リモートワークが増え、通勤のストレスが減り働きやすくなった一方で、仕事のスピードが落ちたり、「人の目がないとどうにもやる気がおきない」と感じたりしている人は多いでしょう。
Unipos社が、全国のテレワークを実施している社員を対象に行なった調査によると、チームの生産性がテレワーク開始前と比較して「とても低くなった」「やや低くなった」と回答した人の割合は44.6%だったのに対し、「とても高くなった」「やや高くなった」と回答した割合はたった7.6%。
多くのリモートワーカーが直面する生産性の低下を防ぐために、在宅勤務を怠けずはかどらせる方法を4つご紹介します。
つい怠けてしまう理由
そもそも、私たちはなぜ怠けてしまうのでしょうか。これには、ヒトが進化の過程で生き延びるために構築した行動原理が関係しています。オックスフォード大学の心理学教授であるニール・バートン氏が、心理学雑誌Psychology Todayに以下の説を語りました。
“Our nomadic ancestors had to conserve energy to compete for scarce resources and to fight or flee enemies and predators. Expending effort on anything other than short-term advantage could jeopardize their very survival.(中略)Today, mere survival has fallen off the agenda, and it is long-term strategic activity that leads to the best outcomes. Yet, our instinct is still to conserve energy, making us reluctant to expend effort on abstract projects with delayed and uncertain payoffs”
(私たちの祖先は、生存のために乏しい資源を求めて競争し、敵や捕食者と戦ったり、逃げたりするために、エネルギーを節約しなければなりませんでした。短期的に結果が出ること以外にエネルギーを注ぐことは、彼らにとって命とりだったのです。(中略)現代の私たちにとって生存できることは当たり前で、長期的で戦略的な行動こそがよい結果につながります。しかし、いまでも私たちのなかに「エネルギーを節約しなければ」という本能が残っているため、結果が出るまで時間のかかる行動に力を費やすことを嫌うのです。)
(引用元:Psychology Today|The Psychology of Laziness ※カッコ内の和訳は筆者が補った)
たとえば、仕事の資料をつくろうとしても、完成までに数時間はかかるし、その資料を使ったプレゼンが評価されるかどうかは今日中にはわからない。その一方で、コーヒーを淹れてソファで飲めば、すぐに快適でいい気分になれる……。こういうとき、後者を選んでついついだらけてしまうのには、私たちの本能が関係しているようですね。
とはいえ「本能だから仕方ない」と開き直っていいはずはありません。仕事をはかどらせる方法を4つご紹介しますので、どれかひとつでもやってみてください。
1. とりあえず10分やってみる
カールトン大学の心理学教授で、「先延ばしグセ」について研究するティモシー・フィチル氏によると、人は【目的に向かって行動することを容易に感じる人】と【苦痛に感じる人】の2種類に分かれるそう。前者は行動志向(すぐに行動する性質)なのに比べ、後者は慣性(同じ状態を続けようとする性質)が強く、自分が行なうタスクについて不確実性、退屈、苛立ちなどを感じやすいタイプです。
慣性の強い人はある意味、完璧主義とも言えます。行動する前に「本当にやるべきことなのだろうか」「もっといいやり方はないだろうか」「失敗しないだろうか」と考えるのに時間を費やしてしまうのです。
フィチル氏は、こういうタイプの人が先延ばししないコツとして、「10分ルール」をすすめています。仕事を始めるとき、あまり気分が乗らなかったとしても、とりあえず10分やってみるのです。10分やってから、まだ続けたいかどうか考えましょう。始めるまでは大変かもしれませんが、一度仕事を始めてしまえば、続けることはそれほど苦痛ではなくなるはずですよ。
2. 仕事着に着替える
部屋着のまま在宅ワークをしていませんか。仕事に集中できないのは、家にいるからではなく、家用の服を着ているからかもしれません。
ハートフォードシャー大学の心理学教授カレン・パイン博士によると、服装には思考や気分を変える働きがあるそう。
When we put on an item of clothing it is common for the wearer to adopt the characteristics associated with that garment. A lot of clothing has symbolic meaning for us, whether it's 'professional work attire' or 'relaxing weekend wear', so when we put it on we prime the brain to behave in ways consistent with that meaning.
