・プロセス支援を可能とするカナダ初のリスキリングプラットフォーム、SkyHive Technologiesの日本代表に就任。石川県加賀市「デジタルカレッジKAGA」理事、広島県「リスキリング推進検討協議会/分科会」委員、経済産業省「スキル標準化調査委員会」委員、リクルートワークス研究所客員研究員を歴任。日本全国にリスキリングの成果をもたらすべく、政府、自治体向けの政策提言および企業向けのリスキリング導入支援を行う。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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