(人は着ている服に応じて、その服が表すものを体現した行動をします。仕事着であれ、カジュアルウェアであれ、洋服にはそれぞれ象徴的な意味が含まれていて、何を着るかによって、脳はそれに合わせた動き方をするのです)
(引用元:The New York Times|Mind Games: Sometimes a White Coat Isn’t Just a White Coat※カッコ内の和訳は筆者が補った)
たしかに、ジムに行ってウエアに着替えたとたんに運動のスイッチが入ったり、家に帰って部屋着に着替えるとリラックスできたりしますよね。
ケロッグ経営大学院のアダム・ガリンスキー教授も、衣服には心理学作用があると述べています。同氏は研究で、被験者を【医師の白衣を着るグループ】と【同じ白衣だけれど「画家が着るもの」と説明を受けて着るグループ】に分け、注意力を測るテストを受けさせました。すると、【医師の白衣のグループ】のほうが、画家の白衣だと言われたグループよりも注意力を高く発揮するという結果が出たのだとか。ガリンスキー教授は「服は体も脳も支配し、着ている人の心理状況を変える」と結論づけています。
つまり、在宅勤務だからといって楽な格好をしていると、集中力や注意力が低下してしまうということ。「家だとどうもやる気が起きない」人は、仕事で着る服や、少し気合の入った格好をしてみてはいかがでしょう。
3. 定期的に運動する
ほとんど運動をしない人は、それが怠けの原因になっているかもしれません。エクササイズには、体が引き締まるだけでなく、脳の活性化にも効果があるのです。
リオデジャネイロ連邦大学のフェルナンダ・デ・フェリス教授によると、運動をすると筋肉からイリシンというホルモンが放出され、それが血液を循環することで、脳機能が向上するのだとか。脳が健康な人に比べ、アルツハイマー病をもつ人は体内のイリシンが少ないそうです。
「ただでさえだるいのに運動をしたらますます疲れそうだ」と考える人にお伝えしたいのが、体を動かすことでエネルギーレベルが上がるということ。それを証明するのがジョージア大学の研究です。
実験の対象者は、特に疾患を抱えていないにもかかわらず、慢性的な疲れやエネルギー不足を訴える若者36名。彼らを【軽い運動をするグループ】と【中強度の運動をするグループ】に分け、週に3日ラボでエクササイズに取り組むことを6週間続けさせました。6週間後、どちらのグループの被験者も実験前と比べ、疲れが軽減されたと回答したそう。定期的な運動は、たとえ軽いエクササイズであってもエネルギーレベルを上げてくれることが判明したのです。
健康なのに原因不明の疲れを感じていて、在宅勤務をするのでさえだるいのであれば、ぜひ週に3日の軽い運動を取り入れてみてはいかがでしょう。
4. 感情労働を減らす
意外と見落とされがちなのが「感情」です。医学雑誌British Journal of Nursingに発表された記事によると、emotional labor(感情労働)は、ストレスレベルを上げ、燃え尽き症候群になりやすいのだそう。
感情労働とは、感情を無理に抑え込み、実際とは違う感情を外側に出しながら仕事をすることを指します。接客業や医療の現場などに多くみられますが、それ以外でも、仕事にモチベーションや喜びを感じられていない人は要注意です。
社内研修などを提供するHarmony Strategies Group社の創業者キラ・ヌリーリ氏によると、多くのビジネスパーソンが、自分が何に喜びやモチベーションを感じるか理解しておらず、それが原因で仕事に不満を感じているそう。ビジネスパーソンはもっと、自分にとっての仕事の意義を考える時間を設けるべきだと言います。
感情労働を減らすためには、在宅勤務で行なっている仕事が合わないと感じるなら上司に相談してみたり、雑務が多すぎると感じるなら後輩に頼めるか検討したりするのも、ひとつの手でしょう。通勤がなくなったことで生じた時間を使い、自分が働くうえでの喜びやモチベーションについて考えてみるといいかもしれませんね。
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リモートワークで生産性が下がってしまったり、怠けやすくなってしまったという人は、ぜひ参考にしてみてください。
(参考)
CNET Japan|テレワークで一般社員の4割強が「チームの生産性が低下」--Uniposが調査
Psychology Today|The Psychology of Laziness
The New York Times|Mind Games: Sometimes a White Coat Isn’t Just a White Coat
Forbes|Is Casual Dress Killing Your Productivity At Work?
New Scientist|A hormone released during exercise might protect against Alzheimer's
Research Gate|A Randomized Controlled Trial of the Effect of Aerobic Exercise Training on Feelings of Energy and Fatigue in Sedentary Young Adults with Persistent Fatigue
National Library of Medicine|Emotional labour: learning from the past, understanding the present
Business Insider|13 ways you can be happier at work, according to career experts
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。